「君が代」不起立戒告処分取消共同訴訟 弁護団声明
2019.12.23
2019.12.23
このたび,最高裁判所は,君が代斉唱時に起立しなかった教員らに対する戒告処 分の取消し等を求める訴えについて,私たちの上告を棄却する判断をしました。
今回の裁判で,私たちは,大阪府における卒入学式での君が代斉唱のあり方が極 めて異常であることを訴え続けてきました。2011年6月13日,大阪府国旗国 歌条例が成立しました。その直後の2011年8月19日,大阪維新の会が発表し た大阪府教育基本条例案では,教員が同じ内容の職務命令違反を3回繰り返したと きは免職とするという規定が盛り込まれました。この条例案は,まさに,君が代斉 唱時に起立斉唱しない・できない教員を狙い撃ちにして学校から排除することを目 的とするものでした。その後,大阪府教育基本条例案の露骨さをごまかすために「3 回の職務命令違反で免職」のルールが教員から大阪府職員全体に広げられ,大阪府 職員基本条例が成立しました。その結果,教育は上司の立場に従う一般公務員の仕 事と同じく扱われることになってしまいました。
最高裁判所は,かねてより,卒入学式において教員に対して君が代斉唱時に起立 斉唱を命じることは,教員の思想良心に対する間接的な制約にすぎないとして,起 立斉唱の職務命令は憲法違反ではないと判断してきました。しかし,大阪府では最 初から君が代斉唱時に起立斉唱しない・できない・すべきでないと考える教員を狙 い撃ちにして学校から排除するための制度を整え,起立斉唱の職務命令を出してい ました。したがって,大阪の事例は教員の思想良心に対する「直接的な制約」にあ たることがより一層明白なケースでした。
その意味で,最高裁判所は,今回のケースを新たな目線で判断すべきでしたが, そのような判断はされませんでした。そのほかにも,この裁判で新たに主張した「教 員としての思想良心の自由」の論点を含む憲法上の争点に対して,最高裁判所は何 らの回答もしませんでした。これは,最高裁判所が,君が代の起立斉唱を教員に強 制することが子どもの教育にどのような影響を与えるかについて検討しなかったこ とを意味します。
私たちは,人権の最後の砦であるはずの最高裁判所が,人権侵害を訴える主張に 目を向けず,特に根拠なく持ち出された社会の多数派の視点に立って「君が代の起 立斉唱は慣例上の儀礼的な所作である」などとして教員の思想良心に対する広い制 約を許す姿勢を示していることに深く憂慮します。今後も,裁判所に対して「人権 の砦」としての存在意義を問い続けたいと思います。