≪脚色≫
春の風景
(第五話) ブロンゼン・ウイーク <推敲版>
登場人物
湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
湧水恭一 ・・父 (会社員)[38]
湧水未知子・・母 (主 婦)[32]
湧水正也 ・・長男(小学生)[8]
○ 居間 昼
日曜の昼。長椅子に座りゴルフのクラブを磨く恭一。台所で料理をする未知子。
正也M「毎年のことながら、ゴールデン・ウイークが近づいた。この場合のゴールデンは、僕達子供に対してではなく、サラリーマンの一
部大人に限ってのみ有効な、云わば、贔屓(ひいき)言葉ではあるまいか。夏休みのような連続ではなく、祝祭日と日曜の休
みが多い…だけで、金には届かないブロンズぐらいに思える」
○ メインタイトル
「春の風景」
○ サブタイトル
「(第六話) ブロンゼン・ウイーク」
○ 同 昼
クラブにワックスを塗って磨き続けるゴルフの腕前が今一の恭一。グリップを握って光が射す庭側へ透かし、照り具合を見ながら、
恭一 「去年は渋滞で難儀したからなあ…。今年は遠出は控えるか…。ETCの値引きで、恐らく高速は滅茶、混むんじゃないか?
(台所の方へ首を向け)」
○ 台所 昼
炊事場で料理をする未知子。食卓テーブルの椅子に座って新聞を読む正也。
未知子「ええ…。私もそう思うわ(居間を見て)」
恭之介が離れから台所へ入る。
恭之介「なんだ? 偉く賑やかじゃないか。何か、いいことでもあったのか? 恭一(居間を見て)」
○ 居間 昼
怖いものを見た…という目つきで恭之介をチラッ! と見る恭一。出来るだけ怒らせまいと、ゴルフのクラブを一心に磨き、やんわりと、
恭一 「いえ、そうじゃないんです、お父さん。連休の遠出はやめようか…と、未知子と話してたんですよ」
○ 台所 昼
食卓テーブルの椅子に座って新聞を読む正也。正也の隣の席へ座る恭之介。
恭之介「ほぉ…。儂(わし)とは関係ない世界の話か…(卑屈になって)」
正也M「僕は、何とかその場の雰囲気を和らげようと、健気(けなげ)にも画策した」
正也 「僕は、どうだっていいよ…。じいちゃんと遊ぶから」
恭之介「そうだな、正也! じいちゃんと遊ぼう(不機嫌な顔から俄かに笑顔となり)」
正也M「僕のひと言はクリーン・ヒットとなり、センター前へ転がった。じいちゃんが俄かに元気を取り戻したのだ」
恭之介「よし、正也。じいちゃんの離れへ来い! 美味い菓子をやろう(笑顔で、機嫌よく)」
正也 「うん!(愛想よく、釣られた振りをして)」
椅子を立つ二人。離れへ向かう二人。
○ 離れ 昼
広間(道場仕立ての間)へ入る二人。中央祭壇の刀掛けに飾られた大小二刀。側板の上に飾られた『銃砲刀剣類登録証』の額(が
く)。警察の表彰状の額。剣道師範免許状の額。部屋隅に置かれた菓子折りから菓子を取り出す恭之介。菓子を正也に手渡す恭之
介。
恭之介「なっ! 武士に二言はないだろうが(笑って)」
正也 「…(意味が分からず、笑って無言で受け取り)」
刀に打ち粉をする作務衣、袴姿の恭之介。菓子を頬張り、その様子を傍らに座って観る正也。
正也M「じいちゃんは微笑みながら刀に打ち粉をして紙で拭く。これこそ武士のゴールデン作法だ…と思いつつ僕は見ていた。じいち
ゃんの禿げ頭が蛍光灯の光を浴びて金色に輝く。じいちゃんとの休みは、正しくゴールデン・ウイークとなりそうで、決してブロ
ンズではないだろう」
○ エンド・ロール
道場仕立ての部屋に飾られた表彰状等の額。
テーマ音楽
キャスト、スタッフなど
F.O
※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「春の風景(第六話) ブロンゼン・ウイーク」 をお読み下さい。