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「君が代」不起立処分大阪府・市人事委員会不服申立ならびに裁判提訴当該15名によるブログです。

大阪弁護士会「勧告書」全文掲載!

2020-02-07 13:54:00 | 弁護士会声明・決議等
お待たせしました!

梅原聡さんらが人権侵害救済の申立をした結果、大阪弁護士会が大阪府教育委員会に出した「勧告書」の全文を紹介します。大阪弁護士会は、「君が代」不起立ならびに意向確認による再任拒否は、思想及び良心の自由の侵害であると断罪しました。


勧告書

申立人X氏及び申立人Y氏より、当会に対し、大阪府教育委員会(以下「被 申立人」という。)による人権侵害の事実があったとして、適切な救済措置 を求める旨の申立てがありました。

当会人権擁護委員会において慎重に審査した結果、人権侵害があると認めま したので、以下のとおり勧告します。

第1 勧告の趣旨
1 教職員から再任用の申込みがあった場合に、その採否を決する資料とし
て用いるために、卒業式等の学校行事にて国歌斉唱時に起立を命じる内容の 職務命令に従う意向の有無を尋ねないこと
2 教職員の再任用または非常勤講師採用を拒絶する理由として、卒業式等の 学校行事にて、過去に国歌斉唱時に起立斉唱しなかったことや、今後起立斉 唱する意向を表明しないことを用いないこと

第2 勧告の理由
1 認定した事実
(1)大阪府における学校行事時の国歌斉唱の取扱い
2011(平成23)年6月13日、府立学校の行事において行われる 君が代斉唱の際に、教職員が起立により斉唱を行うこと等を定めた「大阪 府の施設における国旗の掲揚及び教職員による国歌の斉唱に関する条例」 (以下「国旗国歌条例」という。)が施行された。
2012(平成24)年1月17日、府立学校教職員に対し「入学式及び卒業式等国旗を掲揚し、国歌斉唱が行われる学校行事において、式場内 のすべての教職員は、国歌斉唱に当たっては、起立して斉唱すること」、 並びに、府立学校校長・准校長に対しては、教職員に対する当該通達の趣 旨を徹底するよう「職務命令を行うこと」を求める旨を内容とする教育長 通達(教委高第3869号、以下「教育長通達 」という。)が発せられ た。
2012(平成24)年3月28日、職務命令違反を理由として懲戒処 分を受けた職員に対し、指導、研修その他必要な措置を講じなければなら ないこと等を定めた「大阪府職員基本条例」が施行された。
2014(平成26)1月14日、被申立人は教育振興室長名で、府立 学校の校長・准校長に対し、卒業式・入学式における国旗掲揚や国歌斉唱 に関して教育長通達を踏まえて教職員を指導することや、起立斉唱の実施 状況等を被申立人に対して報告することを通知した(教委高第3866 号)。

(2)大阪府における教職員の再任用手続
大阪府の教職員には、60歳となった後の3月末日に退職した後に、希望者が再任用される制度がある。 再任用を希望した教職員は、再任用教職員採用審査会にて審査されるが、その手続は以下のとおりである。 選考を受けようとする者は、被申立人の指定する日までに、所属校の校長等を通じて被申立人に対し、再任用教職員採用選考申込書を提出して申 し込む。
採用選考申込みを受けた校長等は被申立人に対し、申込者の適性等につ いて内申する。
採用選考申込みを受けた被申立人は、申込者の従前の勤務実績、勤務意 欲、心身の状況及び資格・免許、専門的知識等と面接考査の結果を総合的 に判断して合否を判定する。
なお、2013(平成25)年3月29日、総務省は、各都道府県知事 及び各指定都市市長に対し、地方公務員の雇用と年金を確実に接続するた め、定年退職する職員が再任用を希望する場合、原則として当該職員を再 任用することを要請する旨を通知(以下「総務省通知」という。)してい る。

