≪脚色≫
夏の風景
(第一話)夕涼み <推敲版>
登場人物
湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
湧水恭一 ・・父 (会社員)[38]
湧水未知子・・母 (主 婦)[32]
湧水正也 ・・長男(小学生)[8]
○ 庭先 夕方
風呂から上がり、庭先の縁台で涼む恭一。団扇で手足の蚊を払う浴衣姿の恭一。
正也M「今年も暑い夏がやってきた。父さんは、のんびり縁台で涼んでいる。時折り、手や足をパチリパチリとやるのは、蚊のせいだ
(◎に続けて読む)」
○ 子供部屋 夕方
勉強机から、窓の網戸越しに恭一を眺める正也。
正也M「(◎)僕は、その姿を勉強机から見ている(△に続けて読む)」
○ 台所 夕方
夕食準備のため、炊事場で小忙しく動く未知子。
正也M「(△)母さんは、と云うと、先ほどから台所付近を夕餉の支度で、小忙しく動き回っている (◇に続けて読む)」
○ 庭 夕方
軒(のき)に吊るされた風鈴が楚々と鳴る。ビールを縁台で飲む恭一。
正也M「(◇)父さんは風呂上りの生ビールを枝豆を肴(さかな)に味わっているから上機嫌である。庭の風鈴がチリン…チリリンと、
夕暮れの庭に涼しさを撒く」
○ メインタイトル
「夏の風景」
○ サブタイトル
「(第一話) 夕涼み」
○ (フラッシュ) 庭 昼
麦わら帽子を被り、ランニングシャツ姿の恭一。首に手拭いを巻き、高枝バサミで樹木の選定をする恭一。
正也M「今日は土曜だったので、父さんは庭の手入れ、正確に云えば剪定作業をやっていた(* に続けて読む)」
○ もとの庭 夕方
ビールを縁台で飲む恭一。
○ 子供部屋 夕方
勉強机から窓の網戸越しに、庭の恭一を眺める正也。
正也M「(*)だから一汗かいたあとのビールなんだろうが、実に美味そうにグビリとやる。その喉越しの音が、机まで聞こえてきそう
だ」
開いた戸から、突然、、風呂上がりの恭之介が入り、正也の背後に立って机上を覗き込む。
恭之介「おう! 頑張っとるじゃないか…(云いながら正也の頭を撫でつけ、笑顔で)」
驚いて、振り返る正也。
正也M「急に後ろから頭を撫でつけた無礼者がいる。振り返れば、じいちゃんが風呂上りの赤く茹であがった蛸になり、笑顔で立って
いた」
正也 「なんだ、じいちゃんか…(笑顔で、可愛く)」
恭之介「正也殿に、なんだと申されては、埒(らち)もない」
正也 「…(意味が分からず、無言の笑顔)」
そのまま、ただ笑いながら居間へ立ち去る恭之介。
○ 居間 夕方
居間へ入る恭之介。庭先の足継ぎ石へ下りる恭之介。
正也M「僕の家には風呂番という一ヶ条があり、今日は、じいちゃんが二番風呂だった。この順はひと月ごとに巡ぐるシステムになって
いる。提案したのは僕だが、母さんにはすまないと思っている。終いの湯があるから…と、母さんは笑いながら僕の提案を抜け
ると宣言したのだ。男女同権の御時世からすれば、時代遅れも甚だしいことは、小学生の僕にだって分かる」
○ 庭 夕方
徐(おもむろ)に縁台へ座る恭之介。二人の間に置かれている将棋盤と駒箱。
恭之介「恭一、また…どうだ」
恭一 「お父さん、もう夕飯ですから…(やや迷惑顔で、遠慮しながら、残ったビールを飲み干し)」
恭之介「いいじゃないか。お前…確かこの前も負けたな。もう勝てんと音をあげたか?(フフフッ・・・と笑いながら、縁台上の殺虫剤をブ
シューっとやり)」
恭一「違いますよ!」
恭之介「なら、いいじゃないか(即座に返し)」
恭一「分かりました。受けて立ちましょう(やや依怙地になり、即座に返し)」
慣れた手つきで、瞬く間に駒を並べ終え、盤上に視線を集中させる二人。
○ 子供部屋 夕方
勉強机から、窓の網戸越しに二人を眺める正也。突然、未知子が現れ、正也の背後に立つ。机上に置かれた蚊取り線香から流れる
煙。
未知子「正也!…早く入ってしまいなさい (やや強く)」
正也M「母さんの声が背後から飛んできた。僕は勉強をやめ、風呂へ入ることにした。蚊が机の上へ無念そうにポトリと落ちた」
○ エンド・ロール
将棋を指す恭之介と恭一。
テーマ音楽
キャスト、スタッフなど
F.O
※ 短編小説を脚色したものです。小説は 「短編小説 夏の風景☆第一話」 をお読み下さい。