夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『ホーリー・モーターズ』

2013年04月19日 | 映画(は行)
『ホーリー・モーターズ』(原題:Holy Motors)
監督:レオス・カラックス
出演:ドニ・ラヴァン,エディット・スコブ,エヴァ・メンデス,
   カイリー・ミノーグ,エリーズ・ロモー,ミシェル・ピッコリ他

梅田ガーデンシネマにて、フランス/ドイツ作品です。

奇才レオス・カラックス監督の13年ぶりの長編作品。
主演は、過去のカラックス作品でもたびたび主人公を演じているドニ・ラヴァン。
たびたびと言っても、ものすごく寡作な監督ですから、
この20年間に撮った作品は本作を含めてたった5本。
そのうちの4本で彼が主演を務めています。
監督と体型が同じで、監督の分身と呼ばれているのだそうな。

夜が明けて間もないパリ。
大富豪で銀行家のオスカーは送迎の白いリムジンに乗り込む。
女性運転手でマネージャーのセリーヌによって用意されたファイル。
ファイルの中には今日の「アポ」の詳細が記されている。
それに目を落とし、おもむろに着替えはじめるオスカー。

まずはカツラを着けてみすぼらしい女に変装、車から降りて物乞いをする。
一定時間を経過してリムジンに戻ると、
今度はモーションキャプチャーのマーカー付きの全身タイツ姿に。
その後も次々と変身をくり返し……。

すみません。睡魔に襲われました。
奇才とか鬼才とか言われる人って、変人と紙一重ですよね。
いや、紙一重じゃなくて、立派な変人だと思います。
凄いイマジネーションだとは思うのですが、私はついて行けず。
指を食いちぎるなどグロい場面もあれば、刺されても撃たれてもゾンビのごとく生き返るし、
リムジン同士がしゃべりだす、こりゃ『カーズ』(2006)か?てな場面もあり、
でも笑っちゃいけない雰囲気が漂っていて困りもの。

ただ、いろいろと興味深いシーンはあります。
カラックス監督の過去の作品にも登場したマンホールの怪人も出てきます。
その風貌が相当気色悪い彼が地下道に逃げ込み、
エヴァ・メンデス演じるグラビアモデルの膝枕で眠る様子はまるで絵画のよう。

あるときは殺し屋に扮して標的を探します。
殺害した相手を(殺し屋に扮した)自分そっくりに仕立て上げるシーンも面白い。
殺害相手の髪を剃り、同じ傷を顔に付けていたところ、
死んだはずの相手が息を吹き返していきなり刺されてしまいます。
こうして並んで倒れる、ふたつのそっくりの肉体。
これはおそらくカラックスと分身ラヴァンを表しているのですよね。

リムジンの車窓からカフェにいる銀行家を見つけたときは、
覆面姿で乗り込むと、銀行家を殺します。
しかし、すぐにボディガードから銃弾を浴びせられてバタリ。
過去の自分を殺し、殺した自分がまた殺されてしまうのです。

“Who were we?”、これがテーマとして一貫して流れているような。
次々と誰かを演じ、過去に演じた自分が殺されてしまうこともある。
自分が自分であることの難しさを言いたかったのかなと思うのですけれど。

これもまた、「人は自分自身を演じている」
その台詞を思い出しました。

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『どんずまり便器』

2013年04月18日 | 映画(た行)
『どんずまり便器』
監督:小栗はるひ
出演:菜葉菜,中村邦晃,菅原佳子,宇野祥平,玄覺悠子,菅田俊他

2012年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭で評判を呼んだ作品で、
関西では秋ごろ第七藝術劇場で上映されました。
強烈なタイトルが気にはなったものの、観に行くタイミングは逃し、
このほどDVD化されたので、先週のレンタル開始初日に借りました。

監督はENBUゼミナールの卒業生で、熊切和嘉監督のクラスだったそうな。
熊切監督といえば、私がよう観んかった『鬼畜大宴会』(1998)でデビュー、
『青春☆金属バット』(2006)、『ノン子36歳(家事手伝い)』(2008)、
最近の作品では『莫逆家族 バクギャクファミーリア』(2012)と、
好き嫌いは別にして、暴力的で生々しいシーンにインパクトがあります。
桜庭一樹原作の『私の男』も熊切監督によって映画化、来年の公開が決まっていて楽しみなところ。
そんな監督の授業を受けてきた小栗はるひ監督からは、やはり同じ匂いが。

