電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

『鴎外最大の悲劇』を読む

2005年04月25日 21時28分03秒 | -ノンフィクション
ブックオフ等で、上巻は見かけるのに、いまだかつて下巻を見たことがない単行本がある。たいていの本は、上巻と下巻がそろっていることが多く、まれに上巻だけしかなくても、別の店では下巻を見かけることが多い。その謎の本が、吉村昭著『白い航跡』だ。最初に読んだとき、高木兼寛の事績の大きさに感心したものだが、他方、森林太郎の悪役振りがきわだった。これでは、森家の遺族からクレームがでるのではないかと要らぬ心配をしたくらいだ。で、あるときふと思った。これはどうも、上巻だけしか刊行されていないのではないか。下巻が見つからないのは、発行されなかったからではないのか、と。昔のことでもう忘れてしまったが、どうもそんなような話をどこかで聞いたことがあるような気がする。
(*):もちろん、今は講談社文庫で上巻・下巻ともに読むことができる。

新潮選書で、『鴎外最大の悲劇』を読む。これまた厳しい著作だ。明治の文豪・森鴎外の正業である陸軍軍医・森林太郎の果たした役割はすさまじい限りだ。「後ろから石をぶつけられる」なんて代物ではない。吉村昭の『白い航跡』は、高木兼寛の積極的な面を主として描いているので、鴎外の役割は相対的に副次的なものになっているが、この著作では鴎外の果たした役割を正面から取り上げている。日清・日露戦争において戦死した者の数よりも、脚気で死亡した兵士の数の方が何倍も多いという厳粛な事実を、森林太郎の足跡と共に位置づけるとこうなる、という本だ。
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