「志」の英語教育

英語教育実践について日々の雑感を語ります。

変形ディクトグロス

2008-02-18 21:47:11 | 文法
ディクトグロスという指導方法については、近年よく耳にするようになっている。簡単に言えば学習者がパッセージを聞きながらメモをとっておき、それをもとに元のパッセージを再構築するという活動である。

ディクトグロスはグラマー・ディクテーションとも呼ばれるとおり、学習者に文法力が要求される。学習者はメモしておいたキーワードを、文法力を駆使して適切につなげていくのだ。

ディクトグロスは活動自体の難易度が高めなので通常の授業では工夫が必要だ。易しめの素材を使ったり、パッセージを短くしたりするという手段がよくとられるようだ。

ただし、素材のレベルを下げるために練習させたい文法項目を省いては意味がない。また、パッセージを短くすると、どうしても無味乾燥なものになりがちだ。内容的につまらない素材では学習者が面白いと感じる活動はできそうにない。


・・・というわけで素材のレベルを下げずに、活動自体をもう少し噛み砕く方法はないかと考えていたところ、同僚のALTの持ってきた指導過程に可能性を感じた。


1) 最初にコンプリート・センテンスを創出することの有効性を説明。主語と動詞を省かないこと。そして、接続詞を使う場合には必ず複数の節を使うこと。
2) 次に、コンプリート・センテンスの概念がきちんと伝わっているか確認するために、いくつかの単語を板書してそれを使い自由に文を作らせる。このとき後で聞かせるパッセージから単語を選ぶのもよい。
3) 要領が伝わったら主活動。新出語彙を確認してから、パッセージを2回読み聞かせ。
4) ここでペアを組ませて2種のハンドアウトを配布。ペアは異なるハンドアウトを持つ。ハンドアウトには話の流れの順にパッセージの内容に関する質問があり、交互に英問英答してゆく。
5) この段階でコンプリート・センテンスを用いて答えさせるのがみそ。答えの中心となる情報は質問の下に予め添えられている。相手が答えられない場合、その中心情報を「ヒント」として単語だけで与えるのである。
6) ペアワークが終わったら各自で元の文を再生して書き留め、グループで比較。


どこでこの手法を学んだのか聞いたら、完全に自分のオリジナルでディクトグロスなど聞いたこともないとのこと。参りました、私の負けです。

TBLT: Current Trends by Dr. Rod Ellis 2

2008-02-18 06:37:40 | 研修
ロッド・エリスの講演会で印象に残った言葉と自分の感想およびメモ書き。


「学習者中心主義は必ずしもよい教育活動に結びつくとは限らない」

TBLTは必ずしもペアワークやグループワークの形態をとらなくてもよいという流れから。学習者中心主義は動機付けや学習方略、メタ認知との関連が強いと考えている。学習者中心主義だからと言って、学ぶ側の好きなようにやらせるだけでは単なる放任・無責任だ。学習者中心的だと学習者には感じさせながら、指導者側がうまく学習活動をコントロールできている状態が理想。


「コレクティブ・フィードバックは1分半に1回が標準的な頻度」

TBLTにおけるリキャストなどのコレクティブ・フィードバックは文法などの型の指導という点で重大な意味を持つ。研究者が大きな関心を寄せるのは理解できるが、変数が多すぎて今ひとつ一般化しにくいのでは。たとえば、学習者の文化背景や性格、モチベーションによっても適切なフィードバックのあり方は変わるだろう。


「初級者にはインプットを主にしたTBLT活動を」

初心者は持ち駒がないのでTBLTはできないのではという指摘に対して。当然、持ち駒を作るようなタスクを組むということ。インプットを主な活動としたTBLTについては大いに研究の価値がある。クラス全体でTBLT的な手法を使えば授業にダイナミズムを与えられるだろう。モジュール的にも使えるはず。問題はどんな活動をディバイズするか。プラブー (Prabhu)という研究者のインドにおける実践が大いに参考になるらしい。


「化石化など本当はないのだという考え方もある」

化石化はTBLTの弱点の一つとされることが多い。エリス博士自身、前回の講演では「化石化+コミュニケーションの力」と「化石化なし+コミュニケーションの力なし」の選択の問題だとされていた。ところが、今回は「化石化」という概念自体に疑問を投げかけられた。確かに、一旦、化石化(のような状態)となってしまったとしても、将来それを修正できる可能性が0だとは言えない。


「TBLTは上級者にはベストな教授法であるとは言えないかもしれない」

これはTBLTがコミュニケーションにプライオリティをおき、日常的なコミュニケーション指向であることに関係している。逆に言えば特に初級・中級者に有効ということ。


「日本のようなEFL環境の方がTBLTには適している」

ESL環境では教室外でも目標言語でコミュニケーションをとる機会は豊富にある。EFL環境であるからこそ目標言語でコミュニケーションをとって完成できる課題を与えることにより大きな意味があるのだ。上記のコメントと合わせると日本の高校という環境は実はTBLTに最適だということになる。

自分の過去を振り返るとTBLTの困難な面がどうしても気になり、ここしばらくは目を逸らせがちであった。まず、何が何でもTBLT的手法を使うというところを前提にすることから始めなければ。どんな頻度で、どのような学習コンテキストで使えば有効かが模索できるのはそこからだ。