幼い頃に両親を亡くした姉弟、ナルミと圭は、
ふたりだけのある秘密を抱えたまま大人になる。

事件を起こして服役していたナルミが出所、圭が待つはずの実家へと帰るが、
圭はいつのまにかできた恋人のカナと一緒に暮らしていた。
仲睦まじい圭とカナの姿はナルミにとっては拷問。どうにも耐えられない。
行き場のない怒りをカナへと向け、圭を取り戻そうと必死になるのだが……。

ナルミの高校生時代で始まるシーンは生々しくて不快。
いとも簡単に同級生にからだを投げだし、
気になる理科教師の精液をこっそり盗み出すと(それを置いておく教師もどうかと思うけど)、
持ち帰って弟の圭の面前で自分に注入。ゲロゲロ~。

徹頭徹尾「性」を描く映画にしたかった、
家族愛を思い出してもらえたら……と監督は語っていますが、う~ん、難しい。

だけど、タイトルも内容も、絶対に忘れることはないでしょう。
これ、観たっけ?なんて思うことは決してない。
良くも悪くも印象に残る作品であることはまちがいありません。

こういう作品を観て思うことは、出演陣のルックスは観る者にとって大事だということ
圭と教師がイケメンだったら、不快度は下がった気がします。すみません。(^^;

ちなみに、こんなに生々しくても女優が脱いでるシーンは皆無です。
R指定もないようですが、子役たち、特に幼少期の圭役の男の子、
こんな演技をさせられたらトラウマにならないか心配してしまうのでした。

「どんずまり」じゃなくて「どんづまり」じゃないのか?
と、しょうもないところでまず引っかかってしまう私。
でもこうして字面を見ると、「ず」のほうが強烈ですね。

今後どんな作品を撮るのか、ちょっと注目したいと思います。

後日談ですが、『舟を編む』を観たら、理科教師役の俳優さんが!
という話は『舟を編む』のときに。

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『ヒッチコック』

2013年04月16日 | 映画(は行)
『ヒッチコック』(原題:Hitchcock)
監督:サーシャ・ガヴァシ
出演:アンソニー・ホプキンス,ヘレン・ミレン,スカーレット・ヨハンソン,
   トニ・コレット,ダニー・ヒューストン,ジェシカ・ビール他

前述の『アンナ・カレーニナ』から約1時間後、同じくTOHOシネマズ梅田にて。
金券ショップで前売り券を購入して観ようと思っていたのに、
本作の前売り券はありませんと言われ、ならばとポイントで鑑賞しました。

アルフレッド・ヒッチコックに扮したアンソニー・ホプキンスが登場。
観客に向かって『サイコ』(1960)を撮ることになったきっかけを語り始めます。

1959年。すでに46本の映画を撮っていたヒッチコックは、
新作『北北西に進路を取れ』のワールドプレミアで、
記者から「そろそろ引退では」と聞かれて憮然とする。

誰が引退などするものか。
次回作へ向けてすぐさまネタ探しを開始したヒッチコック。
さまざまな企画が持ち込まれるが、どれもピンと来ない。

そんなななか、実在の殺人鬼エド・ゲインをモデルにした小説『サイコ』を知る。
本の評判は最悪で、これを映画化しようと思う者などほかにはいないだろう。
周囲の誰もいい顔はしないが、ヒッチコックは次回作を『サイコ』に決定。

しかし前途は多難。
あと1本撮る契約が残っているパラマウント映画は、
最後の1本にそんな殺人鬼の映画を選ぶなんてと非難。
製作費は出さない、配給だけはしてやるという態度。

ヒッチコックは妻のアルマに相談。
優秀な映画編集者かつ脚本家であるアルマすら『サイコ』には懐疑的だったが、
それでも夫のしたいこと、自宅を売ってでも撮りたいという考えに同意する。

こうしてなんとか『サイコ』はクランクインするのだが……。

本作の主人公は、ヒッチコックではなく、アルマでしょう。
あんな巨匠がただの情けないオッサンに見えます。
自分は新作を撮るたびにブロンドの主演女優に入れ込んで好き勝手しているのに、
妻がちょっとほかの男と出かければ嫉妬を抑えられず。
食べるわ飲むわで憂さ晴らし、撮影中も妻の行動が気になって仕方ありません。
こんな夫のことを見守り、手を差し伸べるアルマに喝采を送りたくなります。