(3)教職員再任用手続における国歌斉唱の取扱い
国旗国歌条例が施行された2011(平成23)年度以降、被申立人は、学校行事での君が代斉唱時の不起立によって戒告処分を受けた者に対 し、「今後、入学式や卒業式等における国家斉唱時の起立斉唱を含む上司の職務命令には従います」と印字された書面を示し、その書面に署名捺印 することを促すようになった(以下「意向確認」という。)。
それ以降、2017(平成29)年度までに、申立人らを含めて16名 の者が意向確認を受けたが、そのうち、意向確認に応じる旨の書面捺印を した9名は再任用され、意向確認に応じなかった7名は再任用されなかっ た。
なお、意向確認が始まるまでに、国歌斉唱時の起立斉唱以外に、被申立 人が職務命令を発したことはない。また、当会からの照会に対する大阪府 教育庁の回答によれば、被申立人は、平成29年5月以降、意向確認の印 字を「今後、上司の職務命令に従います。」に変更しているとのことであ る。

(4)申立人X氏の再任用手続 申立人X氏は、1981(昭和56)年4月に被申立人に教職員として採用され、2007(平成19)年4月から2017(平成29)年3月 まで大阪府立A高等学校で理科教諭として勤務した。
2011(平成23)年度の卒業式における国歌斉唱時に起立斉唱しな かったとして、2012(平成24)年3月27日に被申立人から戒告処 分を受けた。
2013(平成25)年4月8日及び2014(平成26)年1月28 日、有給休暇を取得し、A高校の校門前において、他の教職員とともに、 国歌の起立斉唱を強制されることの不当性を訴えるビラを撒いたところ、 いずれも、同校校長から、国や大阪府、被申立人の方針と異なる内容のビ ラを撒くことを控えるよう口頭で指導された 。
2013(平成25)年度の卒業式における国歌斉唱時に起立斉唱しな かったとして、2014(平成26年)3月27日に被申立人から戒告処 分を受け、その戒告処分に伴う研修終了後の意向確認に対し、「地方公務 員法に定める上司の職務命令に従います。ただし、今回の研修では十分な 説明が得られなかったため、憲法その他の上位法規に触れると判断した場 合はこれを留保します。」と記載した意向確認書を提出した。
2016(平成28)年3月18日、上記各指導及び戒告処分につい て、申立人X氏からの人権救済申立に基づき、当会は被申立人に対し、 「教育現場の管理者、教職員、生徒、保護者らの思想及び良心の自由を尊 重し、『君が代』の起立斉唱を教職員及び生徒に強制してその思想及び良 心の自由を侵害することのないよう」、「教職員が勤務時間外かつ学校外 において行うビラの配布につき、当該ビラの内容が国、大阪府及び大阪府 教育委員会の考えと異なる内容になっていることを理由に制限することのないよう」勧告した。 2016(平成28)年4月8日、同校入学式の際、申立人X氏は有給休暇を取得し、同校正門前で、当会が行なった勧告の内容を踏まえて、府 の条例、被申立人の施策、同校校長の言動や職務命令を批判するビラを撒 いたところ、同校校長から、このようなビラを撒かないよう、口頭指導を 受けた。
2016(平成28)年12月、申立人X氏は、翌年3月に迎える定年 退職に伴う再任用に関する希望調査に対し、フルタイムでの勤務を希望し た。
2017(平成29)年1月24日、同校校長は申立人X氏に対し、再 任用の採否を決するために、入学式等の国歌起立斉唱の職務命令に従うか 否かについての意向確認を改めて行った。それに対し、申立人X氏は、 「思想信条にかかわる質問であり、生徒の就職の面接でも、このような質 問には答えないように指導しているので、答えることはできない」と言っ て回答を拒絶した。
同月26日、同校校長は府教育庁に対し、申立人X氏が上記職務命令に 従う意向であることが確認できなかった旨を報告した。
同月30日、府教育庁は再任用教職員採用審査会を開催し、申立人X氏 の選考結果を「否」とした。その理由は、過去の卒業式における国歌斉唱 時の不起立を理由とする各戒告処分と、その後の職務命令遵守意向を確認 できなかったことにより、「上司の職務命令や組織の規範に従う意識が希 薄であり、教育公務員としての適格性が欠如しており、勤務実績が良好で あったとはみなせない」というものであった。
なお、同校校長が作成した再任用選考内申書では、勤務実績等の4項目 (勤務実績、勤務意欲、専門的知識等、心身の状況)ともに「適」であ り、総合評価も「適」とされていた。

