酔漢のくだまき

半落語的エッセイ未満。
難しい事は抜き。
単に「くだまき」なのでございます。

異端の誇り  

2008-09-25 10:19:03 | スコッチウィスキーの話
ウィスキーの初心者向けガイドがございましたら、「ブレンディッドウィスキー」の項目には必ず登場いたします「J&Bアルティマ」です。スコットランド128種ものモルトをブレンドいたしております故、オールスターキャストブレンディドです。
その項目には「現存するすべての94の蒸留所、現在は閉鎖されているが、原酒のストックのある34の蒸留所。これらをブレンド」とございます。
これ、はたと気づくわけです。
以前、スコッチシングルモルトで一度紹介しておりました「グレンモーレンジ」
こいつだけは何故か「J&Bアルティマ」に参加していないのでした。
このお酒の紹介は「樽」がらみでした。熟成樽にこだわりが他のシングルモルトと違った熟成過程をたどっているのでした。そして、何よりもポイントなのは、「ブレンド用として、モルト原酒を一切供給していない」と言う事なのです。
それ、昨日電車の中で思い出しました。
「あれ?『グレンモーレンジ』って、ブレンド用には卸してねかったはずだっちゃ」です。「んで、このめぇ、更新した『J&Bアルティマ』の話はうそだったってことだっちゃ」と。
「訂正とお詫びをブログで語らなければ」と思いました。
ですが、「本屋に行って確かめてみっぺ」と大船のブックセンター(ここは夜10時まで営業)に行って、グルメお酒のコーナーに。
「J&Bアルティマ」を探しました。
書いてありましたのが「スコットランドに現存する全ての蒸留所の原酒をブレンド」です。
「何も、モルトとはかぎらねぇんだべ。グレーンもブレンドされてっちゃ」と言う事です。
ですが、「グレンモ-レンジ」蒸留所は、「モルト」しか作ってないはずです。
しかして、やはり「グレンモーレンジ」は孤高で異端なシングルモルトだったのでした。

スコットランド ハイランド。ドーノック湾の中ティン町にその蒸留所はございます。名前の意味は「大いなる静寂な谷」です。
「ウイリアム・マセソン」さん。この町にございます古いビール工場を買い取りました。ですが、買い取ったところで、資金難。蒸留の要「ポットスティル」が新品に出来ませんでした。「なんとかして2基はそろえてぇっちゃ」と中古品を購入。
これがまたへんてこりんなポットスティル。
「だれが作ったかしゃねぇけんど。こんなんでちゃんと蒸留できんのかや」
と本人が思うほど、異端形のポットスティルだったのでした。

普通のポットスティル(単式蒸留器)は大きく分けて「ランタン型」「バルジ型」
「ストレート型」に分かれております。
ここで少し、ポットスティルを蒸留所で見学された方がおりますれば、お解かりかと思いますが、見学に行きますと皆さん「ポットスティルの上」いわゆる細く管の通った冷却装置への管の方を見るんですよね。「なんで上を見るのかなぁ」と思うのです。この部分もかなり風味に影響をする部分ではあるのですが、一番のポイントは「ネック」と「ボディ」の「くびれの形」なのです。
「くびれているか」「まっすぐか」「くびれがないか(腹が出ている)」が一番のポイントなのです。メタボのお腹にもそれなりに理由があるのです。

ですがマセソンさんのポットステイルはネックが太くてボディも寸胴。しかも、ネックが異様な程高くて5.13mもあるのでした。(スコットランドで一番高い)
かっこのいいポットスティルではないのです。
実は、この中古品、「ジンの蒸留器」だったのでした。
マセソンさんこれを知ったのは後になってから。
「なんだや、知ってたら、かわねかったっちゃ!」と少し後悔いたします。
でもね、やはり「人間万事塞翁が馬」なのですよ。
この異様なポットスティルがあの軟らかい、ほのかに甘みのある「グレンモーレンジ」の風味を作り出すのでした。
シングルモルト自体が市場では大変珍しい1920年代に独自に販売いたします。
そして30年台には、アメリカでブレイク。(甘い系お酒がすきなんだよなぁ、連中は)「あまり宣伝しねぇべ。んでブレンド用にもしねぇっちゃ」とこの頑固爺さん。(マセインさんです)
「まったくおめぇのおかげだべ」とポットスティルを撫でております。
この蒸留所はポットスティルの形を寸分たりとも変えません。まったく同じ材料で同じ寸法で新品を作ります。
今は確か8基ほどあるとか聞きました。
門外不出といわれたシングルモルトです。甘い香りですが、しっかりした味。
「25年」は絶品です。
そして、このお酒の異端ぶりはこれだけではありません。「ウィスキーの仕込み水に硬水は使わない」という常識も覆します。これもこんな感じ。
「水ば引く金がねぇからっしゃ。近くの水ば使ったらっしゃ。これが、まんず『硬水』だったのっしゃ。しゃねぇかったんだおんだれ!(『ターロギーの湧き水』と呼ばれるミネラル分豊富な水。なんと硬度190度)んでも、こいずば使ったらっしゃ。味がよくなったんだおんなや。こげな事もしゃねぇぐて、おしょすいごだ」
この爺さんまったく「酒の神様から愛されてます」
でもね、でもですね、これで終わりじゃぁないんです。
熟成樽です。これは以前にも語りました。詳しくお話いたしましょう。
熟成樽には「バーボン樽」を使います。
「中古のオーク樽よりっしゃ、安かったのっしゃ」
アメリカはケンタッキーより中古のバーボン樽を買い付け、それでモルトを熟成。
これがまた、独特の風味を出しているのでした。
今じゃあの「ジャックダニエル」(このお酒は「バーボン」ではなく「テネシー」です)に製樽して新品を送って、使い古しのを送られて、モルトの熟成に使用しているといった徹底振りです。
スコットランドの人達にこよなく愛されている「シングルモルト」。
つい最近、「アードベック」(アイラ)を買い取っております。ということはですよ。「グレンモーレンジ」→「ジャックダニエル」→「アードベック」→「バランタイン」(「アードベック」は「バランタイン」の核モルトのひとつ)と言った、連合軍が出来上がります。

