山里に生きる道草日記

過密な「まち」から過疎の村に不時着し、そのまま住み込んでしまった、たそがれ武兵衛と好女・皇女!?和宮様とのあたふた日記

満州国を舞台にしたスペクタルロマン

2019-09-11 04:09:40 | 読書

  機動戦士ガンダムで活躍した安彦(ヤスヒコ)良和のマンガ『虹色のトロツキー』全8巻(中公文庫、2000.3)を読み終える。満州国を舞台に実在の人物が登場するから面白い。石原莞爾・辻政信・甘粕正彦・東条英樹・岸信介・川島芳子・松岡洋右・尾崎秀実らの一癖ある個性的なキャストが登場する。

          

 主人公は、日本人と蒙古人とのハーフのウムボルト少尉を設定。スターリンから粛清されたトロツキーをかついでソ連を分断しようとする特務機関の秘密工作があったとする作者の構想が見事だ。ウムボルトの父はそれに関与していて謎の死を遂げる。それを解明しようとするが、ノモンハン事件をはじめとする戦火と軍部に主人公は翻弄されていく。そしてトロツキー招聘計画は虹のように幻となっていく。

 

 劇画らしい見せ場はいくらでもあり、読者をハラハラとひきつける。なにしろ、作者は虫プロで修行していただけに作画がじつに優れている。同時に、満州国をめぐる視点を侵略側の日本からではなく、蒙古人やアジア人の現場の視点からその不条理を描いている。五味川純平の『人間の条件』に共通するものがある。戦後、関東軍の参謀として謀略的な作戦を指揮していた辻政信は国会議員になるし、改革派官僚の岸信介は総理大臣となる。

            

 石原莞爾(カンジ)が主導した「五族協和」の精神は満州国の「建国大学」設立にも見られたが、関東軍や軍部の傲岸な暗躍で頓挫する。そうした軍部内部の矛盾・葛藤も史実を公平に描かれている。後半はノモンハン事件の詳細に流されたきらいはあるが、関東軍参謀の無責任な作戦・精神主義によって多くの兵隊の命が失われたことを告発している。

 これを描くにあたって、作者は膨大な資料とインタビューとを蓄積しつつ、ポピュリズムにくみしない主人公の姿・位置・生き方に未来を託したのだった。歴史に学ばない日本は中国・朝鮮を軍靴でいかに闊歩してきたのか、その行為を直視することをやめ、むしろ経済成長・景気浮揚の金銭拝跪主義に「合理化」している。その風化からは真の友好親善は生まれない。

              

          

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする