出典 パンダジェフスキー博士
http://niwayamayuki.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/by-8ef0.html
元桐生市議会議員 庭山由紀 氏より↓抜粋転記
2013年2月24日 (日)
本物の風評とは・・・by アーサー・ビナード
アーサー・ビナードさんが新聞に投稿したわかりやすい「風評」についての投稿文を紹介します。
【本物の風評被害とは・・・】
風評被害で、日本は大変なことになっている。それは、ぼくも認める。みんなで力を合わせ、風評被害に立ち向かい、払拭しなければならないと、ぼくも本気で思っている。ただ、日本のマスコミが取り上げる「風評被害」と、ほくが理解する「風評被害」の間には、かなりのギャップがある。
たとえば東京は浅草、仲見世の土産物店の経営者が、外国人の観光客の激減を嘆き、売り上げは9割も落ち込んでいるとため息をもらす。そしてそれが「原発事故の風評被害」と、話がまとめられる。しかし本当にそうなのかと、ぼくはうたぐる。
実際、福島第1原子力発電所の1号炉も2号炉も3号炉もメルトダウンをきたし、大量の放射能汚染を海に垂れ流し、大気にまき散らして、
制御不能の悪夢はいまだに出口が見えない。
そんな現況下、好きこのんで高い料金を払い、愛する家族といっしょに国際線に乗り、わざわざ日本へやってくる人は、そう多くはないだろう。
当たり前の用心というか、
最低限の自己防衛と言うべきか。
観光客激減を「風評被害」と呼ぶ者に対して、ぼくは聞いてみたい。
「この25年の間にベラルーシやウクライナへ遊びに行きましたか?」
また、日本政府が「安全だ」と宣言しても、
メード・イン・ジャパンの品物を対象に
各国の港で放射能測定が行われたり、
海外の消費者が敬遠したりしている現状が
大きく報道され、
やはりこちらも「風評被害」によるものと、
結論づけられる。
でも
3月11日から情報を隠蔽(いんぺい)しつづけ、
「レベル4」だの
「レベル5」だの
「格納容器は健全である」だの
欺瞞(ぎまん)のかぎりをつくし、
真実を語ろうとしないジャパンのお偉い方たちの
「安全宣言」を、誰が信じるというのか。
日本製品がそっぽを向かれているのは、
永田町が世界の善良な市民の信用を
溝(どぶ)に捨てた報いであって、
「風評」という次元ではない。
では、ぼくが正真正銘の「風評」として
憂慮しているのは何かといえば、
原子力の専門家たちの「被ばく比較」がその最たるものだ。
「マイクロシーベルト」という単位を巧みに使って、福島第1原発がもらす放射性物質にさらされている人々の被ばく量と、
胃のレントゲン検査のそれとを比べ、
「人体への影響はない」
と
のたまう。
あるいは、飛行機で太平洋をわたった場合、
乗客1人当たりが浴びる放射線も、
もっともらしく比較対象に使って、
「心配はない」と言い張る。
ところがレントゲンを何回撮られても、
筋肉をしつこくむしばむセシウム137が
体内に入ることは考えにくい。
国際便で頻繁に飛んでも、
骨をじりじりやっつけるストロンチウム90に
つけこまれることは、まずない。
内部被ばくと外部被ばくをごっちゃにするなんて、
医者が内服薬と外用薬を混同するようなもので、
わざとやっているなら犯罪的だ。
これぞ風評被害。
本当のことをいうと、
内部被ばくには「安全」といえるレベルが存在しない。
どんな微量でも、
とりこんだ体の組織次第で、病気になる可能性がある。
ただし「ただちに」ではなく、
数年後に影響が出るので、
悪質な専門家たちは今のうちに
被ばく比較の風評を堂々と吹いていられる。
彼らはきっと責任逃れの「自主避難計画」も、
ひそかに練っていることだろう。
セシウム137の半減期が約30年で、
ストロンチウム90のそれは約29年だ。
本物の風評被害について、
ぼくらもそれくらい粘り強い記憶を、持ち続けなければならない。
アーサー・ビナード
(Arthur Binard )アメリカ合衆国、1967年7月2日ミシガン州生まれの詩人・俳人、随筆家、翻訳家。妻は詩人の木坂涼。
詩集「釣り上げては」で中原中也賞。
(2011.6.6 熊本日日新聞)