≪脚色≫
夏の風景
(第五話)アイス・キャンデー事件 <推敲版>
登場人物
湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
湧水恭一 ・・父 (会社員)[38]
湧水未知子・・母 (主 婦)[32]
湧水正也 ・・長男(小学生)[8]
○ 洗い場 昼
ポチが、水が湧く洗い場から流れ落ちる水を利用して水浴びしている。タマも日陰で涼んでいる。うだるような炎天下。五月蠅いほど
の蝉の集き。快晴の蒼い空。湧き立つ雲。
○ 離れ 昼
団扇をバタバタやるが、咽返る暑気に、おっつかず、萎え気味の恭之介。その傍で昼寝する正也。外戸は開け放たれているが、風が
全くない。
正也M「今日は、朝から気温がグングン昇り、昼過ぎには、なんと、36度を突破した。いつもは気丈なじいちゃんでさえ、流石に萎えて
いる」
灼熱の太陽。湧き上る入道雲。
○メインタイトル
「夏の風景」
○ サブタイトル
「(第五話) アイス・キャンデー事件」
○ 同 昼
外戸のある廊下側へ移動して座る恭之介。
恭之介「地球温暖化だなぁ…。わしらの子供の頃にゃ考えられん暑さだ。ふぅ~、暑い暑い…」
声で目覚め、恭之介の方へ寝返りをうって薄目を開ける正也。
正也M「隣で昼寝をしていた僕は、じいちゃんのひとり言に、安眠を妨害され目覚めた。声がした方へ首を振ると、じいちゃんは団扇をパ
タパタやっている。じいちゃんが電気モノが嫌いなので、僕はいい迷惑をしている」
恭之介「こりゃかなわん。水を浴びるか…。真夏日、いや、猛暑日だとかテレビが云っとったな(呟いて)」
ヨッコラショと立ち上がる恭之介。一瞬、足元の正也を見る恭之介。二人の目と目が偶然、合う。
恭之介「なんだぁ正也、寝てなかったのか?」
正也 「…でもないけど(小声で可愛く)」
正也M「そんなことを云われても、暑さに加えて団扇パタパタ小言ブツブツでは、眠れる方が怪(おか)しい」
一瞬の無言の間合い。
正也 「じいちゃん、冷蔵庫にアイス・キャンデーがあるよ。朝、二本買っといたから、一本やるよ」
恭之介「ほう…気前がいいな。正也は金持ちだ…。じゃあ、浴びてから戴くとするかな(笑って)」
母屋の方へ遠ざかる、廊下を歩く恭之介。
O.L
○ 離れ 昼
O.L
母屋の方から近づく、廊下を歩く恭之介。
正也M「しばらくして、僕がまた眠りかけた頃、シャワーを終えたじいちゃんが、また戻ってきた」
寝ている正也を覗き込む恭之介。
恭之介「おい、正也。キャンデー一本しかなかったぞ」
正也 「えぇーっ! そんなことないよ。ちゃんと二本、買っておいたんだからっ(少し驚いて)」
恭之介「いや、確かになかった…」
跳ね起きる正也。冷蔵庫のある母屋へと廊下を走り去る正也。
O.L
○ 離れ 昼
O.L
冷蔵庫のある母屋から、廊下を走って近づく正也。手にキャンデーを持つ正也。
正也 「じいちゃんの云う通りだった…」
恭之介「だろ?」
無言で首を縦に振り、頷く正也。しぶしぶ手に持つキャンデーを恭之介に手渡す正也。受け取る恭之介。
恭之介「いいのか? 悪いなぁ…(小笑いして)」
正也M「僕は云った手前、仕方ないな…と諦めて、残りの一本をじいちゃんにやった。消えたアイス・キャンデー。犯人は誰なのか…、僕
は刑事として捜査を開始した」
○ 台所 夕方
食事時の団欒。食卓のテーブルを囲む四人。
恭一「なんだぁ、食っちゃいけなかったのか? つい、手が出たんだが…。すまんな」
談笑する四人。
正也M「夕方、呆気なく犯人が判明した。犯人は父さんだった。今日は日曜で、一日中、書斎へ籠りパソコンと格闘していたのだ。僕
は、まず母さんを疑っていた。あとは母さんだけと思い、父さんを忘れていたのだから、まあ、父さんもその程度のものだ」
恭一 「ハハハ…、今回は父さんが悪かったな。しか
し正也、買った食い物は早く食べんとな」
恭之介「そうだ、それは父さんの云う通りだぞ、正也」
機嫌よく笑う恭之介。唐突に話しだす未知子。
未知子「今日はゴキブリ出ないわねぇ(恭一を見て)」
恭一 「そりゃそうさ。昨日、仕掛けといたからなぁ(自慢げに)」
得意そうに解説する恭一。仕方なく聞く三人。
正也M「罠にかかったゴキブリが、『馬鹿馬鹿しい…』と云った。…これは飽く迄も想像だが…」
○ エンド・ロール
台所の片隅で大きな欠伸をするタマ。
テーマ音楽
キャスト、スタッフなど
F.O
※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第五話」 をお読み下さい。