水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 春の風景 特別編(上) 麗らか(2) <推敲版>

2010年02月10日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      春の風景

       特別編
(上)麗らか(2) <推敲版>       

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   
その他   ・・猫のタマ、犬のポチ

○ 玄関 外 朝
  家を出て歯医者へ向かう恭之介。
  正也M「(◇)仕方なく歯医者で入れ歯を修理することにして出かけた」

○ 居間 昼
   長椅子に座り、新聞を読む正也。歯医者から帰ってきた恭之介。長椅子に座る。
  正也M「帰ってきたじいちゃんは、僕とは逆に、滅法、テンションを下げていた」
  恭之介「フガフガフガ…[一本で行きゃよかった…]。フガガガフガガ…[これだけ抜けると暫く
かかるそうだ…]。フガガフガフガ[それに
       金もな]」
  正也  「ふぅ~ん」
  正也M「じいちゃんは抜け歯語でそう語った。僕は、つれない返事を返した。ここは余り出しゃ
ばらない方が得策のように思えたのだ」

○ 湧水家の庭  早朝
   早朝稽古をする恭之介と正也。口をモガモガと動かし、今一、いつもの精彩がない声の恭
之介。いつもの元気な正也の掛け声。稽
   古を続ける二人の姿。春の庭。
  正也M「それからというもの、じいちゃんの身には春だというのに、辛くて冷たい口元の日々
が続くことになったのである。剣道の猛
       者も、怪談・牡丹燈籠のお武家のように、す
っかり元気がなくなってしまった。そうは云っても、僕には何故、このお武家が元気を
なくしたか…という、その辺りのところは、よく分からないのだが…」

○ 玄関 朝
   山行きの姿の恭之介と正也。持ち物の点検をする恭之介。靴を履く二人。
  正也M「まあ、そんな中にも、春の息吹きを感じさせる恒例の蕨採りが近づいていた。勿論、
このイベントは、じいちゃんなしに語れない
       のである。じいちゃんも、イベントの主役
が自分であるという自負心が芽生えて入る為か、俄かにアグレッシブになったのだ」
  恭之介「フガガ ! フガガガ [ よしっ ! 正也]、フガガッ ! [ 行くぞっ ! ] (玄関の戸を開けながら)」
   大声に驚いて台所へ逃げ去るタマ。薄眼を開け、また閉じると、ふたたび、悠然と寝る犬小
屋のポチ。

○ 山の中 朝
   朝日を浴びる樹々。手際よく、蕨を採り、籠へ入れる恭之介。それなりに採る正也。 
  正也M「師匠は達人で、瞬く間に腰の籠は一杯に溢れた。僕は…といえば、まあ、それなり
に採った…と報告しておこう」

○ C.I 山道  昼
   平坦な山道を下る恭之介と正也。

○ C.I 畑  昼
   たき火を囲む恭之介と正也。消えかかった火。出来た木枝の灰。
  正也M「その後、下山して次の作業にかかった。木枝を燃して灰を作ったのだ」

○ C.I 台所 昼
   鍋で蕨を湯がく未知子。萎えた蕨の加減を見た後、水に蕨を晒す未知子。
  正也M「ここで母さんの出番となる。灰は、水に溶かされ、その中へ採ってきた蕨は浸けら
れ、湯がかれた。そして、水に晒(さら)され
       た蕨は、すっかり萎え、アクは抜け出たよ
うだった」

○ 台所 夜
   食卓テーブルを囲む家族四人。笑顔の恭之介。
  正也M「上手くしたもので、じいちゃんの入れ歯の修理が終わった電話が歯医者から掛か
り、じいちゃんのテンションは持ち直し、いつ
       もの笑顔が戻った。母さんお手製の蕨
の煮物が安心して食べられるから、その喜びにうち震えた笑顔だったのだろう」
  未知子「どうです? お父様、お味は?」
  恭之介「いやあ・・いつもながら絶品です、未知子さん」
  恭一  「なかなかの味だ…」
  恭之介「やかましい! 部外者がっ!」
   恐縮して身を竦め、氷になる恭一。
  正也M「じいちゃんが落雷した。まあ、そんなことが起こることは滅多とない訳で、我が家には
麗らかな春の平和な日々が続いている」

○ エンド・ロール
   恭之介が落雷した後の家族の談笑風景。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「春の風景 特別編(上) 麗らか」 をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《剣聖③》第二十七回

2010年02月10日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖③》第二十七回
結果として、朝稽古の喧噪はその勢いを弱め、あれだけ激しく響いていた竹刀と竹刀が交わるささくれだった音や癇(かん)高い
け声も、騒がしいとは云えぬ程度まで衰えていた。
 三人で行う朝稽古は実に閑散としている。今迄が多人数での稽古だったことも、左馬介をそう思慮させる一つの要因であった。去った蟹谷や井上は最終的には奥伝止まりで道場から消えた。勿論、最終の決めをして允許(いんきょ)を与えるのは幻妙斎なのだから、そのことに異論を唱える者はない。今、左馬介の腕は師範代になった長谷川修理を上回り、堀川一の遣い手となってい
た。
 実は昨年末、蟹谷、井上とともに堀川三強と呼ばれた樋口を年末の総当たり試合で負かしたのだ。これは快挙と云う以外にはない卓抜した結果で、師の幻妙斎もこの機を境に、ぷっつりと左馬介の前から姿を消し、眼前へ現れることが途絶えた。だがそうは云っても、過去、そう幾度も左馬介が師を眼にすることは無かった
から、さほどは気に留めず腕を磨く左馬介ではあった。
 三人の朝稽古は交互に入れ替わるという遣り方である。師範代に昇格したとはいえ、今迄と違う小人数では長谷川も中央にデンと構えて観て立つという訳にもいかない。それに腕前は左介の方が数段は上なのだから、逆に教えを乞う立場なのである。


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