「私」は東北出身の大学生で、東京の西北にある私立大学に通っている。
ある日「忍ぶ川」で志乃に出逢った。彼女は幼くして母を亡くし、父は病に臥し、兄弟と一緒に貧しく暮していた。
二人は互いに惹かれ、いつしか愛し合うようになる。
「私」の四人の兄弟は次々と自殺や失踪し、「私」も血の宿命を痛感させられていた。
志乃には自分の暗い家庭のことを赤裸々に告白したのだ。
手紙で「私」は
「自分の誕生日を祝って貰ったことがなく、その日は兄弟の衰運の日のような気がする。」と書いた。
志乃は「来年の誕生日には、私にお祝いさせてください」と書いてよこした。
志乃には婚約者がいたが、「私」のお願いにより破談に応じてくれた。
秋の終わりに志乃の父の容体が急変し、志乃のことを「私」に託して死ぬ。
その年の大晦日、志乃をつれて故郷に向かい結婚式を挙げた。
芥川賞を受賞した、三浦哲郎氏の「忍ぶ川」のあらすじでした。
彼は、実生活でも、姉がふたり自殺を遂げ、兄二人が失踪してそれぞれが自滅の道を歩みました。
こうした暗く重い問題を、文学の問題として生きることを決意するのです。
井伏鱒二氏に師事し、「十五歳の周囲」で注目され、「拳銃と十五の短篇」「木馬の騎手」などすぐれた短編小説を残しました。
その三浦哲郎氏が、8月29日午前4時33分、うっ血性心不全のため鬼籍の人になりました。
やっと早世した兄弟たちに会えると微笑んで天国に召されたのでしょうか。
ご冥福を心よりお祈りいたします。