愛媛の伝承文化

大本敬久。民俗学・日本文化論。災害史・災害伝承。地域と文化、人間と社会。愛媛、四国を出発点に考えています。

愛媛のカイツリ事例

2001年06月06日 | 年中行事
文化庁編『日本民俗地図』Ⅱ<年中行事2>昭和46年の「おとずれもの」(小正月の訪問者)によると、愛媛県内には全く報告例がみられない。他の四国3県、広島、大分の隣県には報告例が多いのであるが、愛媛県が分布図ではエアポケットになっている。これは、県内におとずれもの習俗が盛んではない、もしくは存在しないことを意味しているかというとそういうわけではない。南予地方を中心にカイツリという習俗があり、これは先年の四国民俗学会でも話題に上ったことである。私のメモの中に、愛媛のカイツリの事例が若干あるので、それを紹介しておきたい。

・名称、地名、行事日

・オカイツリ、中山町、正月14日
子供らが幼児を背負って「オカイツリに参りました」と言ってゼニサシを持って家々を廻り物を貰って歩く。(『県史民俗編下』)

・カイツリ、伊予市郡中付近
浜の青年がカイツリに来ていた。(『県史民俗編下』)

・カイツリ、南宇和郡、正月11日夜
若衆2人が一組になって、夜着を着るなど変装して家々を門付けして廻る。各家はそれを予期していて餅や銭を渡した。もし宵の口から戸締まりをして対応しない家があったりすると、ケチだと悪評をたてられ、悪戯されたりした。(『県史民俗編下』)

・カイツリ、津島町御槇
七軒の家から米や餅を貰ってきて、それを小豆粥(フクワカシ)にして食べると夏病みしないといっていた。(『県史民俗編下』)

・カイツリ、津島町岩淵
ゼニサシを作って、これを持って家々を訪問しホービキセン(ホービキは一種のくじ賭博。藁しべに銭を通しておいて、それをくじ引きしたもの)をもらった。(『県史民俗編下』)

・カイツリ、津島町下灘
子供らが手に手に竹棹を持ち、家の窓や門口から竹棹を差し入れ、その棹先で餅を釣り上げて帰る。(『県史民俗編下』)

・カイツリ、瀬戸町川之浜、節分
節分に子供らがカイツリと呼ばれる縁起物(フシの木を削って花型につくり、これを竹に刺し、その先に松の芯や松葉をさした一種の熊手)を作って親類に持参し、代わりにお菓子や銭を貰う。(『県史民俗編下』)

・カイツリ、川内町井内、1月
夜、子供が家々を廻って「かいかいかい」と言いながら戸の隙間から三、四寸の藁のこよりをさしこんで餅を貰う。(現存せず)

・オカユツリ、松野町目黒、正月14日
カッツリともいい、オヘンド(乞食)して歩く。昼間子供がゼニサシを二本なって、それを木師屋の作ったカシボンにのせて、「オカイツリに来た」といって村の各戸を廻る。来られた家では、その盆に米か餅をのせてやる。そしてこの米で16日の朝のトキノカユを炊いて食べる。(『宇和地帯の民俗』)

・オカユツリ、津島町御代川、正月14日
この粥を食べると夏病みしないという。(『宇和地帯の民俗』)

・オカユツリ、松野町上家地、正月14日
ワカシ(若衆)もこれに参加する。彼らは夜、女装したりして変装して廻る。そして集めた米、餅をその夜トマリヤドで炊いて食べる。娘もこれに参加した。(『宇和地帯の民俗』)

・オカユツリ、弓張、正月16日
オカユツリでもらってきた米で粥を作って食べる。

・オカユツリ、旧一本松村、正月14日
(旧一本松村教育委員会に写真あり)(『宇和地帯の民俗』)

・ホタルカケ、松野町上家地、正月14日夜
正月14日の夜、ワカイシが、新婚の家の前の麦藁あるいは米糠の俵で舟を作り、舳を家の方に向ける入船(縁起が良い)、その反対の出舟を作ったりした。(『宇和地帯の民俗』)

・ホータロクビリ、津島町、正月14日
厄年の人の家の前に、その家から薪を持ち出して作った。(『宇和地帯の民俗』)

・ホータロクビリ、津島町岩淵、正月14日
カイツリの待遇がまずい家への悪戯のこと。厄年のいる家へ青年が船をつくって持ちこんだ。(『県史民俗編下』)

・ホタルククリ、南予、正月14日
カイツリの待遇がまずい家への悪戯。好評の家には藁製の宝船を持込み祝福する。(『県史民俗編下』)

・ホタルバン、内海町平碆、正月14日
カイツリの悪戯の例 村の船2、3隻が山上にあげてあったり、寺の石の六地蔵が家の入口や娘の枕元にあったり、井戸水が汲めないようになっていたりなど。(『県史民俗編下』)

・ホタルカケ、広見町目黒、正月14日
新婚の家にホタルカケをしていた。(『県史民俗編下』)

2001年06月06日

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