(5)申立人Y氏の再任用手続と非常勤講師採用手続 申立人Y氏は、1979(昭和54)年4月に被申立人に教職員として採用され、2010(平成22)年4月から2017(平成29)年3月 まで、大阪府立B高等学校で社会科教諭として勤務していた。
2011(平成23)年度の卒業式における国歌斉唱時に着席したとして、被申立人から戒告処分を受け、その戒告処分に伴う研修終了後の意向 確認に対し、「その都度、真剣に考え、行動していきたいと考えていま す」と記載した意向確認書を提出した。 それ以降、卒業式では会場外の業 務に従事していたため、国歌斉唱の局面に接することはなかった。
2016(平成28)年12月、申立人Y氏は、翌年3月に迎える定年退職に伴う再任用に関する希望調査に対し、フルタイムでの勤務を希望し た。
2017(平成29)年1月26日、同校校長は申立人Y氏に対し、再 任用の採否を決するために、過去の戒告処分時に申立人Y氏が提出した意 向確認書を示しながら、その入学式等の国歌起立斉唱の職務命令に従うか 否かについての意向確認を改めて行った。それに対し申立人Y氏は、撤回 する意思のないことを伝えた。
2017(平成29)年1月30日、府教育庁は再任用教職員採用審査 会を開催し、申立人Y氏の選考結果を「否」とした。その理由は、201 1(平成23)年度卒業式における国歌斉唱時の不起立を理由とする戒告 処分と、その後の職務命令遵守意向を確認できなかったことにより、「上 司の職務命令や組織の規範に従う意識が希薄であり、教育公務員としての 適格性が欠如しており、勤務実績が良好であったとはみなせない」という ものであった。
なお、同校校長が作成した再任用選考内申書では、勤務実績等の4項目 (勤務成績、勤務意欲、専門知識等、心身の状況)ともに「適」であり、 総合評価も「適」とされていた。
2017(平成29)年2月22日頃、申立人Y氏が大阪府のウエブ サイトにて非常勤講師の登録をしたところ、同年3月中旬頃、同校校長か ら、同年4月から同校及び大阪府立C高校に非常勤講師として採用する旨 の打診を受けたので受諾した。
同年4月6日、同校校長が申立人Y氏に対し、被申立人が非常勤講師と して採用しないことを決定した旨、口頭で告げた。なお、その理由は 、 「大阪府教育委員会の裁量に任されている」というものであった。

(6)申立人らが国歌を起立斉唱しなかった理由
申立人らは、「君が代」が、過去に現人神たる天皇陛下の統べる大日本帝国の未来永劫の繁栄を祈るものとして歌われ、日の丸とともに、侵略戦 争を遂行するために大々的に利用されてきたことから、侵略国家たる過去 の日本の「シンボル」であると考えており、それが戦争の加害責任を総括 しないまま国歌とされたことや、そのことに問題がないかのように振る舞 われている風潮に憂慮を抱いている。
さらに、申立人X氏は、教え子に在日朝鮮韓国人等、過去に日本の侵略 を受けた国にルーツを持つ生徒が存在し、その生徒の一人から、「君が代 斉唱時には立ちたくないし、歌いたくもない」との思いを聞いていた。
かかる事情から、申立人らは、生徒達を前にして君が代を起立斉唱する ことができなかったとのことである。

