愛媛の伝承文化

大本敬久。民俗学・日本文化論。災害史・災害伝承。地域と文化、人間と社会。愛媛、四国を出発点に考えています。

昔の道具ハンドブック4

2006年05月05日 | 民俗その他

4 松山市内の指定有形民俗文化財

松山市内には、次のような指定文化財があります。ここでは、資料の概要とともに、これを活用する視点や調べ学習での取り上げ方についても簡略に記述しておきます。
<県指定有形民俗文化財>
①伊予源之丞人形頭・衣裳道具 松山市古三津町 伊予源之丞保存会所蔵
 愛媛県内では現在五ヶ所のみで伝承されている文楽(人形浄瑠璃)に関する道具。79点の人形頭があり、阿波(徳島県)の名工天狗屋久吉(天狗久)の作も多く、また、ビロードや金襴などで装飾された衣裳が約30点保存されています。明治時代以降、盛んになった人形芝居ですが、工芸的な価値とともに、人々がどのように芝居を楽しんでいたのか、そして人形芝居の盛んな阿波(徳島県)や淡路(兵庫県)との文化的交流を調べる上で貴重な資料です。
②伊佐爾波神社算額 松山市桜谷町 伊佐爾波神社
日本独自の数学である和算の問題・図・回答を記した額を神社に奉納したものです。享和3(1803)年のものを最古として、江戸時代後期から明治時代初期のものが多数保存されています。和算(数学)の難問が解けたことへの感謝や、今後の算術の上達を祈願して神社の建物に掲げました。22面の算額が一ヶ所にまとまって残っていることは全国的にも珍しく、江戸時代の松山の人々の教養の高さを調べる上で貴重な資料です。また、神社には絵馬(馬や武者を描いた額)や俳額(和歌・俳諧を記した額)なども奉納され掲げられています。今で言えば算額は算数・数学、絵馬は図画、俳額は国語の教養・知識を結集したものといえます。神社には昔の庶民の教養を知る素材が多く残っているといえます。
<市指定有形民俗文化財>
③太山寺の納札 松山市太山寺町 太山寺所蔵
四国八十八ヵ所を巡るお遍路さんが札所を巡拝するときに、住所、氏名、年月日等を記して札所に納めた板札。「承応」や「明暦」など江戸時代初期の年号が記され、また「七ヶ所遍路」とも墨書され、松山近郊の七ヶ所の札所を巡ったお遍路さんが使用したものです。江戸時代中期以前の四国遍路に関する資料は数少なく、四国遍路の歴史を調べる上で貴重な資料です。
④地蔵尊 松山市小坂2丁目 多聞院所蔵
南北朝時代の文中3(1374)年の銘がある石造の地蔵菩薩坐像で、安山岩で造られています。年号の刻まれている石造の地蔵尊の中では、松山市内では最も古いものです。江戸時代以降に建てられた石造の地蔵菩薩像と比較すると使われた石材や、像の刻まれ方が異なっています。地蔵に対する庶民の信仰や、石仏自体の歴史的変遷を調べる上で貴重な資料といえます。
⑤円明寺銅版納札 松山市和気町1丁目 円明寺
四国八十八ヵ所を巡るお遍路さんが札所を巡拝するときに、住所、氏名、年月日等を記して札所に納めた銅板です。現在の納札は紙が一般的ですが、太山寺納札やこの円明寺納札のように、江戸時代には木や銅板が使われていました。遍路文化の歴史の変遷を調べる上で貴重な資料です。この円明寺納札は江戸時代初期の慶安3(1650)年のもので、奉納者は伊勢国(三重県)三宅郡出身の平人家次で、西国巡礼や坂東・秩父巡礼など全国をめぐった後、四国遍路の旅に出た人物です。納札には今でも奉納者(巡礼者)の住所、年月日が記されており、納札の情報からは、いつ、どこから遍路がやって来たのか調べることができます。
⑥太山寺算額 松山市太山寺町 太山寺所蔵
太山寺の算額は、嘉永5(1852) 年に、花山金次郎の算題を松山城下の茶屋何某が施主方となって奉納したものです。出題者の花山金次郎直孝については不明ですが、この2年前には伊佐爾波神社にも同形式の問題を掲げています。また、施主の茶屋何某についても、算額の奉掲とほぼ同時期に施工された寺の山門入り口の石段寄進者として名を連ねています。
⑦三島神社算額 松山市吉藤1丁目 三島神社所蔵
明治13(1880)年に、和気郡吉藤村の旧庄屋・松岡多三郎が氏神である三島神社に奉納したものです。三島神社の算額の特徴は、算題と勉学成就の祈願をあわせたところにあり、画面右側に算盤の教授風景のような絵が描かれ、左に算題が掲げられています。太山寺算額とともに、その奉納者がいずれも関流の山崎喜右衛門昌龍の門弟で、伊佐爾波神社に一門で奉掲したのち、それぞれ独自に奉納されたものです。したがって、松山地方における和算の系譜などを考えるうえからも、重要な資料といえます。
なお、有形民俗文化財ではなく、絵画としての市指定文化財ですが、「船の絵馬」は民俗文化財として価値も高いため、ここで紹介しておきます。
⑧船の絵馬  松山市粟井 桑名神社
桑名神社には40数枚の船を描いた絵馬が保存されています。桑名神社の船の絵馬は江戸時代後期の絵馬が主で、大阪・兵庫・備後・安芸・土佐・豊後などの問屋から奉納されたものが数多くあります。この船の絵馬は、中島諸島における海運・流通の往時を偲ぶばかりでなく、瀬戸内海の交通・交易研究にも欠かせない資料といえます。
参考までに、松山市内で指定されている無形民俗文化財も列挙しておきます。詳細については、松山市のホームページ内にある「松山の文化財」をご参照ください。
<県指定無形民俗文化財>
⑧興居島の船踊り  松山市由良町  小冨士文化保存会
⑨伊予源之丞    松山市古三津  伊予源之丞保存会
⑩福見川の提婆踊り 松山市福見川町 提婆踊り保存会
⑪鹿島の櫂練り   松山市北条辻  鹿島櫂練り保存会
<市指定無形民俗文化財>
⑫一体走り     松山市勝岡町  勝岡八幡神社
⑬伊予万歳(下難波アヤメ会) 松山市下難波 下難波アヤメ会
⑭伊予万歳(北条双葉会)   松山市河野別府 双葉会
⑮萩原の盆踊り   松山市萩原 萩原盆踊り保存会
⑯やっこ振り    松山市宇和間 天満神社
⑰上怒和の獅子舞  松山市上怒和 天満神社
⑱船踊       松山市二神  宇佐八幡神社
⑲道具踊り     松山市小浜  小浜地区
⑳おみどり神事   松山市中島諸島各集落 中島各諸島集落