6月3日、2018年・グループZAZA連続講座「メディアの現場から―歴史をふり返り、今を考える」
の第2回目、下地毅さん(朝日新聞記者)講演会「報道の縦軸と横軸」は、70名近い方々の参加をえて、盛況のうちに行うことができました。参加いただいた方々、ありがとうございました。
下地毅記者の講演の報告です(山田肇)
新聞記者として何を取材し、何を報道するか、その価値判断は「報道の縦軸と横軸」。
報道の縦軸は歴史性であり、横軸は社会性・・・豊かな民主主義を築くための広がりということ。
瀧本邦慶さん『96歳 元海軍兵の「遺言」』の本の「あとがき」を中心に、現状の朝日新聞の批判。
瀧本邦慶さんが、なぜ、「語り部をやめる」と言ったのか?瀧本さんを孤立させたものは何か?誰か?
また、沖縄戦の体験者が、「天皇が大キライ」と申し訳なさそうに、なぜ、言うのか?
天皇の戦争責任を問うのは遠慮しなさいと、自ら沈黙して、人々に沈黙を強いている。暗に発信している。政治的主張をするなと言って、従わない者への殺し文句を発している。
朝日新聞の責任は重い。「いまの『朝日新聞』からは(戦争につながる)『芽』を見つけだす能力が失われた」。「はてしなく現状に心身をすり寄せる。大勢に同化・同調し、適応・適合し、順応・順守し、
応化・即応し、千代に八千代に服従する」。「『なにをしたのか』をかえりみない社会は『なにをしているのか』も『なにをしようとしているのか』も見うしなう」。
そして、南京大虐殺を「南京事件」と表記させられる。「慰安婦」報道では、「被害者」と書くなと言われる。朝日新聞社内での生々しいやり取りのようす。「苦情が来る」とか、「危ない」という「圧力」を作り上げ、育てている社内の上の人たち。“いい人たち”だが、流れに従うプチ・アイヒマンを感じる。
怖いことに私の中にも、それがある。しかし、記者として、絶対、譲れないものがある。
下地記者の日々の取材と、また、朝日新聞社内での苦闘ともいうべき話から、
「報道の縦軸(歴史性)と横軸(社会性)」をもって、真実を伝えるメディアの役割を貫こうとする
下地記者の気概と信念を感じました。ここに朝日新聞の希望を感じます。
後半の話は、大阪に転勤する前に福井に3年間いた時の話。
東尋坊で自殺を止める活動に参加し、取材した。そのルポは3年で500回に達したという。
入社した頃、「目の前に溺れている人がいる。助けるべきか、取材するべきか」という設問を出された。
どちらもやればいい。助けて取材すればいい。自殺しようと考えて東尋坊にやって来る人に対しても、自殺を止めて、取材した。
自殺を止めるのは簡単。しかし、自殺を止めたあと、自殺に至った問題は何も解決していない。
第一歩は生活保護を申請し、いっしょに考えていこうと、窓口に行って、申請に同行した。
ほぼ100%申請が通らせるほど、生活保護の申請について勉強した。
追いつめられて自殺しようとまで思いつめ、東尋坊にやって来る人々の生きてきた現実を知った。
家族の風景がない。学歴が低い人が多い。非正規や派遣で200も300も職業を点々とした人たち。
今の社会がどうなっているのか、考えさせられた。
その下地記者の関わりがハンパじゃないことを話の中から感じた。娘が母に電話したら、
「死ね」と言うのを聞いて、東尋坊からその人を車に乗せて8時間、和歌山の母の所まで一緒に行く。
行ってみたら、その母が娘に「死ね」と言うような現実を知る。
しかし、もう取材の域を超えている。下地記者は、自殺しようと東尋坊までやって来た人に
生活保護をふくめ親身に生活の相談に乗り、そこまで関わる。
何とかして助けたいという人間としての関わりを感じる。できることではないと思う。
こういう話の中から、下地記者の人間性の一端にふれた気がした。
そして、「ネトウヨ」に流れる人たちについての話。オレは耐えている。お前もガマンせよ。
孤独、怒り、虚無感から、他者への攻撃に走る。自己否定と他者否定は一体。
彼らの心にひびく言葉は何か、と考える、という。
この国の、この社会の“生きづらさ”を伝え、伝えることによって、どうすればいいのかを投げかける報道。また、日本は「何をしたのか」を伝える報道。それを下地毅記者は、朝日新聞というメディアの最前線で奮闘されている。「絶対、譲れないもの」をしっかりと持って。
6月3日の下地毅記者の話は、私の心に強くひびいた。
◆次回の案内
2018年グループZAZA・連続講座【第3回】【第4回】は、朝日新聞・中村尚徳記者の講演です。
中村尚徳記者は『反骨の記録』を朝日新聞夕刊に2016年4月19日から6月24日まで42回にわたって連載されました。
中江兆民、与謝野晶子、幸徳秋水、大石誠之助、宮武外骨、黒島伝治ら侵略戦争に反対した闘いを知らせ復権するものでした。『反骨』の闘いの歴史から学び、安倍政権の憲法改悪・再びの戦争に対して
NOをつきつける闘いの道を考えたいと思います。
【第3回】9月9日(日)2時~ エル大阪・606号室
演題は、「なぜ『反骨』を書くのか、その今日的意義を考える
【第4回】10月8日(月)2時~ エル大阪・南734号室
演題は、「『反骨の記録』から考える憲法問題―改憲に抗うために」