ポール・オースター作「ムーンパレス」を一日で読了した。
読後感は爽快かと問われれば、否と答えざるを得ない。
沈鬱で虚無で自ら暗渠に落ち込んだ心境。
主人公のマーコ・フォッグは、見栄っ張りで滑稽で自虐的で、泥縄的で、必ず否定から入るひねくれた性格だ。
日本の文学でいえば葛西善蔵の家賃を滞納して借家を追われ、子どもを連れて夜道を行く主人公を書いた「子をつれて」。
また太宰治の「グッド・バイ」のキヌ子。
豚カツ、鶏のコロッケ、マグロの刺身、イカの刺身、支那そば、鰻、寄せ鍋、牛めし、握り寿司、海老サラダ、イチゴミルクなど、すべて平らげる大食漢。
場当たり的で破滅型。
ひとときの幸福にとどまることを否定して、
進んで破滅へと向かう。
車イスの老人エフィングは大層な変わり者。
その老人もまた破滅型で、死ぬ間際にサンタクロースの真似事をするが、贖罪なのか、ただの徒労か主人公のフォッグに
限りなく近い。
自己のルーツに神秘性を覚えるが、非日常を当たり前のように多用し、反対に結末に日常を用い肩透かしを食らう。
ハッピーエンドにしてもらったならば、キティと永久に幸福に暮らしていくことができたならば、読者は今までの破滅的で飢餓な生活にも報われたにちがいない。