5月13日、大阪市教育委員会は中学校教員松田幹雄さんを「君が代」不起立を理由に戒告処分としました。以下、松田さんの抗議文を掲載します。
私たちは、とても危険な時代に生きています。教育行政のやるべきこと、責務とはなんであるのか、もう一度原点に立ち戻って考える必要があるのではないでしょうか。
2015年5月13日
大阪市教育委員会委員長 大森 不二雄 様
教育長 山本 晋次 様
大阪市立●●中学校教員 松田幹雄
「君が代」不起立に対する懲戒処分への抗議文
大阪市教育委員会が私に対して、5月13日、「君が代」起立斉唱職命令違反を理由として
懲戒処分を発したことに抗議し、撤回を求めます。
この抗議文は、処分発令書を読む前に書いています。
どんな処分か、処分理由はどういうものか、正確にはわからない中で書いていますので、
処分発令書を読んで以降、再度、抗議文を出すこともあると考えていることを申し添えておきます。
1.この処分は、私の主張を十分聞かないまま行われました。
私は、処分決定にあたっては、処分対象者の声を十分聞いたうえできちんとした審議が行われるべきことを主張してきました。
昨年度19回のうち1回しか会議として開かれていない(他は「持ち回り」)
大阪市人事監察委員会教職員分限懲戒部会を会議として開き、私に意見陳述する場を与えてほしいと要求してきました。連絡がありませんので、教職員分限懲戒部会が私の要請に対してどんな判断をし、どんな形でもたれたのかわかりませんが、少なくとも私の意見陳述の要求については、意見陳述を認めない理由も示されないまま黙殺されました。
また、2015年4月1日に新たに1名を発令し、教職員分限懲戒部会メンバーを3名にしたとのことですが、新メンバーについては市民公表もしないまま闇の中で懲戒手続きを行ったことは強く非難されるべきです。
その他にも、処分決定にいたる過程では、処分対象者の権利を認めない対応ばかりが行われました。大阪市教育委員会から弁明の機会についての事前の説明はまったくなく、私が弁明の機会はどこになるのか質問して初めて、「事情聴取の場が弁明の場でもある」と答えました。
(市教委によると弁明の場でもある)事情聴取の場に弁護士など第3者を立ち会わせることを認めませんでした。事情聴取内容をどうまとめたのか、私に確認もありません。
大阪市教委が私に求めた「顛末書」の目的と性格などについて、
「顛末書を勤務時間外に書くようにとの指示は職務命令なのか」など4点の質問をしたことに対しても回答がないままです。
私は、3月16日の大阪市教委による事情聴取の場で「上申書」を提出し、3月17日、「顛末書」にかえて、「上申書(2)」を学校長(大阪市教委)に提出しています。それらがどう扱われ、どういう判断がされたのか、きちんと説明がされなくてはなりません。
2.大阪市教委は、子どもたちに大きな声で「君が代」斉唱をさせるために
処分で脅して教職員に「君が代」起立・斉唱を迫る職務命令こそが「教育」を「調教」に変え、学校教育をこわしているのではないかという私の問いに何も答えないまま、処分を強行しました。
上申書、上申書(2)の中でも記述している通り、
私は、「君が代」の歌詞の意味や扱いの変遷も伝えないまま生徒たちに「君が代」を歌わせている学校教育の現状を子どもの権利条約に違反する「調教教育」だと指摘してきました。
また、その原因が、大阪市国旗国歌条例と大阪市教育基本条例というパワハラ2条例を背景に、処分で脅して教職員に「君が代」起立・斉唱(「調教教育」への加担)を迫る職務命令にあると指摘してきました。
そして、私の指摘に対する見解を学校長(大阪市教委)に求めました。
このやり取りの中で、大阪市教委は「君が代」の歌詞や歴史的変遷について児童・生徒にどう指導するか一切示さないまま(学習指導要領にも書かれていません)、児童・生徒に「しっかり歌わせる」ことのみを求めていることが明らかになりました。
大阪市教委は、最高裁判決が「君が代」起立・斉唱職務命令と戒告処分を合憲と認めた教職員の「君が代」起立・斉唱の位置づけ=「慣例的儀礼的所作」とは全く違った位置づけで、私たち教職員に「君が代」起立・斉唱を迫っています。
すなわち、児童生徒に対する「君が代」起立・斉唱「指導」の教育効果を高めるという「調教教育」への加担行為という位置づけです。
私は、今、「君が代」が、起立・斉唱職務命令と違反した者への懲戒処分によって、かつての「君が代」と同じ役割を負わされていると感じています。
「臣民」を戦争に引っ張り出すために、絶対主義天皇制の下、命令に対する絶対服従の国内体制をつくりだす役割を負っていたかつての「君が代」と同じ役割だということです。このような意味を持つ懲戒処分を黙って受け入れるわけにはいきません。
大日本帝国憲法下では、「君が代」は「天皇陛下のお治めになる御代は千年も萬年もつづいておさかえになりますように」という意味だと教科書にも書いて教え、学校儀式で「少国民」・「臣民」に歌わせることを通して、召集令状が来ると「おめでとう」と言わざるを得ない暗黒の建前社会を作っていったという歴史の事実は、必ず、子どもたちに伝えられなければなりません。
この事実を隠そうとすることをやめ、「君が代」の意味をまったく教えずに、大きな声で歌わせるという子どもの権利条約違反の、どの国でもありえないような恥ずしい学校現場の状況を一刻も早く変えなければなりません。
3.この処分は、「君が代」を起立・斉唱できないと思っている私の思想に対する処分です。
3月12日の卒業式当日、私の不起立によって生徒・保護者等に何らかの影響があったとは校長も含めて誰も確認していません。
私の卒業学年担任としての仕事は、不起立によって何らの影響も受けていません。
この懲戒処分は、「君が代」を起立・斉唱できないと思っている私の思想に対する処分であるといえます。
4.パワハラ2条例(大阪市国旗国歌条例と大阪市職員基本条例)とそれを背景として処分で脅して教職員に「調教教育」を強いる職務命令こそ、違憲・不法であることを主張し、処分撤回をめざします。
この懲戒処分は、私の「思想に対する処分」であり、「調教教育」に手を貸すことを拒否する者への「見せしめ処分」です。
私は、職務命令の背景となっているパワハラ2条例(大阪市国旗国歌条例と大阪市職員基本条例)こそが違憲・違法であると主張します。
愛国心を育てるために、天皇統治の永遠を願う歌とされた「君が代」の起立斉唱を義務づける大阪市国旗国歌条例、3回の「君が代」不起立で免職、「君が代」不起立をくり返す職員に対しては思想転向するまで職場外での「研修」を義務づける大阪市職員基本条例はともに憲法違反の条例です。
違憲の条例に基づく職務命令が無効であることを人事委員会はもちろん、司法の場、国際機関の場にも訴えていきます。多くの人々にこの懲戒処分の本質を訴えて、処分撤回をめざします。
私の処分撤回の取り組みの中で、何百人、何千人の人が「君が代」を斉唱できないと思い、実際斉唱していないこと、また、斉唱している人の中にもいやいや歌っている人が少なからずいることが明らかになっていくものと思っています。そして、パワハラ条例の本質が明らかになっていくものと思っています。
私は、私の処分撤回の取り組みを通して、大阪市の教育に「教育の条理」をとり戻していく役割の一端を担うつもりであることを申し述べておきます。