≪脚色≫
夏の風景
(第九話) ナス <推敲版>
登場人物
湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
湧水恭一 ・・父 (会社員)[38]
湧水未知子・・母 (主 婦)[32]
湧水正也 ・・長男(小学生)[8]
その他 ・・大工の留吉
○ 離れ 昼
恭之介の部屋で昼寝する正也。蝉しぐれ。屋外は猛暑。
正也M「僕はじいちゃんの部屋で昼寝を余儀なくされている。その訳は、家の母屋が改造中なのだ。今でいうリフォームってや
つで、請負った同じ町内に住む大工の留吉さんが、四六時中、出入りをしている(◎に続けて読む)」
○ (フラッシュ) 改造中の子供部屋 昼
金槌で釘を打つ留吉。かなり散らかった子供部屋。
正也M「(◎)離れで寝ている訳は、工事の騒音で安眠できないからだ(◇に続けて読む)」
○ (フラッシュ) 母屋の各部屋 昼
湧水家の台所、居間、奥の間、浴室、洗面所…などの光景。どの部屋でも聞こえる釘を打つ音。
正也M「(◇)僕の家は昔に建てられた平屋家屋だから、まず母屋の、どの場所に寝ても、騒音は防ぎようがないのだ(△に続
けて読む)」
○ もとの離れ 昼
恭之介の部屋で昼寝する正也。蝉しぐれ。
正也M「(△)そんなことで、別棟の離れで昼寝となった訳だが、じいちゃんが扇風機やクーラーを使わないものだから、大層、
迷惑していた」
○ メインタイトル
「夏の風景」
○ サブタイトル
「(第九話) ナス」
○ 台所の裏口 朝
裏口の戸を開け、作業着姿の留吉が元気に入って来る。スリッパに履き換え、台所へ上がる留吉。
留吉 「今日も暑くなりそうですなぁ、奥さん」
未知子「…ええ、倒れるくらい暑いから困るわ(笑って)」
留吉 「ほんとに…。我々、職人泣かせですよ、この暑さは…」
台所を通り過ぎ、子供部屋に向かう留吉。
○ 改造中の子供部屋 朝
子供部屋へ入る留吉。直ぐに鉋(かんな)を手にして、横木を削り始める。ポットのお茶と湯呑み、茶菓子が乗った盆を運ぶ
未知子。未知子の尻について入る正也。
未知子「ここへお茶、置いときますから…」
留吉 「いつも、すいませんなぁ…(削りながら)」
未知子「あと、どのくらいかかりますの?」
留吉 「そうですなぁ…。まあ、秋小口には仕上げるつも
りでおりますが…(手を止め)」
未知子「そうですか…。なにぶん、よろしく…(頭を下げ)」
台所へ去る未知子。そのまま留吉の作業を見遣る正也。正也を見遣る留吉。
留吉 「正ちゃん、ほうれ…、この木屑をやろう。何か作りな(正也の手に渡し)」
正也 「どうも、ありがとう…(留吉から受け取って)」
渡された木屑を大事そうに持ち、部屋を走り去る正也。
○ 台所 朝
畑から帰ってきた恭之介が道子と話している。台所へ入る正也。
恭之介「未知子さん、今年もほら、こんなに成績がいい…(汗をタオルで拭きながら)」
籠に入った収穫したてのトマト、ナス、キュウリなどを自慢して未知子に見せる恭之介。籠の中を見遣る正也。
未知子「お義父さま、助かりますわ。最近はお野菜も結構しますから…(少し、持ち上げて)」
正也を見て、笑顔から真顔に戻る未知子。
未知子「正也、勉強しなきゃ駄目でしょ(やや強く)」
恭之介「そうだぞ正也。こういうふうに、いい成績をな、ワハハ…(賑やかに笑って)」
収穫した紫色に光るナスを片手にして、示す恭之介。ふと、何か思い出したように、離れへ向かう恭之介。
恭之介「それにしても、あの虫除けは、よく効くなあ。全然、刺されなかった…」
恭之介の頭とナスを交互に見る正也。
正也M「じいちゃんの頭とナスの光沢がよく似ている…、と僕は束の間、思った。台所には、じいちゃんの頭ナスが、たくさんあ
り、僕を見ていた」
○ エンド・ロール
つやつやとしたナスの山。
テーマ音楽
キャスト、スタッフなど
F.O
※ 短編小説を脚色したものです。小説は、 「短編小説 夏の風景☆第九話」 をお読み下さい。