推理作家 道尾秀介さんの素晴らしい一文に同感し、その一部をご紹介致します。
「自分は歯車の一つ」-というのは自虐的な意味合いでよく口にされる表現だけど、僕はこの言葉が嫌いじゃない。歯車というのは、ぜんぶが同じかたちをしていたら複雑な機構は決して成り立たない。
それに歯車というのはそもそも、一つでも欠けたら全体の動きが止まってしまうという、この上なく重要なものなのだ。 自分という歯車のかたちを変えるのか、それともかたちは変えず、ぴったりと填る場所を探すのか。歯車として生きるのならば、人間どうしたってこの2通りの生き方しかできない。歯車はみんな大切なのだから、どちらがいいとはきっと言えないのだろう。ただ、歯車であることを放棄するような人間にだけはなりたくない。
以上が引用文ですが いかがでしょうか この著者は私が言おうとして表現しきれなかったものを見事に文章にして下さいました。個性だ個人だということが声高に主張されますが 組織の中に納まり処のない個性なんかは所詮存続できないわけです。人事労務管理、特に社員教育においてこの視点を持てば新しい展望が開けるのではないでしょうか?
著者は大阪大学大学院情報科学研究科教授です。
帯のキャッチフレーズは 「だから顔写真加工はやめられない!最新科学が明かす驚きのメカニズム」 「毎日眺める ゛自分の顔 ” その深遠さを、私たちはまだ知らない」「ここまでわかった! 脳と顔のふしぎな関係」 とあります。
おもな内容は
●「自分の顔」はVIP扱い! ●つらい時こそ笑顔、は間違い? ●「真の笑顔」と「偽の笑顔」の見極め方 ●偶然できた模様や形が顔に見えるわけ ●過度な加工写真に反応する脳の部位とは ●赤ちゃんはサルの顔も見分けられる? ●人は無意識の瞬きで「会話の間」を共有 ●脳の底にある「顔認識の神経ネットワーク」 ●鏡の前で恥ずかしがるのは人間だけ ●アルバムを眺めるのは高度な能力 ●目は口ほどにものを言う
かなり専門的なお話も多いので、ここで私が参考にしたいことを一部重複して書き出しますと
・他の生物を凌駕する人間の協業能力は、「顔」を通したコミュニケーション能力 (:一瞬にして心情を発受信できる膨大な脳力)を発達させたことによるところ が大き い。 「メラビアンの法則」では、コミュニケーションの実に55%は 表情などの視覚情報から得ているとしている。特に「目」の役割は大きい。
・したがって、顔の表情ひとつ変えるだけで、人間関係をよくすることもできる。 例えば、いつも笑顔を心がけると、本人も気持ちよくなるし、周囲にも好印象を 与えるが、度をこした無理(偽の笑顔等)は逆効果。
・女性の場合は、上手な化粧等も効果的ではあるが、度を越した整形で「うつ」に なることもあるので要注意。
「なるべく多くの人と 無理のない笑顔で 相手の目もしっかり見ながら 楽しい会話を心がければ ボケ防止にもなる」というのが 80代を迎えた私の得た教訓です。
本シリーズの最終稿として、私がこの学びを、コンサルタントとしてどのように活用しているかをお話ししたいと思います。
従業員教育は、従来の講師が 知識を教えるという形は極力避け、皆でディス カッションしながら「なぜ」を従業員全員で追及する形をメインとしました。
具体的には
①全員を1チーム3~5人の小グループに分ける。(全員が意見を言える機会を 確保するため、人数は抑え、半年ごとにメンバーの組み変えを行う) ②当初は経営上の課題(品質事故の防止、社員の定着率向上等)を講師が提示す るが、レベルが向上すれば、課題自体も従業員が討議して決めるようにする。 ③頻度は週一で、講師5分、討議15分を原則とする。(時間を取れない事業所 は、従業員の了解のもとに昼休みに行う) ④月一の頻度で「現在のマイブーム」「私の好物」等のくだけたテーマで”雑談 タイム”を設ける。これはメンバーの人となりを知り、より親密な人間関係を 知るために極めて重要である。 ⑤3か月ごとに全グループ員が集まり代表者から、討議内容の中間報告と、質疑 応答を行う。
