鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

秋草図鐔 古金工

2010-01-21 | 
秋草図鐔 古金工 ・枝菊図鐔 太刀師

 
① 秋草図鐔 無銘古金工

 
② 枝菊図鐔 無銘太刀師

 Photo①は室町時代の古金工の製作になる秋草図鐔。赤銅魚子地を竪丸形に造り込み、耳は金の色絵で覆輪のように仕上げ、図柄は秋の野の様子を写したかのような構成とし、裏には唐草文との組み合わせになる秋草を彫り描いている。表の写実風と裏の文様風は、いわば対極にある表現。立体感を考慮せずにほぼ同じ高さに仕上げ、彫り際に適度に肉を付けることによって立体感と量感を感じさせる手法。主題は菊花で、撫子、桔梗、薄を組み合わせている。色絵は金、銀、素銅。この鐔の魅力は全体を包み込む素朴な香り、鄙びた土の香りと言ってはおかしいだろうか。表には全くと言って良いほど貴族的な風合いが感じられないのだが、裏の文様を見ると、唐草の様式が強く示されていて貴族的な風趣が窺いとれよう。耳には垣根を意匠したものであろうか、篭目状に意匠されている。
 Photo②は室町時代の太刀師(たちし)の鐔。太刀師も言うなれば古金工に含められる存在であり、作者というより、太刀様式の金具を専らとした太刀師の作として分類しているのである。古風な色合いの赤銅地を木瓜形土手耳に仕立て、四方に猪目を切り施し、大切羽を組み合わせている。図柄は葉を茂らせ咲き誇るといった風情の枝菊。菊は、銘酒菊水の呼称でも知られるように、神仙の説話では名水と関わり長寿の薬と考えられている。端午の節句に飾られた薬玉は菖蒲湯と共に薬として良く知られているが、同様に重陽の節句では秋の菊花など薬用植物が茱萸袋(ぐみぶくろ)として飾られたことを知る人は少ない。菊花が文様の題材として良く採られる理由は、このように確かにあるのである。写真の太刀鐔の彫刻は、いわゆる古金工に分類される手法で、図柄部分の高さは比較的抑えられているものの微妙な量感の中に立体感があり、鏨の切り込み手法に力があって図に活かされており、この鐔では特に勢いが感じられる。背景は魚子地。四方に施された猪目(いのめ=ハート形の文様)、備えられた大切羽部分にも小さな猪目がある。