2 当会の判断
(1)被申立人が再任用及び非常勤講師採用を拒絶した理由
被申立人は、定年退職に伴う再任用を希望した申立人らに対し、その再 任用の採否を決するために、学校長を通じて、入学式等の国歌斉唱時の起 立斉唱を含む上司の職務命令に従うか否かについての意向確認を行った上 で、その職務命令に従う旨の意向確認ができなかったことに加えて、同人 らが過去に受けた、卒業式における国歌斉唱時の不起立を理由とする戒告 処分の存在を理由にして、「上司の職務命令や組織の規範に従う意識が希 薄であり、教育公務員としての適格性が欠如しており、勤務実績が良好で あったとはみなせない」として、同人らの再任用を拒絶した。被申立人 は、学校行事での君が代斉唱時の不起立によって戒告処分を受けた、申立 人らを含む16名について、国旗国歌条例が施行された2011(平成2 3)年度以降2017(平成29)年度までに、意向確認に応じる旨の書 面捺印をした9名を再任用し、意向確認に応じなかった7名を再任用しな かった。このことは、申立人らの再任用の拒絶理由が、入学式等の国歌起 立斉唱をしないことを理由とするものであることを明らかにしている。
さらに、被申立人は、非常勤講師の採用を希望した申立人Y氏に対し、 学校長を通じて採用する旨の打診をしたにもかかわらず、「被申立人の裁 量に任されている」として、その採用を拒絶したが、かかる経緯からし て、その採用拒絶の理由は、再任用の拒絶と同様、入学式等の国歌 起立斉 唱の職務命令に従うか否かについての意向確認を拒絶したことと、過去に 受けた、卒業式における国歌斉唱時の不起立を理由とする戒告処分の存在 であったと断じざるを得ない。

(2)「君が代」に関する申立人らの感情ないし意見は、憲法上保障されてい ること
憲法第19条や市民的及び政治的権利に関する国際規約第18条に定め る思想及び良心の自由は、人格形成にとって必須の精神的自由の支柱を成 す重要な権利であり、絶対的に不可侵とされる基本的人権で、人の内心の 表白を強制されない自由(􏰀黙の自由)を含むものである。
また、特定の思想及び良心を理由にして不利益かつ差別的な取扱いをす ることは、憲法第19条に違反すると同時に、信条による差別を禁じた憲 法第14条にも違反する。
申立人らは、「君が代」が侵略国家たる過去の日本の「シンボル」であ り、戦争の加害責任を総括しないまま国歌とされたことなどに憂慮を抱い ていることを理由に、「君が代」斉唱時に起立斉唱することに抵抗を感じ ているところ、国民の間には、国旗及び国歌に関する法律が制定された現在においても「君が代」に関して多様な意見が存在しており、その歴史的 経緯に照らして「君が代」斉唱に抵抗を感じる者も少なくないことからし て、「君が代」斉唱時に起立斉唱しないことは、決して独善的で特異なも のではなく、それが一般に共有可能な歴史観や真摯な動機に基づくもので あると言い得るから、申立人らの有する思想は、思想及び良心の自由とし て憲法上の保護を受けるものである。
したがって、申立人らが「君が代」に関して持っている感情ないし意見 を表白するよう強制することは、憲法第19条に違反するし、申立人らの このような感情ないし意見を理由に不利益かつ差別的な取扱いをすること は、憲法第19条及び第14条に違反する。そして、申立人らを採用する か否かは、被申立人の裁量に委ねられているとしても、憲法第19条や第 14条に違反することはできないのである。

(3)当てはめ
被申立人が、申立人らの再任用を拒否し、また、申立人Y氏の非常勤講
師採用を拒否した理由は、前記(1)のとおり、意向確認の対象となった事 由や過去に受けた戒告処分の事由である、入学式等の国家斉唱時に起立斉 唱をしないことを理由としたものである。申立人らが入学式等の国家斉唱 時に起立斉唱しないことについて、申立人らが有する「君が代」に関する 感情ないし意見は、前記(2)のとおり、憲法上、思想及び良心の自由とし て保障されているものである。
しかるに、被申立人が、過去に同様の懲戒処分を受けた、申立人らを含 む者の採用をする際に、意向確認に応じた者のみを採用し、意向確認に応 じない者については意向確認に応じないことや過去に受けた懲戒処分の事 由により採用しないことは、憲法第19条によって保障されている「􏰀黙 の自由」を侵害するものであるし、思想・良心を理由に不利益かつ差別的 な取扱いをするものであり、憲法第19条及び第14条に違反するもので ある。
しかも、総務省通知が定年後の雇用と年金支給の連続によって、定年後 の生活を事実上保障しようするものであるにもかかわらず、被申立人が憲 法第19条及び第14条違反を犯して申立人らの採用を拒絶することは、 この趣旨にも反するものである。

(4)結語
以上により、被申立人が申立人らに対し、再任用及び非常勤講師採用の
採否を決する資料として用いるために、入学式等の国歌起立斉唱の職務命 令に従うか否かについての意向確認を行ったことはもちろん、その意向確 認ができなかったことと、過去に受けた、卒業式における国歌斉唱時の不起立を理由とする戒告処分の存在を理由にして再任用及び非常勤講師採用 を拒絶したことは、申立人らの思想及び良心の自由を侵害するものである から、勧告の趣旨記載のとおり、勧告する次第である。

以上

なお、大阪弁護士会HPにも既に掲載されています。





















大阪弁護士会、梅原聡さんの人権救済申立に関し府教委に「勧告」!