以上が小集団活動による従業員教育の方法で、トヨタ式改善活動をほぼ踏襲しています。それにフィンランドの「個の尊重と共創、自らを肯定して、他者も尊重するダイバーシティー(多様性:みんな違ってみんないい)の精神をより意識したものといえましょう。
さらにカウンセラー・コンサルタントとしての私流として加えたものは、まず全員のカウンセリングを行って、それぞれの個性を把握します。一番大切なのが個々人の長所(本人も気付いていないものも含む)を見つけ出すことです。その際には 本人がネガティブに感じている特性を、ポジティブなものに置き換える(リフレーミング)ことです。例えば「粗野」→「力強く活動的」、「気が弱く消極的」→「物静かで慎重」等。これら個々の従業員の特性把握はは講師として個々のグループ、あるいは全体ミーティングの活動に参加して、好評を求められたときに、大いに役立ちました。
本稿では フィンランド教育研究の第一人者、信州大学学術研究院教育系の伏木(ふせぎ)教授のお言葉を引用させて頂きます。
フィンランドに学ぶべきはその教育観だと思います。
すなわち
教育の目的は学力を高めることではなく、ウエルビーイングを高めて、一人一人のの子供たちが自分らしく生きていく自信と勇気、スキルを身に付けることであるという考え方です。
フィンランドの教育関係者の多くは、ウエルビーイングと学力を「両立」するべきものとは捉えていません。ウエルビーイングが最上位にあり、それを高めるために何をすべきかと考える。学力向上は、ウエルビーイングの向上に伴う副次的な成果にすぎないのです。
フィンランドの先生たちは、子供たちの学習権を徹底的に保障しつつ、「子供たちは一人一人違うのだから、出てくる結果も違うはずだ」と考えます。子供たちが全員、同じ授業を受けることを重視するのではなく、一人一人の子供たちが、自分らしく学ぶための環境を整えることを大切にします。
そうした中で、子供たちの自己肯定感や、「自分は自分でよいのだ」という意識を高めていきます。子供たちが社会の中で、どのようにいきていこうかと考え、そのために必要な学びとは何かを自分で選べるようになることを重視しているのです。
日本が好成績を収めたことは、うれしいニュースではありますが、だからと言って「日本の学校はこのままでよいのだ」と考えてはいけないと思います。この成果は日本の教員たちの犠牲の上に成り立っているものです。教員が離職してしまうほどの長時間労働は、世界的に見ても異常です。フィンランドと日本では教員を取り巻く社会的背景が大きく異なるので、単にフィンランドのやり方を取り入れれば良いとは言いません。とはいえ日本の教員の負担を減らし、本来やるべきことに集中できるようにすることは、喫緊の課題です。
以上が伏木先生のお言葉でした。
最後に若干の補足をしますと
フィンランドの授業の特徴は(教員の裁量権が大きく、楽しさ、わくわく感を重視するため、きわめて多彩で個性的)
・教員が一方的に知識を教える部分は極めて少ない
・複数の科目横断的な授業(NHKの「ピタゴラスイッチ」を参照)が多い 国語や数学の授業に、絵画や音楽やかるた作りを取り入れる等
・授業計画に子供を参画させ、時間や方法も子供に選ばせる
・「個別最適な学び」と「協働的な学び」の最適な組み合わせに留意するが、グル ープディスカッションの比重が極めて高い。ペットを参画させたケースもある
・1年のうち少なくとも数週間「実例に基いた教育」を実施するよう義務付けてい る
・生徒の座る位置、方向、グループ分けの人数等も授業内容に合わせ、最適なもの に変化させる
いかがだったでしょうか! これからの日本が目指すべき方向性について、ヒントになる点が多いと感じましたが、どう思われますか?
フィンランドの教育は、幼児教育から初等教育、高等教育、社会人の学び直しに至るまで、幅広く、きめ細かく制度設計されています。これらすべてに言及すると、膨大なボリュームとなりますので、本稿では主に9年間の義務教育に注力して、進めたいと思います。
フィンランド教育における世界的にトップ並びにトップクラスのものを上げますと
*授業日数・宿題の少なさ等。 年間授業日数はOECD中で最も少なく、日本より40日ほど少ない。(塾通 いもないので、固定的な勉強時間はさらに少なくなる)宿題はほとんど出ませ ん。生徒個々人の理解度を確認するための試験はあり ますが、序列をつける試験は一切ありません。(他者と比較しない)したがっ て、学校間の偏差値格差がないため、生徒にとって良い学校とは、自宅に一番近 い学校ということになります。高校入試もなく、 生徒の個性、特性、将来へ のヴィジョン、自宅からの距離等により、総合的な進路判断によって進路が 決定されます。
*読書量が世界一 人口当たりの図書館数がトップで、身近に図書館があります。(自主的学習の 支援)
*手厚い育児・教育支援 ・子供が生まれると、国から母親全員にベビー服や布団、哺乳びんや絵本などの セットが届き、17歳ま での子供全員に月1万7千円程度が支給されます。 ・ 6歳児を対象とした就学前教育は任意参加であるが、ほとんどの子供が参加し 無 償。 ・9年間の義務教育期間中は、授業料が無料というだけでなく、通学手段、食事 (給食)、教科書やアイパッドその他の文具、学用品が無償で支給されます。 補習授業も無料です。
*教員の質の高さ 全員が大学院修士課程を修了しており、教えのプロとしての専門知識・実技訓 練を徹底的に叩き込まれ ている。就労後も毎年継続研修がある。子供たちが 好奇心をもって楽しく学べるようにすることが大切 なポイントとなっています。 教員の拘束時間が短く、授業への裁量権(教科書、教材、教育方法)が大きく やりがいがあり、社会的 に評価の高い職業であることから志願者が多い(例 年競争率10倍以上)ことも、質の確保の要因となってい ます。
以上フィンランドの有する トップクラスの事象についてあげてみましたが、この根底にある教育に対する高い理念こそがこのトップの源泉といえるのではないでしょうか? すなわち 国土も小さくて天然資源もないフィンランドは「人材こそが資源である」と24%の高消費税率も国民の合意を得 て財源とし、国全体の学力差を最も小さく国際的な学力をもっとも高くすることに成功しています。こ れは「すべての子供がわかるまで」を基本理念に、時間をかけて「平等な教育」を目標として国が教育改革を」行ってきた成果です。 なお、フィンランドでは、自国の国籍をもつ子供だけでなく、フィンランドに暮らす難民や移民の子供たちにも平等に教育を受ける権利が保障されています。これも特筆すべきことといえましょう。
前稿の「建設的相互作用」はフィンランドの教育制度にヒントを得て構想されたもののようです。そこで本稿ではフィンランドについて調べてみたいと思います。
フィンランドはスエーデンとノルウエーに国境を接する北欧に位置します。人口は556万人で70%以上が森林という自然豊かな地ですが、地域によってはー30度にも達する冬が8か月も続くという厳しい自然と対峙せざるを得ない国土でもあります。
フィンランドは従来からオーロラ、サウナ、サンタクロス、ムーミン等で有名でしたが、世界の注目を一身に集めたのは、先進34か国で構成されているOECD(経済協力機構)が3年ごとに各国の15歳を対象に実施する調査(PISA)で「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」分野において2006年、2009年に総合1位という抜群の成績を収めたからです。最新の調査では難民受け入れの急増、コロナの影響等でトップの座は明け渡しましたが、PISA以外の各種の調査で世界のトップクラスには常に君臨し続けてています。
これと併せて注目されるのが、世界143か国を対象に実施されている「世界幸福度調査」において最新の2022年度を含めて7年連続ブッチギリの1位にランキングされてことです。ちなみに、日本はPISAでは2022年度の最新調査において、前回のランクと比べ「読解力」が15→3位、「数学的リテラシー」が6→5位、「科学的リテラシー」が5→2位と大幅に改善しました。これはコロナ禍の国の対応力が学力に反映されたものと推察されますが、好ましい結果でした。一方で「世界幸福度調査」ではOECDでは最低レベルの51位に終わったのが、これからの我が国の課題です。
次稿では、基礎学力をあげそれを幸福度に結び付けている、フィンランドの教育の秘密を探ってみたいと思います。
放送大学の「教育心理学概論」を修了して 特に印象に残ったものを記します。
*いま教育現場では「協調学習」が,これからの急激な変化の時代に適応できる人材育成のための、新しい教育形態の本命ではないかと言われ、日本だけではなく世界中で様々な研究と試みが行われています。
・従来型:学校において、先生が正解(正しい知識)を生徒に教える。
・これからの教育(代表的な一例):知識は自宅で学ぶ(オンデマンド:PC,TV)
学校においては、生徒をグループ(小集団:3~5人)に分け、学んだ知識 を生かして、先生の与えた応用問題をグループでの討議を通して正解にたど り着く。(但し正解は一つではない)
※男女比、人種比をみる等の特別な目的がない限り、グループ内にダイバシ ティ―(多様性)が確保されていることが望ましい。
*これらの試みのバックボーンとしては「建設的相互作用」の存在がある。すなわち、これは知的な解を求める対話の中で、起こる知的な化学変化で、それぞれが違った形で自らの「賢さの質」を上げているという様々な実験結果が報告されている。
*弟子のプラトン、アリストテレスとともに、最高峰の哲学者とされるソクラテス(見出し画像,BC469頃〜322)が喝破した「最高の学びは対話を通じてのみ得られる」という言葉が現代によみがえった様に感じました。