不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Memorandum di lettura 〜金魚姫

2020-01-08 22:08:51 | 本と雑誌
時間と空間を超えて
たったひとつの記憶に結びついて
千数百年を金魚の姿を借り、
何度も生まれ変わって
自分の想いに実直に添い続けた女性と
恋と仕事と日常に疲弊して
現実世界から逃げることばかりに囚われていた主人公の不思議なものがたり。

早い段階で、
彼女が一体どこからきたのかは
読者には明かされるけれど
当人たちはそこを知らないまま
その謎を一つひとつ紐解いていく仕掛け。
上手に誘導されて
筆者の狙いどおりに騙されてしまうので
驚きの結末にけっこう動揺したり。
読み始めからぐっと引き込まれるし
残りページ数が少なくなると
終わってほしくない気持ちにさせる、
そんな魅惑的な作品だった。

現代に出会った2人の物語に
時折彼女の古い記憶の物語が挿入されるので、
読み進めながら、
数章戻って読み直したり確認したり。
いつもどんな作品でも時間のかかる私には
いつも以上に時間のかかった作品。

すべては繋がっている。
この作品のようなファンタスティックな設定でない
我々の現実にだって
すべては繋がっていると思えることがいくつも起きる。
呼び寄せる力って、きっと誰もがもっているはずだからね。
それを改めて考えるきっかけにもなった。

彼女の愛が深いがために
その愛が失われたことに端を発する憎しみも強くなり、
彼女はその想いに絡めとられて時空を越えるのだけれど、
その復讐劇のような過去の記憶の語られかたに一度はちょっと嫌悪感も抱いた。
私自身が、憎しみは何も生み出さないし、
憎しみの連鎖は断ち切らなくちゃいけないと思っているからだけどね。
ただ、せつなすぎるけれど優しい結末にいたって、その嫌悪感は一掃された。

「憎しみを学ぶ人には
愛を教えることができる」とは
きっとこういうことなんだって。
そう思える作品だった。

金魚姫