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愛してるの無理押しに絶望する。

2022年07月17日 | シリアス
※宝塚作品『ダル・レークの恋』と『霧深きエルベのほとり』にネタバレしてるので、ご注意ください※

【ラッチマンの気持ちがわ~か~る~!】

スカイステージ(CS放送の宝塚歌劇専門チャンネル)で月組公演『ダル・レークの恋』が放送されていたので観ました。

現在(2022年7月)の月組トップスター・月城かなとさんとトップ娘役・海乃美月さんの主演コンビ。

これが上演していた時はまだ月組トップコンビは珠城りょうさんと美園さくらさんだったけどね。

詳しいあらすじや配役を知りたい方はWikipediaをどうぞ。
  ↓
※ダル・レークの恋(Wikipedia)

この作品は菊田一夫さんのオリジナル作品で、彼の生きた時代らしく古典的で美しい世界観の物語。

美貌の男女、すれ違う恋…といった王道美しい展開に加えて敬虔な処女を無理やり男が…という定番に大衆ウケする場面もあったりして

「昔昔からほんとにみんなエロと性暴力が好きだよなー」

と思いながら私はあんまりセクシーに燃えないので冷めて見ておりました。

(宝塚なのでもちろん脱ぎませんし、えぐい表現はありませんのでご安心ください)

しかし。

クライマックスのどんでん返しに

「ああ、これを書きたくて、そのために菊田さんはこの作品を書いたんだ。

 今までの大衆ウケする俗ネタはこのためにあったんだ!」

と雷が落ちるような衝撃がありました


「どこ?」

それはね…。

主人公のラッチマン(出自不明の美貌の軍人)がヒロインのカマラ(インド貴族のお姫さま)達に

「実は自分達よりよっぽど高貴な身分の男性だった」

とバレたあと、ラッチマンが卑しい身分だと思ってた時に散々傷つけバカにしののしったくせに手の平返しで媚びまくり、でもけして謝罪せず、

「愛しています」

「あの方とカマラが結婚すれば素晴らしい。

 ぜひに!」

と恥知らずに言ってきやがるのを、恋しさを断ち切りがたいと思いながらもキッパリと断る部分。

「あなたが愛してるのは私を包むもの(衣装、肩書き)だけで、私自身じゃない」

とラッチマンは語る。

それまで彼は卑劣な結婚詐欺師で、口止めにお姫さまの体を要求するようなゲス男として描写されるのだけど、ここで全ての意味がひっくり返って

「本当は違ったんだ」

とわかるのです。

「ずっとずっとカマラが好きだったのに」

「ずっとずっと謝ってほしかったのに」

そしてカマラも

「いつだってやり直すチャンスはあったのに」

相手は卑しい身分だから、自分は上流階級(上級国民、特権階級といえば伝わりやすいか?)だからと違う面が白日のもとにさらされてしまう。

それまでは詐欺師に騙された可哀相な敬虔な処女であり高貴なお姫さまとして描写されるんだけどね。

カマラだけじゃなく、他の大人チームももちろんひどいもので。

あの、自分達は特別だと驕った人たちの愚かさ、己を省みない幼稚さ、謝ったり根回しできない滑稽さ。

それを鋭利な刃物でえぐり出すような辛辣な物語の展開がすごすぎた。


最近再演された菊田一夫作品に『霧深きエルベのほとり』がありますが、あれもそういうのを描写してはいるけど結末がすごく美しいじゃないですか。

水夫とお嬢様が愛し合ったけれど結局上流階級に受け入れられず、お嬢様も違いに戸惑う。

水夫(男)は愛するお嬢様(女)のためにたった一人憎まれ役となって身をひく。

そして彼女の幸せを心から祈る…。

これに対して『ダル・レークの恋』のなんとえぐり方のすさまじく現実的なことか。

菊田さんすごいよー。

私はね。

「ラッチマン、わかる、わかるよー!

 あなたの気持ちわかるよー!」

と首ちぎれんばかりにうなづいてしまった。

「愛してる」

でごり押しされるのはしんどい。

こちらの想いも考えも全て無視して

「愛してるんだから受け入れろ=お前が全部我慢しろ」

と強いられるあの辛さ。

あの絶望。

こっちにも恋慕の情が残っていれば残っているほど

「でもこの人といる限り自分はいつまでもいつまでも心を踏みにじられ続けて、愛しているんだからで口封じするんだ」

とわかってしまうのだ。

最悪のバッドエンドしか存在しえないことがわかるのが辛い。


まさか最終的にラッチマンの味方をしてしまうなんてなあ。

見事だなあ。

この舞台のラストシーンは

「ラッチマンとカマラは再会してやり直せたかもしれないし、やり直せなかったかもしれない」

という匂わせで終わるのだけど、私は無理だろうなと思った。

カマラは最後まで

「あの方に本当の私の気持ちを伝えなきゃ」

と言っていて、それってつまり愛してるの無理押ししかありえない。

ラッチマン(相手)にも心があるのだと、一人の人間なのだと思えたら

「受け入れてもらえるかは相手が決めることだけど、謝罪して償いをしたい、そしてまたやり直したい」

という言葉になると思うんだよね。

いやいやすごい。

これ男女逆転なのがまたすごい。

ふつう心を踏みにじられて

「嫌だ」

と去るのは女性キャラクターが多かったからね。

昭和時代ならなおさらです。

時代を超えているよ。







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