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愛媛の伝承文化

大本敬久。民俗学・日本文化論。災害史・災害伝承。地域と文化、人間と社会。愛媛、四国を出発点に考えています。

文化財レスキュー事業

2011年04月08日 | 災害の歴史・伝承
時事ドットコムに先ほど掲載された記事です。

被災地の文化財保護=仙台市博物館に現地本部-宮城県
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2011040700692



※ここからは、この記事を読んでの私の感想です。誤解も含まれているかもしれませんがご容赦ください。


先日、プレスリリースのあった文化庁の「文化財レスキュー事業」。被災県、今回の場合は宮城県にて現地本部(仙台市博物館)が設置されることになったようです。現地本部は各県ごとに設置されますが、統括の事務局となるのは東京文化財研究所に設置される「被災文化財等救援委員会」です。

各県に設けられる現地本部(今回の宮城では仙台市博)は、文化庁、被災地県教育委員会職員で構成され、文化庁からの協力依頼によって、全国の各県教育委員会から専門職員の派遣もあるとのことです。

まずは宮城県の動きが情報として流れてきたわけですが、岩手県では既に岩手県立博物館の職員のみなさんが津波被害の甚大な陸前高田市に入って文化財レスキュー活動を行っているようです(現地からのメール情報)。それでも県全体の文化財被害の情報収集やレスキュー活動は、被災県の中のスタッフだけでは限界があることは想像に難くありません。

たとえば、被害の比較的軽微な市町村の学芸員など文化財専門スタッフが、被害の大きい市町村の文化財レスキューに向かうにしても、地元にまったく被災文化財がないわけではなく、身近でも何らかのダメージは被っている状況にあり、そちらの保全活動が優先されます。しかも、被害の大きい市町村から避難してきた方々の安全確保等の対応が仕事(公務)としては優先され、他市町村に文化財レスキューに出向く状況にはないのではないかと推察します。

しかも、今回の文化財レスキュー事業。レスキューに向かうにしても、ボランティアではなく文化庁の事業として出向くので、被害の甚大な市町村からの要請(つまり公文書として依頼してもらう)が通常では必要となります。そんな公文書を作成して提出する余裕があるのか。三陸海岸の各市町村では、自分の自治体の文化財の被害状況を把握して、文書にまとめて、そして現地本部に文書で報告・提出する。その報告を基に、派遣する専門職員を現地本部が調整をする。これは私が勝手に想像する文化財レスキューの手続きなのですが(誤解があるかもしれません。すみません。)、実際、各市町村の学芸員等の文化財専門スタッフが非公式のネットワークで県内の情報交換はできたとしても、いざ、レスキューで動くとなった場合の公的手続きがスムーズに行われるのか。あとはレスキューにかかる経費(一時保管所への輸送費や旅費等)も懸念されます。経費が全額国庫負担なのか、それとも現地本部を持っている県の負担なのか、それとも市町村の負担なのか?それが明確にならないことには、公的機関の動きは鈍くなってしまいます。現在は非常時であり、そんなことは簡略化して、適宜ケースバイケースで動くという考え方もありますが、公的機関での意思決定は、なかなかそうはいかない場合も十分に考えられます。

このように、文化財レスキュー事業は試行錯誤しながらの運用になるのではないかと思います。時間がかかるかもしれません。この事業が軌道に乗るまでは、地元の関係者のふんばりと、ボランティアネットワークの活躍が重要で、そこで得られる情報と人的ネットワークが文化財レスキュー事業を支えるのではないかと思います。