「そうか、小説家のように哀れな存在もないなあ。自分の過去と私生活までも大衆の餌として体を投げ出すなんて。事故で死んだ息子を心の中に隠しておくこともできず、結局小説に仕上げたある作家を見ると、本当に作家というのは恐ろしい存在だね。あんたを理解できないこともないよ。僕は百回あんたを理解してやれる。あんたを一時すごく好きだったし、歳月もこんなに流れたし、人生がなんだ。全部理解できる。あんたもそれが職業じゃないか。食べて生きていくので・・」
サンウクがイミジを眺める視線には憐憫が絡まっている。イミジの中から熱く何かが沸き立っていた。それは単純に酒の勢いだけではなかった。
「しかしね、ちょっと問題があって。うちの家内の事なんだ。」
サンウクが煙草の煙をふっと吐いて、ちょっと卑屈な表情で言った。
「うちの家内ね、あんたとの恋愛を実際よりもっと深刻なものと昔から受け止めていたんだよ。おそらく昔からグループの中では僕たちが思っている以上に気になる噂が出回ったようだ。あんたの小説が出版されると買って読んで、ある日わーわー泣くんだ。僕が誠実ではなかったと。嘘を言ったと。
昔家内を誘う時に家内が尋ねたんだよ。イミジ先輩とのことを知っていると。僕がそうだった、何もなかったよと答えたんだ。ところが今回小説を読んでからは僕をもう信じることができないし、離婚しようと騒ぎ出したんだよ。実はこの頃数日間冷戦中なんだ。こんな話をあんたにまでするのは何だけれど、実は僕がこの間事故を起こして。やっと家の中が平穏になって何か月か過ぎたんだ。それで話なんだけど・・・どうも本当に申し訳ないけど。」
サンウクが乱暴に酒を口の中に注ぎ込み口ごもりながら言った。
「そんなことは多分ないけれど・・・そうしてほしいけど・・・しかしそんな機会があれば、いつかあんたがうちの家内に本当のことを明らかにしてくれれば・・・」