題名 : 漆(うるし)の実のみのる国
著者 : 藤沢周平(1927年~1997年)
出身地 : 山形県鶴岡市
初版 : 1997年 (株)文藝春秋
定価 : 上 514円(税別)文春文庫
下 543円(税別)文春文庫
$感想'
この本は江戸時代の米沢藩の名君として名高い上杉鷹山のことを書いたものである。
鷹山は幼少期より英邁で、上杉家再興を果たすのはこの殿しかいないと期待されていた。奢侈な生活を改めることもできず、腐敗を極める側近に一切の政治をゆだねていた8代目上杉重定を隠居に追い込んだ改革派重臣によって、弱冠17歳で9代目当主となった。その頃18世紀の半ばごろの米沢藩は石高15万石で、6千人の家臣を抱えていた。借財は米沢藩の支出の6年分にあたる20万両。現在の貨幣価格に換算すると150億~200億円に相当する。上杉謙信以来の名門意識で実収入が8分の1になっても家臣を整理せず、すべてに豪奢な生活をしていたのである。
上杉鷹山は2回にわたる改革を行って、最終的には死後4年目の11代目斉定の時代に借財を完済した。
鷹山というと一汁一菜に常に木綿で通したという質素倹約な暮らしぶりと、身体障碍者だった正室幸姫や民百姓に対する思いやり溢れる対応で有名である。
しかし、ここでは鷹山の改革の軌跡に興味がひかれる。倹約と緊縮財政は前提である。その上で第1回目の大改革は漆(うるし)、桑(くわ)、楮(こうぞ)の木を100万本ずつ植える計画であった。その費用を豪商から調達し、漆や漆の実から取れる木蝋を現物で返済にあてるというものであった。それが見込みどおりになれば、15万石と匹敵する現金収入が得られるはずであった。しかし実際に商品を販売している豪商三谷三九郎によって西日本の諸藩で生産される白蝋に押され、黒い木蝋は安く買い叩かれていると市場の内情が伝えられた。藩収入倍増計画は市場原理の前に頓挫したのだ。
その後天明の大飢饉を経て、資金を貸してくれる豪商もなくなり、藩は徹底した緊縮財政で家臣からの借り上げを実行し、実質7、8万石で藩を経営することになった。そうした中で第2回の改革が着手された。藩財政の実態を藩士に公開し、立て直しの献策を募ったのだ。もっとも生活に困窮している層からの意見も集めたのである。
そして16年組立てという改革案がまとめられ、1年に1つずつ改革を積み上げていく方式がとられることになった。また殖産興業のためには豪商からの資金調達が必要であり、当座の資金を返す見込みもないままごまかして融通してもらうのではなく、豪商たちとの信頼関係を築く方向に転換したのだ。米沢藩では年貢を半永半石(半分は永楽銭、半分は米)で徴収していた。米の値段は下がり続け、米だけに依拠する藩財政は成り立たないのだ。現金収入を得る作物なり、製品が必要だったのである。現金収入を得るためには市場の動向を熟知しなければならない。商人の力がぜひとも必要なのである。それに上杉鷹山は気付いたのである。
身分で権柄ずくで資金を調達できるものではない。最大の金主である江戸の両替商三谷三九郎には米沢藩の家中13家に入る700石の扶持を与え士分に取り立てている。それを始めとして資金を出してくれる領内の豪商や豪農はいずれも士分に取り立てている。藩主みずから豪商たちに会って話を聞いたりもしている。お金を借りているので、豪商たちが挨拶にくれば懇ろに応対し、お土産を持たせたりもしている。金の力で身分を得るのは豪商や豪農に限らなかった。
下士の中では金のために武士の身分を捨てるものが続出した。微禄の足軽の大半は、金銭と引き換えに農家、町家から養子をとり拝領屋敷を譲って隠居をするか、武士の身分を捨て農民になったり金貸しになることがはやった。家中の足軽の大半はもと町民、農民の身分のものになっていた。先祖伝来の刀や馬なども売り払う始末であった。また、上士の中にも困窮のためお役御免と知行地へのひきこもりを申し出るものが何割も出てきたのである。貧しさゆえに上杉の家臣団も崩壊の瀬戸際に立っていたのである。
結局、上杉鷹山は商人資本を藩の中に導入することに成功し、殖産興業に成功したのである。貧しい家臣団は内職という副業なしでは生活できなかったが、その副業を米沢織などの産業を生み出すのに活用したのである。既に武士は働かない階級から働く階級に変質していたのであるが、その武士階級の労働力を活用したのである。
理想主義者だと言われるが、実際は現実に合わせた改革をした人である。 いずれにしても上杉鷹山は素晴しい人なので、心が洗われる。
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