※私たち市民は、おかしいと思うことに対しておかしいと言うことができるはずです。
表現の自由は民主主義社会の基本といってよいでしょう。
しかし、その表現の自由がなにやら最近脅かされつつあるように思います。
「大阪駅通り抜け事件」の意味を今一緒に考えてみませんか。
高作正博さんのフェイスブックから掲載させていただきます。
例の「大阪駅通り抜け事件」(ある学習会で、質問をお寄せ下さった方のネーミングです。)で逮捕された3名の方のうち、1名について起訴されてしまいました。この逮捕・起訴が不当であるとし、表現の自由を保障する見地から起訴の取消を求める声明です。
法律論が展開されているため、なじみのない方には読みにくいかもしれません。
ですが、ここで述べられているのは一つ。
すぐに起訴を取り消し、不当逮捕であったことを認めるべし、です。
JR大阪駅前広場での宣伝活動に関する起訴の取消しを求める憲法研究者声明
(非常に長いです。すみません。が、重要です。)
1 声明の趣旨
私たちは、2012年12月17日発表の「JR大阪駅頭における宣伝活動に対する威力業務妨害罪等の適用に抗議する憲法研究者声明」の呼びかけ人等です。
その後、12月28日、大阪地検は、逮捕された3名のうち2名を「処分保留」とし釈放しました。しかし私たちは、1名(H氏)を威力業務妨害罪(刑法234条)で起訴したことについて納得ができません。そこで再度声明を発表し、大阪地検に対して起訴の取消し(刑事訴訟法257条)を求めます。
2 H氏の公訴事実について
H氏は、2012年10月17日の午後3時ころより約1時間程度の間、JR大阪駅前の「東広場」において、H氏を含む約40名の市民が震災瓦礫処理に関連する宣伝活動を行った際に、公道との境のないJR大阪駅の敷地内に立...ち入り、ビラを無許可で配布したことなどを駅係員に制止されたことに対して、大声で抗議し、駅係員の足を踏んだとされています。このようなH氏の行動が、駅係員の警備活動という業務を妨害した威力業務妨害罪に当たるとされて、起訴が行われました。
私たちは、たとえH氏が行ったとされていることを前提にしたとしても、それらは決して威力業務妨害罪を成立させる行為ではなく、大阪地検は、起訴を取消すべきだと考えます。その理由を以下で述べます。
3 H氏の言動がなされた場所について
H氏を含む約40名の市民が宣伝活動をした場所は、JR大阪駅御堂筋コンコース北口のガラス製の扉の外および同中央コンコース東口のガラス製の扉の外にある広場です。現場にある「大阪ターミナルビル(株)」名義の「ご注意」との掲示には「東広場」と書かれています。確かにこの掲示には、禁止事項として「許可を受けず集会、演奏活動等を行うこと」、「許可を受けずポスター、ビラ等を掲示・配布・貼付等すること」が明記されています。しかし、柵等の何らの境界もなくこの「東広場」に隣接する公道では、日頃から演奏活動等がなされ、「東広場」内に数十名の聴衆が集まることも稀ではありません。
4 H氏の言動は威力業務妨害罪に該当しない。
以上の現場の特性を踏まえると、禁止事項が明示されていたということのみで、JR大阪駅係員に、宣伝活動等を禁ずる正当な権限があったとは考えられません。したがって、JR大阪駅やそれと不可分の商業施設の利用者等の交通を著しく妨げる態様であった等の特段の事情のない限り、そもそも駅係員の制止等は法令に基づく正当な業務ではないと考えられます。日頃からなされている演奏活動等については何ら問題視せず、H氏らの宣伝活動のみを殊更に問題視していることからは、H氏らの宣伝活動の態様ではなく内容を問題視したとの疑問が払拭できません。
一応、駅係員の業務の根拠となりうる法律がふたつあります。ひとつは鉄道営業法です。同法42条は、同法35条で「鉄道係員ノ許諾」を得ないで「鉄道地」内でなすことを禁止された行為(寄付の要請、物品販売、物品配布、演説勧誘行為等)をなした者を「鉄道地外ニ退去」させる権限を鉄道係員に付与しています。しかし、「鉄道地」とは、最高裁の判例によれば「鉄道の営業主体が所有又は管理する用地・地域のうち、直接鉄道運送業務に使用されるもの及びこれと密接不可分の利用関係にあるもの」(昭和59年12月18日判決)です。この判例に照らしてJR大阪駅「東広場」は「鉄道地」ではないと評価できますので、駅係員に鉄道営業法42条に基づく退去要請の権限があったとは考えられません。ふたつ目は、刑法130条に基づくJR大阪駅の管理権者の施設の管理権の行使です。しかしこの管理権を行使できる場所は「人の看守する」「建造物」であり、「東広場」は上部に屋根があるので仮に建造物の一部であったとしても「看守」していたとは評価できません。JR大阪駅の北東角の部分で「看守」していたと評価できるのは、先に述べたコンコースの内外を仕切るガラス製の扉の内側です。また日頃から演奏活動等が隣接する公道でなされ、数十名の聴衆が集まることがあったにもかかわらず、そうした表現活動にはJR大阪駅は何ら管理権を行使していないことからも「看守」していなかったと考えられます。
