5 活用しやすい民具とテーマ
第二次世界大戦後、わが国の復興にともない、エネルギー革命と機械化、大量生産、大量消費の時代の到来により、生活も生業も大変革を遂げてしまいました。薪や炭の時代から電気、ガスを中心とする燃料の変換は、人々の生活様式を一変させるなど、従来の民俗文化財の生産は維持できなくなり、次第に忘れ去られる存在になっていったのです。自分もしくは地域で生産する道具から、購入・消費する道具への変化です。
民具を活用しての体験活動は、「生産」する力=「生きる」「産みだす」力を児童・生徒に考えてもらう良い機会です。ここでは、体験活動として比較的活用のしやすい民具を列挙しておきます。
衣類着用(仕事着・遍路衣装)・機織り・草履・ひき臼・杵(もちつき)
火おこし(火打石)・和蝋燭・あんどん・火鉢・コタツ・からさお・唐箕
千歯・糸車・縄綯い機・俵編み・運搬具(オイコ・天秤棒)・秤・斗枡
注連飾り・そろばん・遊び道具
なお、学校教育においては、次のテーマ・視点を取り上げるために「民具」が活用できると思います。
(地理学習)「身近な地域」(「郷土」)、「地理的見方・考え方」、「自然地理学習」(地域からの視点での人間と自然・社会環境との関係)、「地誌学習」、「産業学習」、「生活・文化学習」、「町づくり学習」、「野外観察・調査」、「風景・景観」
(歴史学習)「時代区分」、「倒叙法」、「近現代史教育」、「戦後史学習」(対話可能な過去)、「文化圏学習」(地域的文化圏・世界的文化圏、犂など農具の世界的共通性)「生活文化(民俗)」、「度量衡」(計測・計量具)
(公民学習)「価値教育」、「消費」(循環・生産)
(理科学習)素材(民具の木材・鉄製品利用)、構造理解(唐箕の構造:風力、からさお:力の伝達、灯り:光と熱など、手箕や編笠:機能性・フイゴ:風力の起こり方など)、牛馬との生活
(国語学習)民具の名称(名称の由来調べ:からさお・唐箕など)、民具の名称(方言調べ)
また、民俗文化財を考えるとき、その起源・根源をいつの時代に求めるかという問題がありますが、弥生時代や古墳時代など原始・古代の遺跡から発掘される考古資料のうち、農具に関して言えば基本的な構造に変わりがない側面もあります。松山市内では松山市考古館・松山市埋蔵文化財センターにより、発掘された様々な道具が展示・公開されていますが、それらと民俗文化財を比べてみることで、日本人の暮らしが、時代を超えて伝えられている側面と、時代によって変化してきた歴史的側面を学ぶことができます。