鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

芦雁図鐔 山城國伏見住金家

2010-01-13 | 
芦雁図鐔 山城國伏見住金家              


 
芦雁図鐔 銘 山城國伏見住金家
 京都大徳寺に伝えられた襖絵の一、曾我蛇足(じゃそく)筆と伝えられる芦雁図、及び同じく大徳寺に伝えらた小栗宗湛と宗継の親子による芦雁図(延徳二年:1490)を想わせる、金家(かねいえ)の枯れた味わいの鐔。図柄は花鳥山水図の伝統を下敷きとしているが、裏面には、霞む山並みを遠景として芦辺を想わせる川の流れを、干網と共に描いている。薄手丸形に仕立てられた鉄地は色合い黒く、鎚の痕跡が全面に活かされて雲と気の流れを暗示、鉄地高彫象嵌の手法と、なだらかな鋤き出し彫、草木や川の流れには独特の毛彫を加え、ごくわずかに金の象嵌を配している。カランとした鉄板。この肌合いを掌中で、指先で感じとって欲しいのだが、金家の真作は極めて少ない。
 蛇足については不明な点が多い。墨渓に始まる曾我派の絵師が用いた号と考えられ、大徳寺真珠院の創建時代の曽我派の絵師、即ち宗丈とみる研究家もいる。墨渓と共に一休禅師の影響を強く受け、禅の美意識を絵画に取り入れ、その後の我が国の絵画表現に多大な影響を与えたのである。
 金家がこの襖絵を見て自らの鐔に採り入れたことは明白。室町時代の鐔工の多くは同様に古画を手本とし、あるいは和漢の伝説に取材して作画している。再び述べるが、金家の素晴らしいことは、鐔におけるこのような絵画表現の先駆者としてではなく、同時代の京都近郊の風景を取材している可能性が頗る高い点である。この鐔の裏面は、洛西を流れる桂川であろうか、あるいは賀茂川であろうか。