2020-02-06 06:22:00 | 弁護士会声明・決議等
梅原聡さんより

2017年の「君が代」不起立に関わる、再任用拒否および非常勤講師採用の取り消しに関して、大阪弁護士会に申し立てていた人権救済について、2月4日付で、大阪府教委に対し勧告書を提出する旨の結果の通知がありました。

勧告の内容は次の2点

・再任用の採否を決する資料として、「君が代」の起立斉唱の職務命令に従う意向の確認を行わないこと
・再任用や非常勤講師の採用を拒絶する理由として、過去に起立斉唱をしなかったことや、今後起立斉唱のする意向を表明しないこと

勧告内容については、これまでの運動の成果もあって既に実現している内容にはなっていますが、その理由として、不起立や意向確認の有無で再任用を拒否することが、憲法19条や14条、国際人権規約18条などに違反することが明確に述べられていることは大きな収穫だと思います。

※なお、「勧告書」は後日掲載しますので、もう少々お待ちください。






大阪弁護士会 芦間高校「君が代」処分は人権侵害と認定!

2016-03-24 21:15:48 | 弁護士会声明・決議等
大阪府立芦間高校で起きた「君が代」不起立処分について、大阪弁護士会は、条例や職務命令で国歌の起立斉唱求めるのは人権侵害と認定、是正勧告を出しました。弁護士会勧告書の全文を掲載します。教育委員会ならびに芦間高校校長は弁護士会勧告を真摯に受け止め、ただちに「君が代」起立斉唱強制による人権侵害を是正すべきです。







ツワネ原則による法案の見直しと撤回を求める

2013-11-18 21:06:40 | 弁護士会声明・決議等
日弁連も再度特定秘密保護法案反対と見直しを求める声明を出しました。安倍政権は真摯に耳を傾けなければなりません。


http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2013/131115.html

特定秘密保護法案に反対し、ツワネ原則に則して秘密保全法制の在り方を全面的に再検討することを求める会長声明


国が扱う情報は、本来、国民の財産であり、国民に公表・公開されるべきものである。「特定秘密の保護に関する法律案」は、行政機関が秘密指定できる情報の範囲を広くかつ曖昧に設定し、かつ、運用の実態は第三者がチェックできない一方で、このような情報にアクセスしようとする国民や国会議員、報道関係者などのアクセスを重罰規定によって牽制するもので、まさに行政機関による情報支配ともいうべき事態である。


当連合会では、本年9月12日に「『特定秘密の保護に関する法律案の概要』に対する意見書」を、同年10月23日に「秘密保護法制定に反対し、情報管理システムの適正化及び更なる情報公開に向けた法改正を求める意見書」を公表し、同月25日に「特定秘密保護法案の閣議決定に対する会長声明」を公表した。当連合会の相次ぐ意見表明に対して、新聞やテレビ、ラジオ、雑誌、インターネットニュースなどがこぞって法案を問題とする報道を行うようになったこともあり、多くの国民が法案に関心を抱くとともに、法案の賛否に関わらず早急な成立を望まない声が日増しに強くなっている。このような国民の意向を受けて、政府及び国会には、法案の慎重審議が強く求められている。

ところが、政府及び与党は、法案を慎重審議するどころかむしろ短期間で成立させようとしている様子さえ窺える。政府及び与党が我が国における法案の重要性を強く認識するのであれば、尚更のこと、国民の理解と納得を得られるよう、法案の内容を検討し直すべきである。

