陳述書
令和2年7月17日
○○○○
1 略歴
(1) 私の略歴は、次のとおりです。
昭和61年4月 大阪府公立学校教員に採用
昭和61年4月 大阪府立○○高等学校教員に採用
平成6年4月 大阪府立△△高等学校教諭
平成19年4月 大阪府立△△高等学校主席
平成24年4月 大阪府立△△高等学校教頭
平成27年4月大阪府教育委員会事務局教職員室教職員人事課管理主事
平成30年4月 大阪府立◇◇高等学校校長(現在に至る)
(2)本件で原告梅原聡氏(以下「梅原氏」といいます。)にーー校長が意向確認をした平成29年1月24日当時、大阪府教育庁教職員室人事課教員力向上支援グループの管理主事として勤務し、教職員の研修、指導等の業務を担当すると共に、教職員室教職員人事課が所管する再任用教職員採用選考審査会(以下「再任用審査会」といいます。)の庶務の事務をしていました。なお、教職員室教職員人事課の管理主事は、大阪府教育委員会通則第9条第5項に規定された職であり、教職員の指導、研修、再任用事務等の職務に従事するとされています。
2 梅原氏の再任用に関する意向聴取について
(1)梅原氏が過去に受けた戒告処分
梅原氏は、平成24年3月27日、同年3月8日に実施された勤務校である府立――高等学校の平成23年度卒業式において、職務命令に違反して国歌斉唱時に起立しなかったことが、地方公務員法(以下「地公法」といいます。)32条に規定する上司の職務命令に従う義務に違反するものであり、学校教育に携わる公立学校教員として全体の奉仕者たるにふさわしくない非行であり、その職の信用を著しく失墜するものとして、地公法29条1項1号及び3号に該当するものとして、戒告処分を受けました。
また、梅原氏は、平成26年3月27日、同年3月6日に実施された勤務校である府立芦間高校の平成25年度卒業式において、職務命令に違反して国歌斉唱時に起立しなかったことで、同様に戒告処分を受けました。
( 2 ) 戒告処分後の一連の手続きの流れ
府教委は、職務命令違反による戒告処分を受けた職員に対しては、資質向上研修を行っており、その研修後、「卒入学式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む上司の職務命令に従う」旨を記した意向確認書(以下、「文書」といいます)に署名・押印の上提出することを求めていました。そこで、何もなければ当該処分についてはそれで終了となりますが、「文書」を改変・加筆したもの
については、後日に「なぜ改変・加筆を行ったのかということから、元の「文書」に記載した内容の職務命令に従えるのかについて再度の意向確認を行っておりました。
梅原氏についても、平成28年1月に研修を行い、その研修後に前述の「文書」に署名・押印を求めましたところ梅原氏は「地方公務員法に定める上司の職務命令に従います。ただし、今回の研修では十分な説明が得られなかったため、憲法その他の上位法規に触れると判断した場合はこれを留保します。」と修正して提出しました。
そこで、府教委は、その後平成29年1月初旬から中旬頃、梅原氏が元の「文書」に記載の内容の職務命令に従えるのか確認を行うため、梅原氏の勤務校である大阪府立○○高等学校の萩原校長に指示し、同月24日朝に、――校長から、梅原氏に対し、意向確認を行ってもらいました。やりとりについては、――校長から、ほぼ訴状で書かれているとおりだった旨報告を受けています。
結局、梅原氏から、元の「文書」に記載の内容の職務命令に従えるのかの確認はできませんでした。なお、梅原氏は翌25日に、梅原氏からーー校長に「なぜ答えないかという部分をきちんと伝えたか」について確認し、府教委に「思想・信条に関わる質問を再任用に関連して聞くことは不適切ではないか」という点を聞くように依頼したところ、翌同月26日に、――校長から梅原氏に、「こちらからこの件に関して答えることはない」との府教委からの回答を伝達されたと主張していますが、梅原氏からーー校長への確認の要請は26日であり、――校長から梅原氏に対する府教委からの回答の伝達は27日のことでした。
( 3 ) 大阪府商工労働部からの労政課からの質問と回答
その後、同年2月3日午後1時30分頃、大阪府商工労働部労政課の担当者が、教職員人事課に見え、教員力向上支援グループの◎管理主事と私が対応しました。そのやりとりは、本裁判で証拠として提出されている大阪府の同月13日付け部分公開決定通知書添付の文書のとおりです。
