≪脚色≫
春の風景
(第七話)美味いもの <推敲版>
登場人物
湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
湧水恭一 ・・父 (会社員)[38]
湧水未知子・・母 (主 婦)[32]
湧水正也 ・・長男(小学生)[8]
○ 玄関 内 朝
晴れた日。旅行に出る恭一と未知子。テンションが上がる恭一。旅行の服装で鞄を持つ玄関下の二人。玄関上で見送る恭之介と正
也。無頓着に犬小屋の中で寝ているポチ。
恭一 「じゃあ、行ってきまぁ~す!(テンション高く)」
恭一を横目で見る、迷惑顔の未知子。
恭之介「気をつけてなっ!(笑顔で)」
無言の笑顔で見送る正也。玄関戸を開ける恭一。外へ出る二人。はしゃぐ恭一。
正也M「夫婦、水入らずで一泊二日の観光旅行に出かける父さんは、出がけから偉くテンションを上げている。まるで小学生の僕のよ
うな、はしゃぎようで、とても見られたものではない」
○ 玄関 外 朝
玄関を出る二人。遠ざかる二人。
○ 湧水家 門外 朝
湧水家の外景。晴天の清々しい田園風景。会話をしながら歩く恭一と未知子。次第に遠ざかる二人。野道のタンポポ。
○ メインタイトル
「春の風景」
○ サブタイトル
「(第七話) 美味いもの」
○ 居間 朝
見送りから居間へ入った恭之介と正也。静まり返った居間。話すこともないまま無言で長椅子に座っている二人。新聞を読み始める
正也。庭へ下り、盆栽弄りを始める恭之介。開け放たれた、庭と居間の間のガラス戸。庭から声を掛ける恭之介。渡り廊下の陽だま
りで、心地よく眠るタマ。
正也M「じいちゃんは剪定鋏を取り出すと、盆栽を弄りだした。僕はじいちゃん役になって、そのまま居間で新聞を読んでいた。じいち
ゃんの盆栽弄りは年相応だが、新聞を老人のように読む僕…。これはもう、はっきり云って末恐ろしい未来を予感させる」
恭之介「正也! 今日は久しぶりに、美味いものでも食いに行くか?」
正也 「いいよっ!(喜び勇んで即答し)」
恭之介「そうか…。じゃあ、戸締まりをするから、出られる格好をしてきなさい」
正也 「じいちゃんは?」
恭之介「儂(わし)か? 儂はこの格好で充分じゃ」
正也M「じいちゃんは時折り、僕に食事を奢ってくれる有難いスポンサーなのだ。最近は出歩く機会に恵まれていなかった。その矢先
である」
新聞を乱雑に畳むと子供部屋へ駆けだす正也。
○ (フラッシュ) バスの中 昼
座席に座る恭之介と正也。賑やかに楽しく話し合う二人。バスの窓から流れる外景。
正也M「それから二人してバスに乗り、隣の町まで出た。バスに乗れば、しめたもので、既に僕の頭の中には予定表が出来上がってい
る(◎に続けて読む)」
○ (フラッシュ) 名店街 昼
食べもの店が軒を連ねる街を楽しそうに歩く恭之介と正也。うららかな陽気。
○ (フラッシュ) とある食べもの店 昼
豪華な御馳走。客席に座り、美味そうに料理を食べる恭之介と正也。
正也M「(◎)・・事実、その通りのコースを辿って僕達は春の味覚を堪能した」
○ 湧水家 外 夕方
暮れ泥む空。家に戻ってきた恭之介と正也。家門を潜り家に入る二人。
恭之介「美味かったなあ…(笑顔で正也を見ながら)」
正也 「うん!(相好を崩し)」
○ 台所 夜
風呂上がり後の恭之介と正也。食卓テーブルの椅子に座って食事する二人。未知子が作った手料理の皿が並ぶ食卓。テレビの音。
正也M「この日は陽気も麗らかで幸せな一日となった。じいちゃんの機嫌を損なわないように単に発した僕の言葉から、この連休は両
親の水入らずの旅行となり、更に僕には美味いものを食べられる結果となったのだ。だから、世の中が、ひょんなことで良くも
悪くもなる不安定なものだということだ。変わらず有り続けるのは、じいちゃんの光る頭だけだろうか…」
○ エンド・ロール
食事をする団欒風景。
テーマ音楽
キャスト、スタッフなど
F.O
※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「秋の風景(第七話) 美味いもの」 をお読み下さい。