僕の感性

詩、映画、古書、薀蓄などを感性の赴くまま紹介します。

セリヌンティウスとの約束を反故にする太宰メロス

2016-09-28 17:35:40 | 無念なこと
1936年(昭和11年)12月、太宰治は熱海の村上旅館に泊まっていた。

その太宰がいつまでも戻らないので、妻の初代が「きっと良くない生活をしているのでは……」と心配し、
太宰の友人である檀一雄に「様子を見て来て欲しい」と依頼した。

往復の交通費と宿代70数円を持たされ、熱海を訪れた檀を、太宰は大歓迎する。
檀を引き止めてまず高級天婦羅屋で28円70銭使った。

あとは連日飲み歩いたり女を買ったり、とうとう預かってきた金を全て使い切ってしまった。飲み代や宿代も溜まってきたところで太宰は、檀に宿の人質(宿賃のかたに身代わりになって宿にとどまる事)となって待っていてくれと説得し、菊池寛のところに借金をしに行ってしまう。

数日待ってもいっこうに音沙汰もない太宰にしびれを切らした檀が、宿屋と飲み屋に支払いを待ってもらい、太宰をほうぼう探し回った。

井伏鱒二のもとに行くと、なんと二人はのん気に将棋を指していた。

「君、あんまりじゃないか」と激怒しかけた檀に、太宰は「待つ身が辛いかね。待たせる身が辛いかね。」 と言ったという。

熱海での借金は300円(現在の20万円)に膨れ上がっていた。

その借金を佐藤春夫と井伏鱒二が一部を建て替え、残りを初代が着物を売ったお金で弁済した。