このなかで、労政課の担当者から前述の意向確認の理由を問われ、◎管理主事が再任用選考のために行っているのではなく、処分を受けた職員に対する一連の流れの中で行っているものであるとの回答をしたのは事実です。この回答の趣旨は、前述しましたように、職務命令違反による戒告処分を受けた職員に対しては、資質向上研修を行い、その研修後に、今後は職務命令に従うとの研修結果を確認するために「文書」に署名・押印の上これを提出することを求めているが、文書を改変・加筆した者には、かかる研修成果を確認できないことから、後日に元の「文書」に記載した内容の職務命令に従えるのかについて再度の意向確認を行っているところ、今回の意向確認もその手続きの流れの一環であることを理解してもらいたかったということです。
労政課の担当者は、最初に「厚労省が定める14項目は就職差別につながりやすい」云々を説明されました。私たちも、再任用するための質問の中で「思想」に関する質問をすることは違反であることは承知しておりましたが、処分を受けた職員に対する一連の流れの中で行っている意向確認は、それが再任用するか否かにかかわるものになるとしても「今後は職務命令に従うとの研修結果を確認する」ために行う意向聴取であって憲法で禁じられている思想信条の自由に違反する質問ではないと認識しており、そのことを労政課の担当者に理解してもらいたかったのです。
労政課の担当者が私たちに対し、意向聴取が思想・信条に関する質問に該当すると表明された事実はありません。「過去の処分歴について聞くことは違反質問ではありません。」と述べる一方、「聞き方については注意していただきたい。アドバイスです。」と単なるアドバイスにとどまるものでした。本件について意味のあるアドバイスではないと理解しております。
3 平成29年度再任用教職員採用審査会について
(1)再任用の選考手続きについて
大阪府の職員らの再任用は、地方公務員法28条の4、同法28条の5、及び、職員の再任用に関する条例に基づいてなされるところのものであるところ、梅原氏ら教職員の再任用の採用に係る選考に実施並びに任期の更新の手続きに関しては、「再任用教職員の採用選考等に関する要綱」に基づいて実施されます。
梅原氏は、改正高年法の趣旨等を援用して、再任用制度が再任用を原則として制度であり、大阪府は再任用を義務付けられると主張していますが、再任用制度は高齢者の生活補償のための雇用の確保という点のみならず、公務の効率的運営の確保という趣旨も有していること、再任用制度であっても、公務員の新規任用のための選考である以上、府教委がその採否について広範な裁量権を有していることからすると、任用を義務付けられるものではありません。なお、梅原氏は、この府教委の裁量権の範囲に関連して、大阪府の再任用制度については高い合格率となっていることを取り上げていますが、そもそも大半の教職員は、通常の能力・規範意識を有しており、懲戒事由に該当するような問題行動を起こすこともなく、教師としての能力にも特段の問題がないから、結果として合格率が高いだけで、また、合格率が高いとしても、全員が再任用されるものでないことは梅原氏自身も認識していると思います同制度の目的等からして、再任用が適当でない事由があれば、再任用されないこととなること自体特段不合理不相当なことではありません。
梅原氏は平成28年度定年退職者であるところ、府教委は、梅原氏を含む同年度退職者に対し再任用希望調査を原則として書類審査によって実施し、梅原氏から再任用教職員採用選考申込書が提出されました。梅原氏は現勤務校のある2学区でフルタイムでの勤務を第1希望とされました。
これを受けて、各再任用希望者の所属校の校長等からの内申を経て、選考を実施することになるわけですが、選考に当たっては、公正を期するため、府教委内に再任用職員採用審査会(以下「本件審査会」といいます。)が置かれ、本件審査会において選考の合否及び任期の更新の可否、その他再任用に選考に関する重要事項についてあらかじめ審査し、その意見を教育長に報告することになっており(再任用職員審査会規定(内規))、再任用審査会の審査は、教育長による再任用または再任用任期更新の決定を補助する性質のものとなっております。
( 2 ) 梅原氏にかかる審査
梅原氏については、同年1月30日開催の本件審査会において審査され、懲戒処分歴、研修後に提出された「文書」や意向確認の経緯等もふまえ、総合的に判断して結果再任用選考結果を「否」とする意見となったものです。
これを受けて、府教委は、梅原氏について再任用しなかったものであります。
以上のとおり、間違いありません。