「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」(以下「ツワネ原則」という。)は、自由権規約19条等をふまえ、国家安全保障分野において立法を行う者に対して、国家安全保障への脅威から人々を保護するための合理的な措置を講じることと、政府の情報への市民によるアクセス権の保障を両立するために、実務的ガイドラインとして作成されたものであり、本年6月、南アフリカ共和国の首都・ツワネで公表されたものである。

当連合会では、これまでの提案を踏まえ、ツワネ原則による法案の見直しと撤回を求める。

以下、ツワネ原則に則して特定秘密保護法案の問題点を指摘する。

1 ツワネ原則1、4は国家秘密の存在を前提にしているものの、誰もが公的機関の情報にアクセスする権利を有しており、その権利を制限する正当性を証明するのは政府の責務であるとしている。しかし、法案にこの原則が明示されていない。

2 ツワネ原則10は、政府の人権法・人道法違反の事実や大量破壊兵器の保有、環境破壊など、政府が秘密にしてはならない情報が列挙されている。国民の知る権利を保障する観点からこのような規定は必要不可欠である。しかし、法案には、このような規定がない。

3 ツワネ原則16は、情報は、必要な期間にのみ限定して秘密指定されるべきであり、政府が秘密指定を許される最長期間を法律で定めるべきであるとしている。しかし、法案には、最長期間についての定めはなく、30年経過時のチェックにしても行政機関である内閣が判断する手続になっており、第三者によるチェックになっていない。

4 ツワネ原則17は、市民が秘密解除を請求するための手続が明確に定められるべきであるとしている。これは恣意的な秘密指定を無効にする上で有意義である。しかし、法案はこのような手続規定がない。

5 ツワネ原則6、31、32、33は、安全保障部門には独立した監視機関が設けられるべきであり、この機関は、実効的な監視を行うために必要な全ての情報に対してアクセスできるようにすべきであるとしている。しかし、法案には、このような監視機関に関する規定がない。

6 ツワネ原則43、46は、内部告発者は、明らかにされた情報による公益が、秘密保持による公益を上回る場合には、報復を受けるべきでなく、情報漏えい者に対する訴追は、情報を明らかにしたことの公益と比べ、現実的で確認可能な重大な損害を引き起こす場合に限って許されるとしている。しかし、法案では、この点に関する利益衡量規定がなく、公益通報者が漏えい罪によって処罰される危険が極めて高い。

7 ツワネ原則47、48は、公務員でない者は、秘密情報の受取、保持若しくは公衆への公開により、又は秘密情報の探索、アクセスに関する共謀その他の罪により訴追されるべきではないとし、また、情報流出の調査において、秘密の情報源やその他の非公開情報を明らかすることを強制されるべきではないとしている。しかし、法案にはこのような規定がないどころか、第23条ないし第26条の規定によって広く処罰できるようにしている。

この原則の策定には、アムネスティインターナショナルやアーティクル19のような著名な国際人権団体だけでなく、国際法律家連盟のような法曹団体、安全保障に関する国際団体など22の団体や学術機関が名前を連ねている。この原則には、ヨーロッパ人権裁判所やアメリカ合衆国など、最も真剣な論争が行われている地域における努力が反映されている。起草後、欧州評議会の議員会議において、国家安全保障と情報アクセスに関するレポートにも引用されている。

当連合会は、政府が安全保障上の理由によって一定の事項を一定の期間、秘密とする必要があると判断し対応していることを、全面的に否定するものではない。しかし、このような対応を許容することによって、国民の基本的人権である言論の自由、プライバシー権が侵害されるべきではない。

法案に上記のような構造的な問題点があることが明らかであるから、政府は、法案を一旦白紙に戻し、現存する国家公務員法や自衛隊法などの中に含まれる秘密保全法制も含めて、秘密保全法制の在り方を根本的に見直すべきである。

大阪維新の会・大阪府議会議員団提出の三条例案の廃案を求める声明

2012-11-25 05:48:11 | 弁護士会声明・決議等

※大阪労働者弁護団が大阪維新の会・大阪府議会議員団が府議会に提出した「労使関係に関する条例案」「職員の政治的行為の制限に関する条例案」および「政治的中立性を確保するための組織的活動の制限に関する条例案」の廃案を求める声明を出しました。

