不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Ascoltare il profumo degli incensi

2013-04-06 01:22:28 | Tra la mente e il cuore
genten Firenze のオープン一周年を記念して
ショップの一角で行われた香道のイベント。

御家流香道二十三代宗家・三條西堯水師が
お弟子さんを率いて
フィレンツェにいらっしゃったということで
日本にいてもなかなか出会わない
素敵な体験をさせてもらいました。

源氏香と呼ばれる組香。
25種の香りからランダムに5つを選び出し、
その組み合わせを当てて楽しむ香の遊び。

5つの香炉に順々に香木が焚かれて
それの香りを利き(聞き)、
5種の組み合わせを独特の源氏香模様で表すというもの。

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茶道も華道もそうですが、
こうした道具を整えるところから、
集中力と、きめ細やかな注意が払われる和の文化。
こういうものがほんのひとかけらでも
フィレンツェの人にも伝わるのはみていても嬉しいかなぁ。

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見学者として参列していたのですが、
我々にも香炉を回していただき、
参加させていただきました。

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イタリア語での説明を聞いていて、
「香をきく」を
sentireではなくascoltareという単語を使っていることに
はっとさせられたのですが、
三條西堯水師ご自身があちこちで
「香を聞く」と言ってらっしゃるようで、納得。
香りを嗅ぐのではなく聞く。
なんだかとても深いのだなぁと。

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齢を重ねるごとに、匂いに敏感になりつつある私は
いつか香道をきちんと習いたいと思っていたのですが、
今回の経験で、やっぱり楽しそうだなぁと思っているところ。

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香炉を手で包んで香りを手のひらに溜め、
親指と人差し指の間から
香りを吸い込んで聞き分ける。

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香木から上がる香りはとても繊細で
一つ目の香炉が回ってきて香りをきいた時には
ほんのうっすらとしか香らず、
こんな薄い香りでは違いがわからないだろうと思ったほど。
一つの香炉で3回吸い込むのですが、
重ねて香りをきくうちに
ノートの移り変わりというか
柔らかな香りの中に
わずかな酸味やら甘みやらの混ざり具合が
なんとなく体感できるようになるのが面白くて。

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微妙に漂う香りの中に
共通点や相違点を見つけ出して組み合わせていくのは
実に雅な遊びなんだなぁと。
ほんの少しの違いなのだけど、
5つ目の香炉が回ってくる頃には
なんとなくコツも掴めてきたような気が。

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5つの香りを聞き終わり、
それぞれに自分の「回答」を提出。
私は1つ目と5つ目が同じ香り、
2つ目と3つ目が同じ香り、
4つ目はいずれとも異なる香りという組み合わせの
源氏香図
「鈴虫」を選択。
三條西堯水師のお話を伺いながら、
答え合わせの発表準備をドキドキしながら待つ(笑)。
雨の日に香を焚くと、香りが満ちやすく
香りの聞き分けも容易になるのだそうで、
隣のイタリア人のお姉ちゃんが、
じゃぁ、フィレンツェの冬はずっとお香で遊べるねって
言っているのをきいて、
あぁ、日本は雨が多いから
こういう遊びが確立されたんだろうなと
なんとなく考えたり。
三條西堯水師によれば、
こうした香りを使った遊びは日本独特のものだそうで。
お話の内容は、自宅に帰って探したインタビュー記事にも
ちりばめられてました。
参照記事


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結果発表。
香元(お香を立ててくれるかた)も
最終結果は知らず、
回答が出揃ってから、
香木が包まれていた紙を広げて香の番号を確認。
それを受けて、執事さんが
使った香の名前や、参加者、その回答などを書き記していく。
その様を見て、イタリア人は
「こんなところまで
合理的にオーガナイズされている日本文化はすごい」と賞賛。
彼らにしてみればそのように映るのですね。

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残念ながら、全問正解者は出ず。
それでも三條西堯水師のおっしゃるように
香の遊びは優劣を決めるものではなく
飽くまで、
自身の心と感覚を解き放し楽しむものということで。
「香満ちました。」という挨拶で締めくくられ
実際に会場となった空間も
自分の心もとても良い香りと気で満ちあふれ
とてもよい気持ちになりました。

驚いたのはそのあとオフィスに戻って
同僚に香っていると言われたこと。
ほんのりわずかな香りであったのに、
すっかり肺の隅々、髪の芯まで焚きしめられたみたい。
そのあと自宅に帰っても映画を観にいっても
かすかによい香りに包まれていました。

自宅で毎晩香を焚いても、
そこまで香りが残ることはないのにね。

フィレンツェの片隅で
とても貴重な体験をさせてもらいました。