水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 夏の風景(第四話) 花火大会  <推敲版>

2010年02月16日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
 
     
(第四話)花火大会 <推敲版>               

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]


 台所 朝
   朝食後。食卓テーブルの椅子に座り、テレビを観る恭之介と正也。沈黙が続くテーブル。テレビの
音と炊事場で未知子が片づけをす
   る音のみが響く。
  正也M「僕の家では毎年、恒例の小さな花火大会が催される。とは云っても、これは、どこの家でも
出来る程度の小規模なものなの
       だが…」
   急須の茶を湯呑みに注ぎ、一気に飲み干す恭之介。
  恭之介「正也、今日は例の大会だなぁ、ハハハ…」
  正也  「じいちゃん、花火は買ってくれたの?」
  恭之介「ん? いやぁ…。未知子さんが買うと云ってたからな…(表情を少し曇らせて)」
   急に温和(おとな)しくなる恭之介。ふたたび、沈黙が続くテーブル。テレビの音のみが響く。タマが
急に、ニャ~と美声で鳴く。椅子
   を立って、子供部屋へ向かう正也。

○ メインタイトル
   「夏の風景」

○ サブタイトル
   「
(第四話) 花火大会」

○ 玄関 朝
   出勤しようと、框(かまち)に腰を下ろし、靴を履いている恭一。
  正也M「花火を買ってくるのは父さんの場合もあり、母さんになるときもあった。じいちゃんも買ってく
れたとは思うが、僕の記憶では一
       度こっきりだった。僕も主催者の手前、なけなしの小遣い
をはたいて買い足し、花火大会を楽しむのが常だった」
   子供部屋へ行く途中、恭一に気づき、立ち止まる正也。
 正也  「今日は、花火大会だからね(可愛く)」
 恭一  「そうだったな…。じゃあ、早く帰る(無愛想に)」

○ 台所 夜
   食後の団欒。恭之介、正也、道子が食卓テーブルを囲む。テレビが賑やかに鳴っている。
 正也M「毎年、開始は夕飯後の八時頃だった。僕は昼間に近くの玩具屋で、お気に入りの花火を少し
買っておいた。そして何事もなく、
      いよいよ八時近くになった」
 正也  「花火はどこ? 母さん(可愛く)」
 未知子「えっ! 今日だった? 明日だと思ってたから買ってないの」
 正也  「云ってたのに !(怨みっぽく云った後、グスンと少し涙して)}
   涙目の正也を見遣る恭之介。
 恭之介「正也! 男が、これくらいのことでメソメソするんじゃない!(顔を赤くして立って叱り」
   涙ぐんだ目を擦る正也。恭之介を見上げる正也。
 正也M「僕の前には怒った茹で蛸が立っていた。でも、その蛸はすぐにグデンと柔らかくなった」
 恭之介「まあ、いいじゃないか、今日でなくても…(優しく笑って)」
   蕭々と現れる風呂上がりの恭一。
 恭一  「フフフ…。正也も、まだ子供だな(ニヤリとし)」
   黙って恭一を見遣る正也。
 正也M「云われなくたって僕は子供さ、と思った」
   片隅に置いた袋を手に取る恭一。
 恭一  「お父さん。こういうこともあろうかと、ほら、今年は私が買っておきましたよ(少し自慢げに)」
 恭之介「おぉ…珍しく気が利くな、お前(笑顔で)」
 恭一「ついでにコレも買っときました(さも自慢げに)」
   殺虫剤を袋から取り出し、恭之介に見せる恭一。
 恭之介「ああ…コレなぁ。切れたとこだったんだ(喜んで)」

○ 庭 夜
   水の入った防火バケツ。縁台と庭先に座り花火を観賞する四人。闇に綺麗な火花を落とす花火。
浮き上がる四人の姿。小さな歓声と
   談笑。時折り、ウトウトする恭之介。少し離れた芝生で、四人
の様
子と花火を鑑賞するタマとポチ。
 正也M「しばらく経つと、暗闇の庭には綺麗な花火の乱舞が広がり、四人の心を癒していった。でも、じ
いちゃんは半分、ウトウトしてい
   た」

○ エンド・ロール
   他愛もない人々だ…という目線で見る、猫のタマと犬のポチ。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第四話」 をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《教示①》第五回

2010年02月16日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《教示①》第五回
その金が如何にして工面されたのかを左馬介は知らない。しかしそのお蔭で、金
困窮するという難儀は無かった。
「随分と寂れましたね」
「えっ? ああ…。この道場のことですか」
「そうです。今じゃ私と秋月さん、長谷川さんの三人だけです
から」
「まあ、現場はそうですね。五人の方々は客人になられましたから
ね…」
「この先、誰も入門しないのでしょうか?」
「そんなことを私に訊かれても…。先生のお考え一つですから」
「そうですよね…」
 昼餉の握り飯を頬張り沢庵を齧(かじ)りながら、左馬介と鴨は話をしていた。そろそろ梅の花香が漂う侯で、春の東風(こち)が流れている。恒例の梅見が近づいていた。葛西代官の樋口半太夫からは、例年通り招待する旨の文(ふみ)が届いていた。代官は云わずと知れた樋口静山の父である。子が道場に世話になっているという理由からではなく、梅見の宴への招待は古くからの慣例だから、道場に閑古鳥が啼こうと道場が消滅したり、或いは代官所と道場の因縁が断たれない限り、その行事として定まった催し自体が無くなるということはない。


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