夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『桜、ふたたびの加奈子』

2013年04月09日 | 映画(さ行)
『桜、ふたたびの加奈子』
監督:栗村実
出演:広末涼子,稲垣吾郎,福田麻由子,高田翔,江波杏子,吉岡麻由子他

「猛烈低気圧」が来ていた封切り日に、大阪ステーションシティシネマにて。

『鍵泥棒のメソッド』(2012)の広末涼子はめちゃ良かったけれど、
本作の彼女は予告編で見るかぎり、私の苦手なほうの彼女っぽい。
ただ、『飯と乙女』(2010)で興味を惹かれた監督だったため、観てみようかと。

原作は新津きよみの小説『ふたたびの加奈子』、未読です。
想像していたのは、幼い愛娘を失った両親、
特に母親がどうやって気持ちの整理をつけるのかという話でした。
確かにそうだったのですが、良い意味でびっくりの展開。
朱川湊人あたりのホラー・ファンタジーを思わせます。

栃木県足利市。桜舞う4月。
桐原容子は夫の信樹に送られて、一人娘の加奈子とともに小学校の入学式へと向かう。
先に車から降りた加奈子は、容子がちょっと目を離した隙に校門へと走り出す。
そして、通りかかった車にはねられ、呆気なく短い人生を閉じてしまう。

悲しみに打ちひしがれる容子は、加奈子の部屋で首を吊って自殺を図るが、
発見が早かったのが幸いして、どうにか一命を取り留める。

それ以来、加奈子の魂をすぐそばに感じるようになった容子。
見えない加奈子と手を繋ぎ、加奈子の分まで食事をつくる。
始終加奈子に話しかけるものだから、信樹は苛立ちと戸惑いを隠せない。

そんなある日、加奈子も可愛がっていた犬のジローが、夜中に突然家を飛び出す。
ジローを追って容子がたどり着いたのは、加奈子が通うはずだった小学校。
そこにジローの姿は見えないが、同校の卒業生で妊娠中の正美がたたずんでいた。

まだ高校生の正美は、シングルマザーとなることを決意、
この日、小学校当時の担任だった教師の砂織に相談に訪れたらしい。
けれども砂織を待つ間に倒れ、居合わせた容子が介抱する。

容子のおかげで大事に至らなかった正美。
砂織も容子に感謝することしきりで、容子は正美を毎日見舞うように。
やがて生まれた正美の娘のことを、加奈子の生まれ変わりだと容子は信じ込むのだが……。

これはネタバレしたくないので、観に行ってくださいとしか言えません。
悲しく切なく、はかない美しさと強さ。

毎日、桜舞う道を空っぽのベビーカーを押して歩く、少し足の不自由な女性。
彼女のことを、夫と子どもを事故で亡くして気が変になった女だと、通り過ぎる人々が嘲笑します。
終盤に明かされる彼女の話には胸が押しつぶされそうになりました。
なんという母親の逞しさ。

丸いものいろいろ―ボール、トンネル、鏡、知恵の輪などなど―の見せ方がおもしろい。
その知恵の輪を見ながら、江波杏子演じる容子の母親が口にするこんな台詞。
「人生には入口と出口があって、若いうちは入口のほうが近いから、
 辛いことがあると戻りたくなるもんだ。
 だけど、本当は入口も出口も同じところにあって、一周しなければ解けないのさ」。

個人的には、水面を流れる花びらのシーンで終わりでもよかったかも。
その後のシーンがあるほうがわかりやすくて親切ではありますけれども。

いずれにせよ、想定外の展開にやられて涙ぽろぽろ。
ノーマークだった人にも観ていただきたい作品です。

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