オスカー・ココシュカ(Oskar Kokoschka 1886-1980)は、クリムト、シーレと共に近代オーストリアを代表する画家。彼の代表作のひとつ「テンペスト(風の花嫁)」を初めて見た時、こんなにおどろおどろしい絵を描くのはどんな人なのかと興味を持ちましたの。あのゴッホもココシュカから影響を受けた一人なんですって。
ココシュカはオーストリアの小さな町で誕生、貧しい幼少期を過ごします。19歳でウィーン美術工芸学校(画家志望のヒトラーが不合格になった学校。もし合格してたら世界史は変わっていたわね)に進学、後に同校教師となりました。
1912年、26歳の時、肖像画を描くためにアルマ(あの大作曲家マーラーの未亡人)の自宅を訪れます。ココシュカのために「トリスタンとイゾルデ」をピアノ演奏するアルマ。ココシュカはそんなアルマに一目惚れ、何とその日にプロポーズしたそうよ。ちょっとせっかち過ぎない?当時のアルマは建築家グロピウスと交際中にもかかわらず「傑作が描けたら結婚しましょう」と返事し、ココシュカとも恋愛を始めます。あら、これっていわゆる二股ですわよね。
その時に描いたアルマの肖像画。これ、日本にあるのよ(東京国立近代美術館所蔵)
でもすぐにココシュカとの恋愛関係がバレて、グロピウスとは絶交になるの。アルマは自由奔放な恋愛観を持ち、相手を支配する女王様体質。これ以降、ココシュカの人生全てが哀れなほどアルマに翻弄されていきます。(アルマについては「ココシュカの元カノ」を先に投稿してます)
さて、肝心の恋愛は独占欲の強いココシュカの嫉妬深さが原因で長続きせず、3年後にアルマから別れを告げられます。自暴自棄になったココシュカは第一次世界大戦に志願して東部戦線に従軍。
1年後、頭部に重傷を負って帰還したココシュカは、アルマに見舞いに来て貰いたくて知り合いに連絡してもらったら、アルマは既に再婚して子供まで産んでいたことがわかったの。しかも、相手はあのグロピウス!えぇ~、ココシュカが原因で絶交したんじゃなかったのォ~?もう踏んだり蹴ったりじゃん。
ココシュカ最大の不幸は、
・アルマの方はココシュカほどの深い愛情を持っていなかった
・別れの後もアルマへの思いを断ち切れなかった
ここで目が覚めるべきだったのに・・・。ココシュカ、残念。
それから3年後、アルマに執着するココシュカは、関節が動く等身大のアルマ人形」を発注します。完成したアルマ人形に洋服を着せ、居間や寝室で生活を共にし、外へも連れ歩いてたそうよ。そして、この人形をモデルに油絵でアルマの肖像画3点を描くの。ちょっと、ちょっと、ココシュカさん、それ、本物のアルマさんじゃなくて人形ですから~。恋しさのあまりとはいえちょっとヤバい人かも?
閲覧注意!メチャ怖いアルマ人形。 (※wikimediaより転載)
肌は短い毛皮で覆われているらしい・・・。なんでこんなにコワイねん!
さらにその3年後、画家の友人達とのパーティーで、ココシュカは酒に酔った勢いでアルマ人形をワインボトルで斬首。傷跡が赤ワインでぐっしょり濡れ、そのまま屋外に置きっぱなし。(それを見つけた警官が殺人事件と思って押し入ったところ、全員泥酔して寝ていたんだって)。ココシュカ殿、ご乱心。
あんなに大事な人形なのに、一体どうしたんでしょうか。生身のアルマはもう決して帰ってこないのに、いつまでも固執するココシュカ。自分でもそんな苦しい状態を脱出したくて、アルマ人形を「殺して」しまったの?
さて、こんなにもアルマを大好きなココシュカ、その後生涯独身かと思えば何人かと交際し、50歳の時に若い弁護士オルダ・パルコフスカ(1915-2004)という女性と結婚します(結婚したんかい!)。ふぅ~ん、人形を破壊した甲斐があったわね。その後ナチスから「退廃芸術」とされ、52歳の時に妻とロンドンに亡命。
オルダ・パルコフスカ(1937) ※オスカー・ココシュカ財団から転載
なんかココシュカと顔が似てる!父の故郷プラハへの移住後に結婚したから、もしや同郷の人なのかなぁ??????
その後、スイスに定住して一件落着かと思いきや・・・。
1949年、戦争が終わって世界が落ち着き始めた頃、63歳のココシュカはアルマの住むニューヨークへ旅行し、アルマに「会いたい」とメッセージを送ったのよ~。その日はアルマ70歳の誕生日。でもアルマは「最も輝いていた頃の私だけを彼の記憶に残したいの」として会わなかった。再会できないと知ったココシュカは、電報を打ちます。
「愛しいアルマ、僕たちは<風の花嫁>の中で永遠に結ばれているのです」
どうです、皆さん。さすが芸術家同士(アルマも音楽家)だと感心しますね。
でも、もし私なら、そんなに好きだったならばニューヨークで絶対再会しますわ!そう考える私はロマンがないのかなぁ?(誰にも会ってとは頼まれないけどね)
再会する理由は、「あれからお互いにいろいろあったけど、こうやって生きて再会できるのは素晴らしいこと」と手を取り合って、お互いの人生経験を尊重できるはず。外見も気持ちも変化しているけれど、だからこそ、そこに新たな喜びを見い出せる。冥途の土産になるし! 誰でも老いていくのは自然なことだし、年老いた姿は感慨深いよね。「もう美しくないから会いたくない」と言うのは実はもう好きじゃなくて、会って何するの、会うのがシンドイ(=気が重い、面倒、疲れる)のだと思うの。
あ、そうだった。ココシュカ不幸の始まりは、アルマはココシュカほどの深い愛情を持っていなかったことでしたわね。
百年に一人の純情ボーイ、ココシュカ。いつまでも忘れないよ。
でも最近は全然行ってない、コロナのせいで!
なんというか、ちょっと怖い・・・
(アルマ人形怖すぎ!)
ココシュカっていう名前のお店あるよね。この人形と結びついちゃった
何事もほどほどが大切ですにゃ