水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 夏の風景 特別編(上) 平和と温もり(1) <推敲版>

2010年02月23日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景

       特別編
(上)平和と温もり(1) <推敲版>     

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
 
  その他   ・・丘本先生、生徒達、猫のタマ、犬のポチ

○ 湧水家の遠景 昼
   屋根の上の青空に広がる遠い入道雲。蝉しぐれ。

○ 洗い場 昼
   麦わら帽子を被り、水浴びする正也。日蔭で涼むタマとポチ。湧き水の涼風が流れる日蔭。
心地よく眠るタマ。正也を、『元気なお方
   だ…』と云わんばかりに見遣るポチ。灼熱の太
陽。蝉しぐれ。
  正也M「また夏がやってきた。そんなことは云わなくても巡ってくるのが四季なのだし、夏な
のである。じいちゃんが剣道で僕に云う、
       “自然体”って奴だ。…少し違うような気も
するが、まあ、よしとしよう」
   恭之介が現れる。上半身の着物を脱ぎ、手拭いを湧水に浸けて拭く恭之介。
  恭之介「ふぅ~! 生き返るなぁ…(しみじみと漏らし)」
   各自、冷水を堪能する二人。

○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ 
サブタイトル
   「特別編
(上) 平和と温もり」

○ 台所 昼
   四人が食卓テーブルを囲み西瓜を食べている。テーブルに乗る切り分けられた俎板上の
西瓜。賑やかに展開する家族の雑談。
  恭之介「昔は三十度を超えりゃ、この夏一番のナントカとか云っとったんだがなあ、ワハハハ
ハハ…」
   豪快に笑い、西瓜を頬張る恭之介。細々と一切れに噛りつく恭一。
  恭一  「そうですねぇ。真夏日は、確かあったようですが、猛暑日というのは、なかったです
から…。当時は涼しかったですよね」
  未知子「ええ、そういえば、以前は日射病って云ってましたわ。今は熱中症とかで大騒ぎ(西
瓜を手にして)」
  恭之介「はい…。未知子さんの云う通りです」
  正也M「今日も見たところ、じいちゃんは母さんに“青菜塩”である。夏休みの到来は、今年も
僕に恩恵を何かにつけて与えてくれそう
       である。その予兆が先だっても湧き上った」
   
台所に掛かった ━ 極 上 老 麺 ━ の額(がく)
   O.L

○ (回想) 台所 朝
   O.L
   台所に掛かった ━ 極 上 老 麺 ━ の額(がく)。
   朝食を慌ただしく食べ終えた恭一が、席を立つ。腕時計を見つつ、出勤時間を気にしつつ玄
関へ向かう恭一。   
  未知子「あらっ? あなた、ネクタイは?」
   立ち止まって、振り返る恭一。
  恭一  「ん? クール・ビズだからネクタイはいいんだ」
  未知子「あら、そうだったわ…」
  正也M「父さんの会社も半袖ワイシャツにノーネクタイの所謂(いわゆる)、エコ通勤へと切り
替わった。汗掻きの父さんは大層、喜んで
       いる」

○ (回想) 玄関 内 朝
   慌ただしく靴を履く恭一。通りかかり、立ち止まる恭之介。玄関へ出てきた登校する正也。
  恭之介「なんか…お前の格好は腑抜けに見えるな」
  恭一  「…」
   一瞬、二人を見遣る正也。黙って戸外へ出る恭一。靴を履く正也。
  正也M「父さんは口を噤(つぐ)んで、敢えて反論しようとはしない。反論すれば必ず反撃され
る…と、読んでいる節がある。縁台将棋
       で二手先を必死に読む程度の父さんにして
は大したものだ」
   台所へと消える恭之介。玄関を出ようとする正也。外から引き返した恭一が戸を開ける。犬
小屋のポチが、『何事だ! 朝っぱらか
   ら…』と云わんばかりに、薄目を開けて、ワン! 
と、ひと声、小さく吠え、また目を閉じる。
  恭一  「おいっ! 正也、まだ。いるかっ?!(少し怒り口調の大きめの声で)…おお、いた
か。(冷静になって)この前、云ってたラジコ
       ン模型な。ボーナスが出たら夏休みに買
ってやるからなっ!(少し威張り口調で)」
  正也  「うん! 有難う。楽しみにしてる。じゃあ、遅刻するから、もう行くよ!」
  恭一  「おっ? おお…(拍子抜けして)」
   戸外へ出る正也。ポチが小さく、クゥ~~ンと鳴く。

○ (回想) 玄関 外 朝
   家から遠ざかる正也の歩く姿。
  正也M「まあこのような、僕にとっては恩恵を与えてくれそうな幸先がいい予兆だった。しかし
半面には、夏休みが始まっても買って貰
       えないといった不吉な事態も有り得る訳
で、油断は禁物なのだった」

○ (回想) 学校 昼
   正也の教室の授業風景。教壇に立つ丘本先生がホームルームで何やら話している。生徒
達の中にいる正也。    
  正也M「自慢する訳ではないが、僕は校内トップか二番の好成績で、丘本先生に見込まれて
いるのだ。両親とも、そのことは知ってい
       るから、成績のことは諄々(くどくど)とは云
わない。但し、母さんは、勉強しなさい…とは口癖のように云うのだが…。好成績
       で
も、これだけは別で、母心としては、やはり安心出来ないのだろう」

                                     ≪つづく≫


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残月剣 -秘抄- 《教示①》第十二回

2010年02月23日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《教示①》第十二回
 妙義山にある幻妙斎の籠る洞窟は、登り口より約四半時ばかりの所に位置した。既に陽気は春の候で、空には草雲雀(ひばり)が飛び交い高く囀(さえず)っていた。結局のところ左馬介は稽古着上に、もう一枚、薄手を羽織り出立していた。春先とはいえ、少し登った山腹には未だ冷気が漂っているように思えたの
である。
 嘗(かつ)て登った経験のある左馬介は、そう迷うといったこともなく妙義山へと分け入った。地の者が間伐、薪(たきぎ)拾い、そして、食用茸(きのこ)を採る為に設けた山道が、細々とではあるが鮮明に上へ上へと続いている。躊躇(ちゅうちょ)することなく左馬介は先を急いだ。道場を出る前に厨房で握り飯を三ヶ、竹の皮に包み、沢庵二切れを握り飯の隙間へと挟んで持参していた。これで夕刻までは充分に腹具合が保てるだろう…という稚拙な算段である。妙義山の洞窟は葛西の者ならば誰もが知っている。ただ、その中は迷路のように入り組み、一度(ひとたび)迷えば、恐らくはふたたび外へ出ることが至難の業と思える要害の洞窟であった。それ故、地の者達は余程のことがない限り中へ入ることはなく、幻妙斎以外に地の利に長(た)けた者はないようであった。その洞窟へ左馬介が分け入ったのは、予定していた辰の上刻である。勿論それは、陽射しの角度による左馬介の憶測であった。


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