水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 秋の風景(第二話) 吊るし柿 <推敲版>

2010年02月28日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      秋の風景
 
     
(第二話)吊るし柿 <推敲版>            
 
   登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

○ 裏庭 朝
   蒼々と澄み渡った青空。オレンジ色の実をたわわにつけた一本の柿の老木。見上げる正也。剪定用長鋏で柿を収穫する恭之介。    
  正也M「僕の家には、かなり古い柿の木がある」
  正也  「じいちゃん、この柿、いつ頃からあるの?」
  恭之介「ん? ああ・・これなあ(しみじみと木を見て)。儂(わし)の子供時分には、もうあったな、確か…」
  正也  「ふう~ん。大先輩なんだね」
  恭之介「そうだな…(小笑いして)」 
  正也  「温泉にでも、ゆったり浸かって休んで貰いたいね」
  恭之介「(小笑いして)正也は優しいなあ…。柿の木が喜んでるぞ」
   大笑いする恭之介。釣られて笑う正也。実のついた枝を切り落とす恭之介。一生懸命、柿を籠へ入れる正也。

○ メインタイトル
   「秋の風景」

○ サブタイトル
   「
(第二話) 吊るし柿」

○ 茶の間 昼
   柿の皮を剝く恭之介。熟れた実を選別する正也。廊下から入ってくる恭一。
  恭一   「今年も嫌になるほど出来ましたね…」
  恭之介「フン! いい気なもんだ。お前に手伝って貰おうとは云っとらん! なあ、正也(剥きながら見上げ)」
   しまった! と、口を噤む恭一。
  正也   「ん? うん…」
   下を向いて聞いていない素振りで選別する正也。
  正也M「気のない返事で曖昧に暈し、飛んできた流れ矢を僕は一刀両断した」
   茶の間へ入ってくる未知子。
  未知子「これでいいんですね?」

○ 籠に入れられた熟し柿の山

○ 茶の間 昼
  恭之介「はい、それを持ってって下さい。熟れてますから…」
  未知子「美味しいジャムが出来そうですわ」
   恭之介と正也の作業を、ただ、無表情に眺める恭一。
  正也  「吊るして、どれくらいかかるの?」
  恭之介「ひと月もすりゃ食えるが、正月前には、もっと美味くなるぞ(正也の顔を見て、微笑みながら)」
  恭一  「毎年、我が家の風物詩になりましたね」
  恭之介「ああ…、それはそうだな…(恭一の顔を見ず、穏やかな口調で)」
  正也M「今日は荒れないなと安心したのも束の間、父さんが、いつもの茶々を入れた」
  恭一  「吊るし柿は渋柿じゃなかったんですか?」
  恭之介「やかましい! 家(うち)のは、こうなんだっ!」
   駕籠の柿を持ち、笑って台所へ去る未知子。ふたたび、氷になる恭一。
  正也M「じいちゃんは、これが我が家の家風だと云わんばかりに全否定した。よ~く考えれば、この二人の云い合いこそが我が家の
       家風なのである」
   西日が窓ガラスから射し込んで、恭之介の頭を吊るし柿のように照らす。神々しく輝く恭之介の頭。それを見て、ニヤッと笑う正也。

○ エンド・ロール
   沈み往く夕陽と、そのオレンジ光を受けて輝く恭之介の頭。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 秋の風景☆第二話」をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《教示①》第十七回

2010年02月28日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《教示①》第十七回
 道場へ左馬介が戻ると、長谷川と鴨下が掛かり稽古の真っ最
であった。左馬介の姿が廊下越しに見えると、
「あっ! 左馬介さん。偉く早かったですねえ! 夕餉辺りかと思って
ましたよ!」
 と、鴨下が大声を投げ掛けた。
「それにしても早かったな、秋月!」
 長谷川も鴨下に続いた。二人共、左馬介は散々に打たれ、這(ほうほう)の態で夕刻遅く戻って来るに違いない…と、少し小気味よく踏んでいたのである。それが疲れも見せず、昼前の今なのだ。驚
愕(きょうがく)とはいかない迄も、驚くのは当然であった。
「昼餉はどうされます?」
「食べずに持ち帰った握り飯がありますから…」
「そうですか…。こちらもこれからでして」
 鴨下と左馬介の淡々とした会話が続いた。二人の会話を笑いながら聴く長谷川は、首筋の汗を手拭いで何度も拭い取る。そして、徐(おもむろ)に足を運んで、井戸のある方向へと消えてい
った。
 堂所で笑い声が響いたのは、それから四半時も経たない頃であった。勿論その声は、左馬介、長谷川、それに鴨下の三人が発したものである。


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