不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Caso 1 tra i vagoni

2008-08-07 19:53:22 | 日記・エッセイ・コラム

恒例のようになっているローマ日帰り。

フィレンツェから乗り込んだ列車で相席になったのは
幼い子供を二人連れた若いアルバニア人の夫婦。

先に自分の席についていた私は
東欧系の家族が乗り込んできたなぁと思って
何気なくみていたら
きちんと予約した座席のチェックをして荷物を上の棚に上げて。
小さな子供を抱きながら大変そうだなぁと思っていたところに
後ろから傲慢なイタリアのおばさん登場。

「ちょっと何ぐずぐずしているのよ、
私は降りなくちゃいけないのよ。
さっさとどいて通してくれなかったら
私が降り損ねるでしょ。」

え?!
ちょっと不快感。

どうやら自分の親類の誰かの見送りで
一緒に車両まで乗り込んで話し込んでいたらしいのですが
出発時刻間際になったので、降りようと思ったらしい。
しかし、その言い方はないよねぇ。
自分の権利しか主張しないこういうおばさんは大嫌い。

アルバニア人の彼は
「そんな言い方しなくても。どうぞシニョーラ通ってください。
僕らは善良な市民として列車を利用しているだけで
別にシニョーラの行く手を塞いでいるつもりはないよ。」と応戦。

傲慢おばさんは
「何よ、どうせ予約もしていないくせに乗っているんでしょ。」
と捨て台詞を残して去っていきました。

私もアルバニア人の彼も唖然。
つい「ここでは我々はこういう扱いしか受けないからね」って
言ってしまいました。

私は基本的に子供が好きなので
隣に座った彼らの幼い子供を
何とはなしにあやしていたせいもあるだろうし
私が明らかに外国人だからなのかもしれないけど
座席に座ってから彼がイタリア語でぽつぽつ話を始めた。

うまく行くと思ってイタリアにやってきた。
仕事も見つけてきちんとやってきた。
でも突然雇い主にクビを言い渡された。
他の仕事を探していたけど、なかなか見つからない。
先日は免許も剥奪されちゃって、車も運転できない。
何も悪いことしていないのに、
アルバニア人だからってさっきみたいにひどく言われることもある。
どこかで歯車が狂っちゃった。

だから家族で祖国に帰るところ。

聞いていて寂しくなりました。

彼は私が日本人だとわかると
テレビや雑誌で見る日本はとても素敵な国だ。
どうしてそんな素敵な国から
こんなところまで来ちゃったの?って
何度も何度も尋ねてきました。

私には私の理由と決意があったんだよって説明したけれど
なかなか彼にはわかってもらえないみたいだった。
そりゃそうだ。
彼は夢と未来を探して
アルバニアよりも輝いているイタリアに来て失望している。
イタリアよりもずっとずっと輝いているように見える日本から
わざわざ来るようなところじゃないって思っているんだろうな。

でも私にとってはイタリアはやっぱり輝いていたんだよ。
そして幸運なことに今でも私の中では輝きは失っていないから
まだここにいたいと思っている。
彼はわからないなぁという表情で頷いた。

彼の境遇を思うと、
自分がどれだけ恵まれているかを痛いほど思い知らされて、
イタリアの多少の不都合も、理不尽さも我慢しなくちゃねぇと思う。

彼らはローマで列車を降りてそこからブリンディシへ向かい
さらに船に乗ってアルバニアに帰るといっていた。
まだまだ長旅だねという話になったときに
彼女が日本へはどの電車に乗って帰るの?って聞いてきた。
日本には電車では帰れないんだ。
12時間飛行機に乗らないといけない。
笑いながらそういうと、彼女はすごく驚いた顔をしていた。

小さな子供を抱えて下りて行く彼らが持っていた
たった一つの旅行カバンは
おしゃれなハードケースのスーツケースなんかじゃなく
使い古して艶の出た重そうな革のトランク。
きっとあのトランクひとつでやってきて
またあのトランクひとつで帰っていくんだろうなぁ。

傲慢なイタリアのおばさんが忘れた大事なものを
彼らのそのトランクにはまだいっぱい詰まっている気がするよ。