ずっと以前に、一時この男はイミジを愛していると言っていたことがあった。今考えてみると、波のような愛だけれど、二人で胸を痛めしばらく愛を燃やしたこともあったと、イミジは酒を飲んでいてもはっきり覚えている。
「小説はよく売れているのかい・・・・? ところでそこにヨンフンがやっぱり出るの?」
「なぜ・・・そんなふうに思うの? あんたがもっとよく知ってることじゃない。」
イミジは嘲笑するように言った。
サンウクが頭髪に手をやって、ぞんざいに掻いてから言った。
「だから・・・年齢のようなことをしたかね・・・僕たちがいつそんなことがあったけ・・・?」
イミジはウィスキーをストレートで杯に注ぎ、一気に飲んだ。小説に出ている善悪の場面を話すのか。
「僕は本当にあんたが好きだった。でも自伝小説というものに自分がそんな風に登場するとは・・・荒唐無稽だな。それはやはりチョンフンじゃなかったのかい?」
イミジは黙って口を閉じて少し前にサンウクが手でかき分けた彼のもつれた頭髪を眺めた。
「それで、今日聞いてみようと思って。20年間ずっと気がかりだったんだ。歳月が過ぎてあんたに会って、この質問が何の意味があるのかと思った。でも・・・ずっと以前にあんたと僕が最後に会うことにした日を覚えている? その日、僕はあんたに会うことが出来なくて、その日以後あんたはクラブにも出てこなかった。あんたはそんな風に離れて行ったんだ。」
イミジは何年も断っていた煙草がたまらなく吸いたくなって、とうとうサンウクの煙草を取って火をつけた。
サンウクがイミジをにらんで詰問した。
「あんたが愛していたのは誰なんだ? チョンフンなのか?」
煙草の煙はイミジの口から出て、曖昧な形を作ってからすぐに空気中に広がった。二十歳のころにサンウクとチョンフンは恋敵であることも知らないまま、それぞれイミジが好きだった。サンウクが今誰を愛していたかと尋ねた質問に、イミジは何も答えたくなかった。それぞれの二人の間で秘密の感情の交流を楽しんでいたかも知れなかった。その年齢では、感情の遊びそれだけでも十分に苦しく切なかった。厳密に言うとイミジは愛に陥りたくなかったのかも知れなかった。両方に均等に重みをかけていれば、転んでも落とし穴に落ちる理由がない・・・そうしてある日二人の間の紐を離してしまうことになったのは、グループの合宿に行ってきた直後だった。