次にH氏の駅係員に対する抗議ですが、対応した駅係員においては、犯罪と思料するのであれば警察官を呼ぶ、私人逮捕する、宣伝活動の責任者と話し合う等、いくつもの選択肢があったのであって、その自由意思を制圧されたともそのおそれが実質的にあったとも評価しえません。したがって、H氏の言動が刑法234条の「威力」に該当するとは到底評価し得ません。
5 パブリック・フォーラムである
「東広場」は、かりに鉄道営業法のいう「鉄道地」あるいは刑法130条のいう「人の看守する」「建造物」に該当するとしても、前述の通りの特徴を有し、公共性が極めて高い場所です。すなわち、「東広場」は、鉄道会社という民間会社の所有地あるいは管理地であったとしても、JR大阪駅だけではなく、隣接する各種の商業施設、大阪市営地下鉄等の利用者も自由に通行すべき場として公道に準じる場所であり、従前から表現活動の場として利用されてきた経緯を考えると、「パブリック・フォーラム」であると評価できるのです。このような公共性の強い場所においては、かりにJR大阪駅の管理権等の及ぶ場所であっても、憲法21条1項の保障する表現の自由を優先させるべきです。このような場所でなされた宣伝活動に対する駅係員の制止等にH氏が抗議したのは憲法の観点からは全く正当と評価できます。かりに威力業務妨害罪の構成要件を充たしていたとしても、正当な宣伝活動に対する駅係員による急迫不正な侵害から自己や宣伝活動に参加していた他の者の権利を防衛するためにやむを得ずした「正当防衛」(刑法36条)であり、犯罪として成立するものではありません。
H氏らのした宣伝活動は、パブリック・フォーラムにおける正当な表現活動であり、それに対する不当な制止に対して正当な抗議をしたH氏の行為を問題視して起訴し、同氏に応訴を強いるのは、表現の自由に対してあまりに過酷な負担を強いるものです。このような起訴が許されるのであれば、多くの市民は、委縮し、正当な表現行為を差し控えることになってしまうでしょう。したがって私たちは、憲法研究者として今回のH氏の起訴を許容できないと言わざるを得ません。以上の理由から、私たちは、大阪地検に対し、本件の起訴を取消すことを強く要望します。
2013年1月21日
石川裕一郎(聖学院大学政治経済学部准教授)、石埼学(龍谷大学法科大学院教授)、岡田健一郎(高知大学人文学部専任講師)、笹沼弘志(静岡大学人文学部教授)、中川律(宮崎大学教育文化学部専任講師)、成澤孝人(信州大学法科大学院教授)
(非常に長いです。すみません。が、重要です。)
1 声明の趣旨
私たちは、2012年12月17日発表の「JR大阪駅頭における宣伝活動に対する威力業務妨害罪等の適用に抗議する憲法研究者声明」の呼びかけ人等です。
その後、12月28日、大阪地検は、逮捕された3名のうち2名を「処分保留」とし釈放しました。しかし私たちは、1名(H氏)を威力業務妨害罪(刑法234条)で起訴したことについて納得ができません。そこで再度声明を発表し、大阪地検に対して起訴の取消し(刑事訴訟法257条)を求めます。
2 H氏の公訴事実について
H氏は、2012年10月17日の午後3時ころより約1時間程度の間、JR大阪駅前の「東広場」において、H氏を含む約40名の市民が震災瓦礫処理に関連する宣伝活動を行った際に、公道との境のないJR大阪駅の敷地内に立...ち入り、ビラを無許可で配布したことなどを駅係員に制止されたことに対して、大声で抗議し、駅係員の足を踏んだとされています。このようなH氏の行動が、駅係員の警備活動という業務を妨害した威力業務妨害罪に当たるとされて、起訴が行われました。
私たちは、たとえH氏が行ったとされていることを前提にしたとしても、それらは決して威力業務妨害罪を成立させる行為ではなく、大阪地検は、起訴を取消すべきだと考えます。その理由を以下で述べます。
3 H氏の言動がなされた場所について
H氏を含む約40名の市民が宣伝活動をした場所は、JR大阪駅御堂筋コンコース北口のガラス製の扉の外および同中央コンコース東口のガラス製の扉の外にある広場です。現場にある「大阪ターミナルビル(株)」名義の「ご注意」との掲示には「東広場」と書かれています。確かにこの掲示には、禁止事項として「許可を受けず集会、演奏活動等を行うこと」、「許可を受けずポスター、ビラ等を掲示・配布・貼付等すること」が明記されています。しかし、柵等の何らの境界もなくこの「東広場」に隣接する公道では、日頃から演奏活動等がなされ、「東広場」内に数十名の聴衆が集まることも稀ではありません。