「ウィリアム・マセソン」さん。愛用のポットスティルを磨きながらこうつぶやいております「金がなかったからっしゃ。全部中古だべさ」
本当に「酒の神様から愛された人」かもしれません。

「J&Bアルティマ」に参加しない?してもらえない?本当のところは・・?
ですが、このポジションこそが、愛される「シングルモルト」としての地位を確立しているのでした。まさしく「異端の誇り」たるお酒なのでした。


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8 コメント

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確かにアルティマだ・・・ (丹治)
2008-09-25 16:44:47
スコットランドの全ての蒸留所の・・・ですか。J&Bは確かにアルティマですね。アルティマ<アルティマット=ultimate。受験生だった時に見たっきりの単語です。

百二十種類以上のモトをブレンドすると、どんな味になるんでしょう。飲んでみたいと思います。例のH&KにJ&Bは置いてあったかしら。今度、斥候に行ってきます。

前にも書きましたが、ブレンディドに使う元首の多さを聴くたびに「凄い」って思うのがブレンダーの味覚と嗅覚です。J&Bのブレンダーに乾杯!
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原酒としてのモルト (酔漢です )
2008-09-25 18:25:49
丹治様へ
原酒として作ってないから「グレンモーレンジ」は「J&Bアルティマ」には参加していないのです。ブレンダーの実力と意地(アルティマのブレンダー氏の名前は解りませんが)そして、シングルモルトにこだわり続ける「グレンモーレンジ」この二つが存在していることが、この世界の奥深さを物語るような気がするのです。
ウィスキーではないのですが。
のみてぇ!デス!
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無知な私 (ひー)
2008-09-25 21:26:40
無知な私には、面白い話しですね~
樽の中古は想像もしていませんでした。それも、全く違う種類の樽に詰めて熟成させるとは?
知らなかったとは言え、型破りの製法が旨い酒を造るとは、本当に酒の神様に愛されていたのでしょう。
マニュアルが正しいとは限らないのですね。
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Unknown (ぱるえ)
2008-09-26 09:27:26
奥が深いお話ですね~
予めいろいろな知識があると、飲むときにまた格別な味わいなのでしょうね。
私には???な世界ですが、酔漢さんのブログを見てお勉強していこうかな~なんて。
より美味しいお酒を楽しむためにも…ねっ♪
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使いまわしの更なる先で・・ (酔漢です )
2008-09-26 22:22:16
ひー様へ
樽の管理にずさんなのか、それとも徹底した裏付けでこうしているのか。さっぱり解らないことがあるのです。
スコッチは新品のオーク樽は使いません。どれも使い古しです。ラム樽だとかブランデー樽とか。
「トリス」の始まりはワイン樽に入りっぱなしになっていたリキュール用アルコールでした。
誰がいつどのように放って置いたか不明。
鳥井氏が「何入ってんだ」と開けましたところ
「うめぇぇ」となって、安いワイン樽でウィスキー原酒を作ったわけです。
「トリスを呑んでハワイに行こう!」
も偶然の産物だったのでした。 
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お酒の顔って (酔漢です )
2008-09-26 22:27:52
ばるえ様へ
お酒ってラベルの意味もそうなんですけど、作り手の顔が見えると面白いと思うのです。
(先だってひー様へも同じコメントをいたしました)ウィスキーにはその顔が出やすいのだと思います。

さて、最新の丹治様からのコメントが「迎え酒は効く?」にございます。
たびたび申し訳ありませんが、ぐずら様へ是非ご紹介下さい。
酔漢も知らなかった本人の「唯梨庵」ネタが語られております。「たがめや」の事も・・
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今更ですが (神奈川のモルト好き)
2009-11-28 22:19:46
実はひょんなことからJ&BのULTIMAを入手した者です。
ULTIMAの箱を見ますと、ブレンド原酒一覧の中にグレンモーレンジの名前の記載はあります。

また、グレンモーレンジは確かに今でこそシングルモルト専用ですが、70年代流通のブレンデットウィスキー、ハイランドクィーンにはグレンモーレンジが使われていたりします。

本記事はブログ記載から1年以上たっておりますが、一応書き込みさせていただきます。
蛇足失礼いたしました。
返信する
神奈川のモルト好き様へ (酔漢です)
2009-12-03 18:16:00
お知らせありがとうございます。
この記事の後、自身で購入いたしまして「グレンモーレンジ」の名前がある事に気づきました。訂正もせず、申し訳ございませんでした。
さて、「J&Bアルティマ」ブレンダーは苦労するだろうなと思いながら、呑みました。
グレンモーレンジは、それこそ、この味の主張が強いイメージがございます。
70年代の「ハイランドクィーン」ですか。名前は知っておりましたが呑んだ事がございません。是非、今度呑んでみようと思います。

本当にありがとうございました。
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