水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 春の風景(第九話) 講談  <推敲版>

2010年02月07日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      春の風景
      
(第九話)講談 <推敲版>      

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]


 台所 夜
   連休の夜。テーブル椅子に座っている恭之介、恭一、正也。熱弁を、ふるう恭之介。仕方なく聞い
ている恭一と正也。隅の寝床で五月
   蠅いなあ…とばかりに、頭を布に突っ込んで眠るタマ。
  恭之介「やあやあ、心あらん者は、聞いてもみよ! 我が祖先、今を遡(さかのぼ)らんこと四
百と有余年。三河守、徳川家康公の家臣
       にて、四天王にその人有りと謳(うた)わ
れし、赤の備えも麗しき、井伊が兵部直政公!(パパン、パンパン! と張り扇風に
       手でテーブルを叩き)。
その御(おん)殿に名を賜りしは…」
  正也M「僕が訊ねたのが拙(まず)かった。じいちゃんは勢いづいて、得意中の得意をひと節、
ドウタラ、コウタラ…と長々、ガナリだした。
       こうなれば、誰だって止めることは不可能
だ。恐らくは、天皇陛下や総理大臣が頼み込んでも、やめないのではないか…」
   一瞬、首を恭之介の反対へ振り、小さな欠伸をする正也。一瞬、テーブル上の新聞に眼を遣
る恭一。台所に掛かった『 極 上 老 
   麺 』の額。炊事をする未知子。講談調の恭之介。聞
かされる破目に陥った恭一と正也。

○ メインタイトル
   「春の風景」

○ 
サブタイトル
   「
(第九話) 講談」

○ (回想) 台所 夜
   夕食後。食卓テーブルを囲む恭之介、恭一、正也。炊事場で洗い物をしている未知子。
 正也M 「さて、何故こんな講談を聞かされる仕儀に立ち至ったのかという経緯を、冷静に解
説しよう」
   恭之介へ何やら語っている恭一。見遣る他の三人。
  恭一  「…そんなことで、他の人の不幸を尻目にのんびりした湯治をさせて戴いたというよう
なことで…」
  恭之介「それは、なによりだ」
  恭一  「地方道をバスで走ったのが、よかったみたいです。高速はバス事故で渋滞、それも
私らと同じ温泉の宿泊客の団体でして…
       (勇んで話しをして)」
  恭之介「ほうほう…(関心ありげに)」
  恭一  「更に、その団体客が旅館をキャンセルしましてね。余った料理を只(ただ)、同然のサ
ービスで戴いたというようなことで…(得
       意満面に)」
   会話する二人。聞く道子と正也。
  正也M「そこ迄は、じいちゃんの講談とは何の関係もないのだが、次のじいちゃんのひと言が
引き金となった」
  恭之介「ほお…、不幸を尻目に幸せ旅か…。まあ、夫婦水入らずで、結構なことだ」
  恭一  「なんか嫌味に聞こえるんですよね、父さんの云い方は…。仕方ないじゃないです
か」
  恭之介「儂(わし)は何も云っとりゃせんだろうが…。だいたい、我が血筋にはな、そんな小事
をやっかむような者は、おりゃせんのだ
       っ!」
  正也  「じいちゃん、僕ん家(ち)は、そんなに古いの?」
  恭之介「古いの? だと、正也殿。では、前にも聞いたと思うが、じいちゃんがその辺りを語って
進ぜよう…」
   長々と語り出す恭之介。
  正也M「そんな流れで、十分程は延々と講談が語られることになった訳である」
   聞かされる二人。
   O.L

○ もとの台所 夜
   O.L
   聞かされ少し、だれている二人。
  正也  「そうか…(可愛く相槌を打つように)」
  正也M「じいちゃんは喉が渇いたのか、一気に湯呑みのお茶を飲み干した。僕は、じいちゃん
を労(ねぎら)わないと、また機嫌を損ねる
       のではと感じたので、分かりもしないのに
一応の相槌を打っておいた。風邪予防のワクチン注射のようなものだ」
   饅頭を入れた菓子鉢を持ってテーブルへ近づく未知子。
  未知子「お父様、お土産の温泉饅頭でも摘まんで下さいな」
  恭之介「いやあ…。丁度、甘いものが欲しいと思っておったところです、道子さん(満面に笑
みをたたえ、未知子を見ながら蛸のような頭を
      
手で、こねくり回し)」
  正也M「光を放つじいちゃんの頭は、云わば、仏様の光背にも似て、その衰えるところを知ら
ない。僕は危うく、その有難い頭に合掌す
       るところだった」

○エンド・ロール
   饅頭を食べながら談笑する四人。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「春の風景(第九話) 講談」  をお読み下さい。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

残月剣 -秘抄- 《剣聖③》第二十四回

2010年02月07日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖③》第二十四回
表門と裏門は、がっしりと閉ざされているから、賊が逃げるとすれば四方を囲う小高い土塀を飛び越え、外部へ出る以外にはない。二人はひとまず表門へと向かった。その頃、賊を追う長沼は表門から右折して道場の裏手へと続く細道を走っていた。当然、賊はその前を逃げ走る。左馬介と鴨下は長沼を追っているのだが、長沼の姿が見えている訳ではない。気配や僅かな音を手掛りに後を追っているのである。その辺りが、賊を見ながら
追う長沼とは違った。
 左馬介と鴨下が長沼の姿を捉えた時、長沼は賊を土塀前にい込んでいた。蛇に睨まれた蛙とはよく云ったもので、賊は一歩も動けない。左馬介が見たところ、第一感は浪人崩れである。賊だけではなく、長沼も動かずに賊を鋭く見つめるだけだから、その場の時が停止したように左馬介の眼には映った。賊は外への脱出を試みようと眼(まなこ)だけを右や左と動かせ、手段を探る。だが、小高い土塀は容易に飛べ越せそうになく、もはやこれまでかと観念たやに左馬介には感じられた。然、長沼の気迫が賊を威圧したことも事実に違いなかったのだが…。土塀と土塀との隙で僅かに窪んだ部分があった。そこだけは恰(あたか)も鍵穴の如く凹んいる。賊はその凹みに身を委ねて、左右と後方の安全を計るが、逆に考えれば袋の鼠なのである。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする