水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 春の風景(第三話) 探しもの  <推敲版>

2010年02月01日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      春の風景

      
(第三話)探しもの <推敲版>              

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  
   その他  ・・猫のタマ、犬のポチ

○ 玄関(内)  朝
   起きた直後の恭一が、何やら探している。気配と物音に迷惑顔の犬小屋の中のポチが目
の開け閉じを繰り返す。靴箱、その他の場
   所をガサゴソとシラミ潰しに探す恭一。台所から
出てきた未知子。洗面所から様子を見に現れる歯ブラシを口に含んで磨く正也。また
   戻る正
也。
  正也M「朝から父さんの大声が玄関でしている。母さんと二人で何やら探している様子だが、
それが何なのか僕には分からない」

○ メインタイトル
   「春の風景」

○ サブタイトル
   「
(第三話) 探しもの」

○   同 (内) 朝 
  未知子「どこか、他に置いたんじゃない?(疑わしい目つきで)」  
  恭一  「違う違う! 絶対にここへ置いたんだ。それは百パーセント自信がある!(自信あり
げに)」
   台所から、痺れを切らした恭之介の声がする。
  [恭之介]「未知子さん、飯にして下さらんかぁ~」
  未知子「すみません! すぐ食事にしますから…(台所の方角へ、バタバタと小走りし
て)」
   ふたたび、バタバタと玄関へ戻る未知子。

○ 台所 朝
   食卓テーブルの椅子に座り、食事を待つ恭之介と正也。すっかり諦めた様子で力なく台所
へ入る恭一。その後ろに未知子。
  恭一  「怪(おか)しい…実に怪しい。確かに昨日、帰って置いたんだ!(声高に)」
  未知子「いいえ、そんなもの、戸締まりした時はありませんでしたっ!(声高に)」
   賑やかに、声の火花を散らす恭一と未知子。寝床の布団で、いい加減にして貰えませんか…とばかりにニャ~と鳴くタマ。
  恭之介「未知子さん、飯を!(御飯茶碗を手に持って差し出し、やや声高に)」
  未知子「あっ、はいっ!」
   慌てて恭之介が差し出した御飯茶碗を手にする未知子。話は途絶え、全員、沈黙。
  正也M「台所はパン食い競争の様相を呈してきた。僕は黙ってその様子を、さも第三者にで
もなったつもりで眺め、『春から運動会や
       ってりゃ、ざまねえや…』と少し悪ぶって思
った。結局、その日の朝は、父さんが何を探していたのかは分からずじまいだった」
   いつしか静音となる、殺風景な食事風景。
   台所に掛かった『 極 上 老 麺 』の額(が
く)。
   O.L

○ 台所 夜
   O.L
   台所に掛かった『 極 上 老 麺 』の額。
   炊事場で準備する未知子。食卓テーブルの椅子
に座る三人。テレビを見る恭之介と正也。新聞を読む恭一。
  恭之介「おい恭一、庭先にこれが落ちてたぞ…(手渡して)」
  恭一  「えっ? そうでしたか、庭に…(新聞を読むのを止め)。ははは…。見つからない筈
だ。どうも、すみません(受け取って)」
   新聞を置き、体裁が悪いのか、頭の後ろを手で掻く恭一。テレビを切る恭之介。食器や料
理を運ぶ未知子。  
  正也M「じいちゃんが手渡したもの、それはループ・タイだった」
   新聞を読む恭一。
   O.L
○ 料亭(内) 夜[回想]
   広間の宴会風景。得意の踊りを披露する恭一。酒も入り、赤ら顔の恭一。頭に巻いたループ・タイが踊りで揺れて簪(かんざし)風。な
   かなかの宴会芸。

  正也M「昨夜の宴会部長で活躍した父さんだったが、(◎に続けて読む)」

○ 庭先(外) 夜[回想]
   酔っ払って帰り、玄関へ直ぐに入らず庭をうろつく、恭一。首からループ・タイを、かなぐり外
し、落とす。
  正也M「(◎)酔いに紛れて玄関先の庭でループ・タイを外して落としたのを忘れ、それを玄
関へ置いたと思い込んだ節(ふし)がある
       (△に続けて読む)」

○ 玄関(内)  朝[回想]
   起きた直後の恭一が、何やら探している。
  正也M「(△)でも、そのループ・タイが何故、朝に小さな運動会をしなければならないほど重
要だったのかが今もって分からない(◇に
       続けて読む)」

○ もとの台所 夜
   O.L
   新聞を読む恭一。
  正也M「(◇)携帯とか財布、定期の類いなら、僕にも分かるのだが…。(×に続けて読む)」
   未知子が運んだ食器や料理を、手際よく並べる正也。
  正也M「(×)要は、全くもって笑止千万で馬鹿な父親だということだろうか。じいちゃんがい
つか云った、『お前もピカッ! と光.る存
       在になれ』という言葉は、残念ながら彼に
は絵空事に思える。だから、そんな父さんを父親に持つ僕自身も、大して期待出来
       
ない代物(しろもの)のようだ…」

○ エンド・ロール
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「春の風景(第三話) 探しもの」 をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《剣聖③》第十八回

2010年02月01日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖③》第十八回
かといって、組替えを井上に申し出る訳にもいかない。:結局のところ、左馬介はそのまま我慢して鴨下の相手をする以外になかった。鴨下が極端に腕が拙(まず)いのか? といえば、そうなのではない。まあ、他の門弟達、特に客人身分となり稽古から外れた蟹谷、それに加えて、この場にいる井上、この場にはいないが時たま現れる影番の樋口達三人の凄腕は別としても、他の門弟達より多少は眼劣りがするといった程度なのである。だがそれは、他の門弟達から観た感覚なのであって、左馬介からすれば、かなり劣って観えた。それだけ左馬介の腕が上達していたとも云える。では、何が上達したのか? と訊ねられても、こうだ…と、しっかとは云えない。それは、口に出来ぬ眼に見えない性質のものだからである。全ての行いの基(もとい)は、そうした心域の有りように根ざすのだが、剣の道とて、それは同じであった。左馬介は自らの腕が如何ほどのものかは分かり得ない。分かるとすれば、客観的な周囲の者達の観るところによるのである。しかし、鴨下との腕の差は誰の眼にも歴然としていて、左馬介にも無意識で感
じられた。
 朝稽古が漸く終わったとき、鴨下は荒い息を隠すように前屈(かが)みになったが、上下への背の揺れは、それを隠せなかった。


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