日本産業カウンセラー協会講師 渋谷武子 先生のセミナーを受講しました。先生は産業カウンセラーとしての実務経験が豊富でアサーション・トレーニングや箱庭療法の指導者としてもご活躍です。
表題は「過去のキャリア危機をいかに乗り切ったか」をテーマとしたピアライブ(仲間内の実例による)カウンセリング演習の際 中年の危機のテーマでクライエント役を務めた私に対しての渋谷先生からのお言葉です。
その事例とはまさしく中年42歳の厄年 担当専務から当時プロジェクトリーダーの私に「君が中心となって展開してくれた組織改革プロジェクトのお陰で 当事業部は今期は前期を大幅に上回る史上最高益を更新することが確実となったので 定期人事異動で君の特別抜擢昇任を申請した。先ほど人事担当常務からOKの返事がきたので 正式の内示日は3日後だが 1日も早く吉報を知らせたかったので・・・ 奥さんに話すのは構わないが 社内では3日後まで口外しないで貰いたい」との話ががありました。当日帰宅後の妻の笑顔が忘れられません。
3日後課長以上の人事異動対象者が 順に専務応接室に呼ばれ私の番になりましたが専務は真っ青な顔をして最敬礼して 切り出しました「先日の事前内示を取り消し正規の内示を行います 9月1日付をもって関連会社S社に役職待遇で異動してもらいます」と一気にしゃべりまた最敬礼しました。
親会社での昇任が子会社への降格人事に一変した瞬間でした。新しいポストは部下なしの名ばかり管理職で前任者は定年後5年間勤めた嘱託社員です。仕事内容は従来各事業部が個別に行っていた外注先との契約代行一括処理でした。この会社自体が定年延長の法制化に対応して原則60歳以上の高齢者受け入れのために設立されたものだったのです。従って私と庶務の女性1人を除く全員が60歳以上という特異な人員構成でした。
しかも 業務は細部まで 親会社の各事業部からの指示通りに行うことが必要で 独自の工夫や改善の余地が全くなく モティベーションを保つのは難題だと思われます。
発令日は1週間後です。最初は頭を金づちで叩かれたような衝撃を受けました。妻にどう話したものか? 月次給与は保障すると言っているが賞与は大幅ダウンだろう・・・。2代目経営者の友人や人材銀行からの転職の誘いもある・・・・。
9月1日の早朝正式な発令を受けて、始業前に課長以上を集めた臨時幹部会が開催されました。冒頭専務より今回の定期異動の概要について説明があり。空前の好業績を反映して、当事業部始まって以来の30名を超える幹部社員の昇任があったことに加え、私が関連会社に転籍することが簡単に報告されました。続いて 取締役昇任者、事業部長昇任者、本部長昇任者の挨拶があり、部課長昇任者の挨拶は省略され、最後に私が指名されました。
「本日S社への異動発令を受けました。入社以来人事労務畑を歩んで参りました私にとりましては 全く未経験の分野での仕事となりますが 当事業部初の新会社要員としてご指名頂いた名誉をけがすことのないよう パイオニア精神を喚起し全身全霊で取り組みたいと思います。具体的施策についてはしばらくお時間を頂きたいと思いますが、今までとは別の立場から皆様方の活動をバックアップできるよう頑張りたいと思いますので、引き続きのご支援をお願い致しまして、また4年半にわたる皆さまのご厚情に熱く感謝致しまして私の惜別のご挨拶と致します。本当に有難うございました。」
最後に専務から「君はたった一人の情熱が周囲を巻き込み組織に奇跡を起こすことができる事を見事に証明してくれた。君にはどんな分野でも奇跡を起こせるパワーを持っている。新天地での君のご活躍・ご繁栄ととご健勝を心より祈ります。本当に有難う!」との心温まる送別の辞を頂きました。
逆転内示から1週間で前向きな姿勢を取り戻せたことに対して 渋谷先生から表題のお言葉を頂いたわけです。私自身も何十年ぶりかで当時の状況を思い出す貴重な経験となりました。このケースは私のキャリアにとってまさに人生の正午(ユング)中年に迎えた最大の危機でした。
結果的にキャリアアップの起点となり、現在の経営コンサルタントにつながる一大イベントとなったのですが、この周辺の事情・状況については稿を改めたいと思います。
「レジリエンス」とは従来物理学の分野で「衝撃に対する強さ」の意味で使われていた言葉でこれと対をなすのが「ストレス」です。レジリエントな人とは「回復性の高い」人を言います。