4 H氏の言動は威力業務妨害罪に該当しない。
以上の現場の特性を踏まえると、禁止事項が明示されていたということのみで、JR大阪駅係員に、宣伝活動等を禁ずる正当な権限があったとは考えられません。したがって、JR大阪駅やそれと不可分の商業施設の利用者等の交通を著しく妨げる態様であった等の特段の事情のない限り、そもそも駅係員の制止等は法令に基づく正当な業務ではないと考えられます。日頃からなされている演奏活動等については何ら問題視せず、H氏らの宣伝活動のみを殊更に問題視していることからは、H氏らの宣伝活動の態様ではなく内容を問題視したとの疑問が払拭できません。
一応、駅係員の業務の根拠となりうる法律がふたつあります。ひとつは鉄道営業法です。同法42条は、同法35条で「鉄道係員ノ許諾」を得ないで「鉄道地」内でなすことを禁止された行為(寄付の要請、物品販売、物品配布、演説勧誘行為等)をなした者を「鉄道地外ニ退去」させる権限を鉄道係員に付与しています。しかし、「鉄道地」とは、最高裁の判例によれば「鉄道の営業主体が所有又は管理する用地・地域のうち、直接鉄道運送業務に使用されるもの及びこれと密接不可分の利用関係にあるもの」(昭和59年12月18日判決)です。この判例に照らしてJR大阪駅「東広場」は「鉄道地」ではないと評価できますので、駅係員に鉄道営業法42条に基づく退去要請の権限があったとは考えられません。ふたつ目は、刑法130条に基づくJR大阪駅の管理権者の施設の管理権の行使です。しかしこの管理権を行使できる場所は「人の看守する」「建造物」であり、「東広場」は上部に屋根があるので仮に建造物の一部であったとしても「看守」していたとは評価できません。JR大阪駅の北東角の部分で「看守」していたと評価できるのは、先に述べたコンコースの内外を仕切るガラス製の扉の内側です。また日頃から演奏活動等が隣接する公道でなされ、数十名の聴衆が集まることがあったにもかかわらず、そうした表現活動にはJR大阪駅は何ら管理権を行使していないことからも「看守」していなかったと考えられます。
次にH氏の駅係員に対する抗議ですが、対応した駅係員においては、犯罪と思料するのであれば警察官を呼ぶ、私人逮捕する、宣伝活動の責任者と話し合う等、いくつもの選択肢があったのであって、その自由意思を制圧されたともそのおそれが実質的にあったとも評価しえません。したがって、H氏の言動が刑法234条の「威力」に該当するとは到底評価し得ません。
5 パブリック・フォーラムである
「東広場」は、かりに鉄道営業法のいう「鉄道地」あるいは刑法130条のいう「人の看守する」「建造物」に該当するとしても、前述の通りの特徴を有し、公共性が極めて高い場所です。すなわち、「東広場」は、鉄道会社という民間会社の所有地あるいは管理地であったとしても、JR大阪駅だけではなく、隣接する各種の商業施設、大阪市営地下鉄等の利用者も自由に通行すべき場として公道に準じる場所であり、従前から表現活動の場として利用されてきた経緯を考えると、「パブリック・フォーラム」であると評価できるのです。このような公共性の強い場所においては、かりにJR大阪駅の管理権等の及ぶ場所であっても、憲法21条1項の保障する表現の自由を優先させるべきです。このような場所でなされた宣伝活動に対する駅係員の制止等にH氏が抗議したのは憲法の観点からは全く正当と評価できます。かりに威力業務妨害罪の構成要件を充たしていたとしても、正当な宣伝活動に対する駅係員による急迫不正な侵害から自己や宣伝活動に参加していた他の者の権利を防衛するためにやむを得ずした「正当防衛」(刑法36条)であり、犯罪として成立するものではありません。
H氏らのした宣伝活動は、パブリック・フォーラムにおける正当な表現活動であり、それに対する不当な制止に対して正当な抗議をしたH氏の行為を問題視して起訴し、同氏に応訴を強いるのは、表現の自由に対してあまりに過酷な負担を強いるものです。このような起訴が許されるのであれば、多くの市民は、委縮し、正当な表現行為を差し控えることになってしまうでしょう。したがって私たちは、憲法研究者として今回のH氏の起訴を許容できないと言わざるを得ません。以上の理由から、私たちは、大阪地検に対し、本件の起訴を取消すことを強く要望します。
2013年1月21日
石川裕一郎(聖学院大学政治経済学部准教授)、石埼学(龍谷大学法科大学院教授)、岡田健一郎(高知大学人文学部専任講師)、笹沼弘志(静岡大学人文学部教授)、中川律(宮崎大学教育文化学部専任講師)、成澤孝人(信州大学法科大学院教授)