労働者弁護団のみならず、違憲・違法の条例案廃案は、広く私たち市民にとっても課題です。大きく声をあげましょう。


大阪維新の会・大阪府議会議員団提出の三条例案の廃案を求める声明
              
2012年11月19日
                 大阪労働者弁護団
                 代表幹事 丹羽雅雄

第1 はじめに
 本年10月,大阪維新の会・大阪府議会議員団は,大阪府議会に,「労使関係に関する条例案」「職員の政治的行為の制限に関する条例案」および「政治的中立性を確保するための組織的活動の制限に関する条例案」を提案した。
 これら条例案,とりわけ前2条例案は,以下に述べるとおり,憲法19条,21条,28条に抵触する違憲・違法なものであり,即時の廃案を求める。

第2 「労使関係に関する条例(案)」
 本条例案は,以下のとおり違憲・違法なものである。
1 第1に,本条例案は,「適正かつ健全な労使関係の確保」(1条)を目的としているが,何故かかる条例が今必要とされるのか,その必要性が全く不明である。
  具体的な根拠もなく,あたかも現在「不正常な労使関係」があるかの如き前提で,ただ労働組合の存在,活動にいたずらに制約のみを加えようとする条例案は,憲法28条に反するものである。
2 第2に,団体交渉に関する3条及び4条の問題である。
  本条例案は,3条において「交渉事項」を定めながら,4条においては,1号から14号まで,交渉対象にできない極めて広範な「管理運営事項」を定めている。この内容からすれば,現実には,本来の交渉事項のほとんどが4条の「管理運営事項」とされ,団体交渉が拒否される可能性が極めて高い。例えば,大阪市においては,労働組合事務所の貸与の問題が,本来は3条6号の「労使関係に関する事項」であり,労使間の交渉の対象となる事項となるはずであるのに,現実には,「管理運営事項」として交渉が拒否されている状況にある。
  このような条項は,憲法28条,地方公務員法(以下「地公法」という。)55条,労働組合法(以下「労組法」という。)7条2号に反するものと言わねばならない。
  更に,4条2項においては,「管理運営事項」については,「意見交換」すら禁止している(転任等の任命権の行使に関する事項については説明すらされないこととなっている)。「管理運営事項」に該当する事項に関しても,現場の意見を的確かつ効率的に収集し,反映させるためには,むしろ労働組合との協議ないし意見交換は不可欠であるか,少なくとも望ましいことである。しかるに,懲戒処分の強制力をもって(7条),話し合いまでも全面的に禁止することは,現場の意見が府政に反映される重要な機会を喪失することになり,府民にとっても多大な不利益を及ぼすこととなる。
3 第3に,交渉内容の公表等に関する6条についての問題である。
  6条2項は,交渉を報道機関に全面的に公開すると規定している。労使交渉の結果については,透明性確保の見地から公開するのが望ましいということはできよう。しかし,交渉である以上,交渉当事者が萎縮することなく率直な意見交換を行うためには必ずしも公開しないことが相当な場合があることは当然であり,例外なく全てを公開することは,交渉の趣旨に反する。当局がこのような公開交渉でなければ交渉に応じない(5条による交渉方法の取り決めに応じない)とすれば,これは団交拒否行為に他ならず,憲法28条,地公法55条,労組法7条2号に反するものである。
4 第4に,8条(適正かつ健全な労使関係の確保),9条(違法な組合活動を抑止する措置),10条(収支報告書等の提出)および11条(職員団体の登録の取消し等)の問題である。
  これらに関する規定は,地公法53条であるが,条例案は地公法の規定を遙かに超えて,職員団体に対する不当な干渉の根拠を与えようとするものである。これらの規定は,正に労組法が禁じる支配介入を条例という形で合法化しようとするものと言わねばならず,明白な憲法28条,上記地公法,労組法7条3号違反と断ぜざるを得ない。10条は,人事委員会が職員団体に対して,収支報告書の提出を求めることができると規定しているが,これは明らかに支配介入の不当労働行為(違法行為)である。11条に定める人事委員会の措置が,地公法53条6項に定める内容と同じであるならば,改めて条例で定める必要はないし,それ以上の措置を定める趣旨であるとするならば,いずれにしても労働組合をただ規制するためだけの規定としか考えられず,明らかに地公法に反し,憲法28条に抵触するものと言わねばならない。
5 第5に,便宜供与について定める12条の問題である。
  この規定は,労働組合等の組合活動に対して,今後原則として便宜供与を行わないと規定するものである。便宜供与はILOの「企業における労働者代表に与えられる保護及び便宜に関する条約」(135号)で労働組合に認められている権利であり,労使で話し合って決定していかねばならない事柄である。それが,労働者・労働組合の団結権に基礎を置いていることは,最高裁判決を含め,異論のないところである。原則として便宜供与を認めないことを予め宣言することは労働者及び労働組合に対する明確かつ不当な敵意の表れである。継続されてきた便宜供与について,使用者が合理的理由なく一方的に廃止することは典型的は不当労働行為であることは,多くの裁判例・労働委員会命令例において認められてきたところであるが,現在大阪市においては,本条例案と同内容の市条例を根拠としてこの不当労働行為が行われている。断じて許されざるところである。かかる規定は前代未聞であり,到底許されるものではない。
6 労使間の問題は,本来,相互理解の上に立って話し合いを重ねることにより解決されねばならない。
  労働組合,労働組合員を敵視し,労使関係をいたずらに硬直化させ,労働者の団結権,団体交渉権を不当に一方的に制約し,ひいては府民サービスに悪影響を及ぼすこととなる本条例案は直ちに廃案とされねばならない。
                                          
第3 「職員の政治的行為の制限に関する条例(案)」
 本条例案は,「地方公務員法第36条第2項第5号の条例で定める政治的行為」を規定するものである。
 しかし,そもそも政治的行為は民主主義社会において最も基本的かつ最大限尊重されねばならない重要な権利であり,公務員と言えどもその制限は必要最小限に留められねば憲法19条及び21条に違反にするとの謗りを免れない。
 そのため,地公法36条も一定の目的をもって行われる限定された政治的行為のみを禁止するにとどめ,かつ,違反に対して何らの罰則も設けていないのである。地公法36条5項が,「本条の規定は,職員の政治的中立性を保障することにより,地方公共団体の行政及び特定地方独立行政法人の業務の公正な運営を確保するとともに職員の利益を保護することを目的とするものであるという趣旨において解釈され,及び運用されなければならない。」と規定しているのもその趣旨である。公務員の政治的行為の規制については,国公法と地公法において異なっていることは条文上も明らかなところである。
 ところが,本条例案4条は,地公法36条に違反した場合,「懲戒処分として……免職の処分をすることができる」と明記しており,被処分者は刑事罰を受けるにも等しい重大な不利益を受けることとなる。また,本条例案で新たに規制の対象とされた政治的活動の中には,地公法では禁止されていない軽微な行為(政党または政治団体の発行する機関紙の発行を援助すること(2条3号),政治的目的を有した署名・無署名の文書・図画・音盤・形象の著作・発行・編集,および配布・回覧すること(同6号),政治的目的を有する演劇を演出し若しくは主宰し又はこれらの行為を援助すること(同7号),政治上の主義主張などの表示に用いられる旗・腕章・記章・襟章・服飾その他これに類するものを製作・配布すること(同8号)等)が含まれており,これらの行為に対して,懲戒免職を含む懲戒処分を定めることは規制手段としての相当性に欠ける。
 また,本条例案2条が列挙する「政治的行為」の個別の項目において,例えば,本条例案2条5号は制限される行為として,国家公務員と同様に,「ラジオその他の手段を利用して」公に政治的目的を有する意見を述べることを挙げている。しかし,地方公務員は国家公務員と異なり,自らが属する地方公共団体の区域外においては自由に政治活動を行えるのであり,かかる規定は,地公法36条を超える制限を課すものとして違法無効であるといわざるをえない。
 以上より,本条例案は,総体として違憲違法である。
 当弁護団の見解は以上のとおりであるが,このような民主主義社会における基本的な権利がなし崩し的に規制されていき,いずれ近い将来に一般市民の権利にまで規制が及ぶことをも危惧するものである。
 よって,本条例案は,憲法上の重要な基本的権利を侵害するものであり,条例として制定されることがないよう強く求めるものである。
                                          以上