≪脚色≫
春の風景
(第十話)小さな幸せ <推敲版>
登場人物
湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
湧水恭一 ・・父 (会社員)[38]
湧水未知子・・母 (主 婦)[32]
湧水正也 ・・長男(小学生)[8]
その他 ・・猫のタマ、犬のポチ
○ とある田園風景 早朝
晴れた空。水田の田植え作業の風景。
正也M「今年も、あちこちで田植えが始まっている。まずは田の中に水が張られ、耕運機がコネクリ回して水田化し、秘密レシピの肥
料等も播(ま)かれる。それが終わると、暫くは水稲苗の到着を待つ。勿論、苗は苗で、苗作り作業がある。昔は手作業で一株
ずつ植えられたようだが、昨今は機械で瞬く間だ」
田植えの終った水田。春風に戦(そよ)ぐ苗。
○ メインタイトル
「春の風景」
○ サブタイトル
「(第十話) 小さな幸せ」
○ 洗い場 早朝
木刀片手に、湧き水で身体を拭く恭之介。ポチの散歩へ出る前の正也。
恭之介「賑やかな音がし出したな。もう、こんな時期になったか…。一年は早い(独り言)」
バタバタして玄関を飛び出してきた恭一。
恭一 「お父さん、行ってきます!(忙しなく)」
後ろ姿の恭一へ言葉を投げ掛ける恭之介。
恭之介「おっ、恭一。今朝は偉く早いじゃないか。何かあったのか?! 飯、食ったか?!」
恭一 「はいっ! 会社の急用でして…!(玄関戸を開けて)」
息を切らしながら言葉を返す恭一。玄関戸を閉め、家外に消える恭一。
恭之介「なんだ、あいつは…(呆れて)。正也、それにしても珍しいな、恭一の奴がこんな早く出るとは」
正也「そうだね…(ポチのリールを持ったまま、可愛く)」
ポチの散歩で、家を出る正也。
正也M「僕も学校があるから、そう長くはじいちゃんの話に付き合ってられない(◎に続けて読む)」
○ C.I 玄関 内 朝
ポチのリードを犬小屋へ繋いだ後、餌をやる散歩帰りの正也。美味そうに食べるポチ。クゥ~ンとひと声、正也を見て鳴く。ニンマリし
て靴を脱ぎ、玄関を上がる正也。
正也M「(◎)ポチの散歩を終え、小屋へ繋いだ後、餌をやる(△)に続けて読む」
○ C.I 台所 朝
片隅に置かれた猫食器に餌を入れる正也。タマが食器を見遣り、ニャ~と鳴く。ニンマリする正也。
正也M「(△)当然、タマにも餌をやる。餌代はお年玉とお小遣等の収益で賄われている。歳入歳出の決算や監査がない、云わば勝手
気儘(まま)なものだ」
○ 台所 朝
食卓を囲む恭一を除く三人。朝食を食べている三人。
恭之介「未知子さん、珍しいですな。恭一が、こんな時間から…(手を止め、斜向かいに座る道子を見て)」
未知子「ええ、…よくは分からないんですけど、社内旅行の幹事の打ち合わせだとか…」
恭之介「えっ! 仕事じゃないんですか? …このご時世に、結構なことだ!(半分、あきれ顔で)」
未知子「はい。でも、あの人、会社での人望は厚く、評判は、いいようですよ」
恭之介「そりゃ、そうでしょう。旅行部長、歓送迎会の宴会部長と、偉いお方なんですから…」
苦笑いして話題を変える未知子。
未知子「田植えのようですね…」
恭之介「はい、今年も始まったようです」
急に、対面の正也をギラッ! と見る未知子。
未知子「正也! 急がないと遅刻するでしょ!」
急いて食べ終え、立つと食器を炊事場へ運ぶ正也。炊事場から恭之介の後ろを通り、子供部屋へ向かう正也。正也を見て、無言で
ニタリと笑う恭之介。
正也M「僕に、とばっちりが飛んできたので、緊急避難を余儀なくされた。じいちゃんの頭の照りは今朝も健在で、少しオーバーぎみの
表現だが、光り輝いて眩いばかりだ。何気ない、春の朝の小さな幸せと、輝く頭…。そんな情景が僕の春を祝福している」
○ エンド・ロール
春の湧水家の遠景。
テーマ音楽
キャスト、スタッフなど
F.O
※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「春の風景(第十話) 小さな幸せ」 をお読み下さい。