どうしてそこまでして『サイコ』を撮りたいのかと問う妻に、
金策に苦労しながら映画を撮っていた頃を懐かしみ、
ただ楽しんで映画をつくりたいんだというヒッチコック。
このシーンは非常に説得力があり、よかったです。

どうせ当たらないから2館でしか上映しないというパラマウントに対し、
ヒッチコックは客の興味を最大限に惹く宣伝をしてみせます。
このくだりもとても楽しい。
本作の配給はもちろんパラマウントではありません。(^^;

先週DVD化された『最終目的地』(2009)を観たところ。
ヒッチコック役のアンソニー・ホプキンスよりも
真田広之とゲイの関係でキスまでしちゃう彼のほうが好感度高し。

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『アンナ・カレーニナ』

2013年04月14日 | 映画(あ行)
『アンナ・カレーニナ』(原題:Anna Karenina)
監督:ジョー・ライト
出演:キーラ・ナイトレイ,ジュード・ロウ,アーロン・テイラー=ジョンソン,
   ケリー・マクドナルド,マシュー・マクファディン,ドーナル・グリーソン他

“スウェーデン”で「ひとりソフトクリーム」のあと、
TOHOシネマズ梅田にて。

本作の上映スクリーンはシアター4で、席数は同劇場で2番目に少ない99席。
しかも5列しかないので、横にやたらと長いんです。
『映画 妖怪人間ベム』を観たのがこことほぼ同形状のシアター5でした。

端っこ好きなもので、こんな形状でも端の席を選んでしまうのですが、
ものすごく斜めから観ることになってかなりツライ。
ツライとわかっているのにまたしても端っこに座ってしまいました。

ところでなぜにこんな形状かというと、ここは旧・梅田スカラ座の2階席だったんですね。
2階席だけで一部屋設けて、なかば無理やりスクリーンを付けたという。
ちなみにシアター5は旧・梅田劇場の2階席。
そら観にくいにも当たり前ですが、この観にくさもちょっと楽しい。

さて、言わずと知れたロシアの文豪トルストイの同名小説の映画化。
何度も映画化されていますが、私はソフィー・マルソー版しか観ていません。
『プライドと偏見』(2005)、『つぐない』(2007)の監督&主演コンビです。

1870年代、帝政ロシアの時代のペテルブルク。
政府高官カレーニンの妻であるアンナは、社交界の華と呼ばれる美貌の持ち主。
若くしてカレーニンのもとへ嫁ぎ、可愛い息子にも恵まれて、
平穏な日々を送ってはいるが、愛とはどういうものかがわからない。

ある日、モスクワに住む兄オブロンスキーから助けを求める便りが届く。
オブロンスキーの浮気が原因で、妻ドリーと離婚の危機にあるらしい。
兄嫁ドリーをなだめるためにモスクワへと向かったアンナは、
若き将校ヴロンスキーと出逢い、一目で恋に落ちてしまう。

一方、オブロンスキーの友人で田舎の純朴な地主リョーヴィンは、
ドリーの妹キティにずっと想いを寄せていた。
今日こそはと思い切って求婚するが、キティはヴロンスキーからの求婚を期待。
リョーヴィンはあっさりとキティに振られ、意気消沈して田舎へ帰る。

ところが、舞踏会の夜、アンナに心を奪われたヴロンスキーはキティを無視。
ヴロンスキーとキティの結婚は確実視されていただけに、周囲にも動揺が走る。

可愛がっていたキティが心を痛めている。傷つく人がほかにもたくさんいる。
許されぬ恋だと思いつつも、アンナは気持ちを抑えることができない。
アンナとヴロンスキーは逢瀬を重ねるようになり……。

さまざまなシーンが舞台劇のようにつくられているのが面白い。
どの部屋もセットのようで、場面が変わればセットを入れ替えというふうに。
屋外で撮影されたシーンがまったくないわけではなく、
競馬場やスケートリンクなど、むしろ屋外で撮られるのが普通のシーンにセットを用いているのが粋。
競馬のシーンでは舞台上を馬が走り、落馬するさいは舞台から転げ落ちます。
こういうこだわりは、全然タイプはちがうものの『ドッグヴィル』(2003)の徹底ぶりを思い出します。

この間までアーロン・ジョンソンと名乗っていた『野蛮なやつら/SAVAGES』の色男は、
23歳年上の奥様の旧姓を合わせて法律上の名前をアーロン・テイラー=ジョンソンとし、
本作からその新しい名前を使っています。
若い旦那がこんなに引く手あまたになり、しかも色気のある役ばかりときたら、
「私のものよ」と年上妻は言うておきたくなったのかと邪推。(^^;

ジュード・ロウは使われ損だったかと。ハゲ具合が残念だぁ。

あ、内容についてまるでコメントしていませんね。
だって、疲れちゃったんだもん。
好きよ~、駄目よ~、やっぱり好きよ~、どうせ私のことなんて嫌いになったんでしょ~ばっかりで。
もうええっちゅうねん。

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『君と歩く世界』

2013年04月12日 | 映画(か行)
『君と歩く世界』(原題:De Rouille et d'Os)
監督:ジャック・オーディアール
出演:マリオン・コティヤール,マティアス・スーナールツ,アルマン・ヴェルデュール,
   セリーヌ・サレット,コリンヌ・マシエロ,ブーリ・ランネール他

前述の『桜、ふたたびの加奈子』とハシゴ、これも大阪ステーションシティシネマにて。

フランス/ベルギー作品。
原作はカナダ人作家クレイグ・デイヴィッドソンの2本の短編で、
それを1つの物語に再構成したのだそうです。
原題は“Rust and Bone(=サビと骨)”とのこと、この邦題、どないです?

格闘技が大好きで、腕っぷしにだけは自信がある中年男アリ。
妻と別れ、5歳の息子サムを連れてしばし放浪したのち、姉のもとへ転がり込む。
ナイトクラブの用心棒として勤務しはじめた日、
これ見よがしなミニスカートの美人客が他の客とトラブルになっているのを仲裁。
泥酔しているその美人、ステファニーを彼女の自宅まで送り届ける。

ステファニーは観光名所マリンランドで働く、シャチの調教師。
ところがその数日後、彼女は事故に巻き込まれ、両脚の膝から下を失ってしまう。
絶望感に襲われ、誰にも心を閉ざす彼女だったが、
ふとアリが置いていった電話番号のメモを思い出し、連絡してみることに。

こうしてふたりはしばしば会うように。
一緒に泳いだり食事をしたり、やがてステファニーの希望を叶える形で肉体関係も。
ステファニーはアリにどんどん惹かれてゆくのだが……。

鑑賞前に想像していた物語はこんな感じ。
「両脚を失ったシャチの美人調教師が、傷心の誠実な男と出会う。
ふたりはお互いを支え合い、彼女は再び調教師に挑戦する」。
……全然ちゃうやん。えっ、調教師として再生しないの!?と驚きました。

で、出会う男も誠実じゃない。アリはかなりテキトーな男です。
格闘技に夢中になって息子のサムのこともろくに見ない。
女と見ればヤル気満々、どこででもすぐに引っかけて、事が終わればすぐにサヨナラ。
ステファニーとはなんだかんだでつきあいつづけるものの、
アリがいったいどういうつもりなのかわからず、ステファニーはやきもき。

けれども、両脚を失った彼女に対する態度は、
『最強のふたり』(2011)のドリスのそれと似ていて、テキトーだけど温かい。
腫れ物に触るような接し方はせず、変な気の回し方もしません。
海を見れば「泳ぎたくなったから泳いでくる。アンタも泳ぐか」と普通に聞く。
最初ステファニーは、コイツ正気で言っているのかと驚きますが、
そうして普通に尋ねられたことによって泳ぐ気になります。

息子のことを鬱陶しがることもありますが、
嫌われたかなと思ったときにはきっちりと単純な方法でフォロー。
そんな父親のことを息子も大好きなのがわかります。

ラストはハリウッド映画なら、もっと盛り上げてみせたことでしょう。
これはかなり控えめ、『ソウル・サーファー』(2011)に涙した人は物足りなさを感じるかも。
涙しなかった私は、そんな控えめな本作に好感が持てました。

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