愛媛の伝承文化

大本敬久。民俗学・日本文化論。災害史・災害伝承。地域と文化、人間と社会。愛媛、四国を出発点に考えています。

実盛送りの諸相

2001年06月07日 | 年中行事

以前、西宇和郡三瓶町蔵貫地区の実盛送りを調査したことがある。平成7年7月2日(日)のことであった。この行事の次第は、7月1日午前に善福寺にて「実盛」の施餓鬼法要が行われ、午後に蔵貫村区長が「実盛」に見立てられた施餓鬼幡を受け取る。翌日2日10:00になると蔵貫村の辻に竹をたて、施餓鬼幡を吊るす。15:00には御旅所で蔵貫浦に引継ぎ、17:00頃に幡を海に流すというものであった。
 愛媛では実盛送りというと、東宇和郡城川町魚成のものが有名で、実盛人形を村送りにして、稲虫を祓うというものである。それと蔵貫の簡単な比較をしてみると次のようになる。

供養を行う寺:蔵貫は善福寺、魚成は宝泉寺
実盛と見なされるもの:蔵貫は幡、魚成は人形
実盛に対する供養:蔵貫は施餓鬼、魚成は念仏
実盛への供物:蔵貫は麦飯、魚成は銭、米、菓子を紙に包んだもの
実盛を送る場所:蔵貫は海、魚成は川の下流
実盛に対する信仰:蔵貫はなし、魚成はあり

大きな特徴としては、城川町の実盛送りで用いるような人形はなく、施餓鬼幡が「サネモリ」とされる点であり、また、「サネモリ」を念仏供養ではなく、施餓鬼供養によって送っている点である。
城川町では、「サネモリ」は「斎藤別当実盛入道居士」として仏格を得て信仰の対象となっているが、蔵貫地区においては、信仰対象ではなく、「餓鬼」(無縁の亡者)として認識されているという違いがある。ここからは、各地の実盛送りの中の仏教儀礼における「サネモリ」の扱いに関する調査を進めることによって、「サネモリ」が、「稲虫の祟り」や「餓鬼」等から、仏格を得て信仰の対象へと転化を見出すことのできるヒントになるのではいかと思えるのである。つまり、祓われるべき「稲虫」=[サネモリ」が信仰対象へ転換する契機である。それは死者が葬送儀礼を経て祖霊、祖先神へ昇華していく過程と同様に、稲虫も虫送り儀礼を経て「虫除けの神」等の信仰の対象になるということである。
祓われるべきものが、単に祓いの対象として排除されるもの、もしくは下等なものとして扱われる場合と、祓われるものが一種神格化して、逆に、それ自身が祓いを行う存在に昇格するという、日本の神の成り立ちを示唆してくれそうな事例であると思った次第。

2001年06月07日

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