吉川英治著 三国志第六巻にこのことが書いてある。九錫の儀仗に護られるとはそもそも何だろうかと思われる人も多いと思うので、簡単な解説を試みる。
1.車馬(王者の車馬)
2.衣服(王者の衣服)
3.楽県(宮殿の昇降時の楽奏)
4.朱戸(門戸を朱で塗る-地位の高さを表示する)
5.納陸(のうへい-朝廷に自由に出入りできる権利)
6.虎賁(こほん-専用の数百人の警護隊)
7.鉄鉞(ふえつ-金の斧、銀の斧)-この意味は良く判らない
8.弓矢(大小さまざまな弓矢で護られる権利)
9.秬鬯(きょちょう-祭祀のための酒)
一言で表せば、最高の特権階級になったことを形で現わすこととでも言えばよい。
魏を自分の領土とし権勢並ぶものなき曹操は、自らが九錫の礼を欲し、強欲にも権勢の虚飾を朝廷から奪い取った事を、次のように記述してある。
「どんな英傑でも、年齢境遇の推移とともに、人間の持つ平凡な弱点へひとしく落ちてしまうのは是非ないものと見える」、
「むかし青年時代、まだ宮門の一警手に過ぎなかった頃の曹操は胸いっぱいの志は燃えていても、地位は低く、身は貧しく、たまたま、同輩の者が、上官に媚びたり甘言につとめて、立身を計るのを見ると(何たるさもしい男だろう)と、その心事を憐み、また部下の甘言をうけて、人の媚びを喜ぶ上官にはなおさら侮蔑を感じ、その遇をわらい、その幣に唾棄(だき)したものであった。
実に、かつての曹操は、そうゆう颯爽たる気概を持った青年だった。」 功なり名をあげそれなりの地位と名誉と財産を手にすると、残念ながら若い頃の颯爽たる気概を失い、参議院のボタンによる代返や、もろもろの汚職の例にみられるように、九錫の礼に惑いとんでもない悪事に身をゆだねるケースが多いようである。
地位と名誉と財産は、現世のことに過ぎない。これ等一切と縁が切れると、さばさばとした自由な世界があることに早く気が付いて欲しいものである。