水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 夏の風景 特別編(下) 怪談ウナギ(1) <推敲版>

2010年02月25日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
       特別編
(下)怪談ウナギ(1) <推敲版>              

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
 
  その他   ・・猫のタマ、犬のポチ、妖怪鰻(うなぎ)[正也の夢に登場]

○ 湧水家の全景 昼
   灼熱の輝く太陽。屋根の上に広がる青空と入道雲。

○ 洗い場 昼
   日蔭で寝そべり、涼を取るタマとポチ。滾々と湧く冷水。

○ 離れ 昼
   恭之介の部屋の定位置で昼寝をする正也。蝉しぐれ。
  正也M「今日も茹(う)だっている。外気温が優に三十五度はある。僕は洗い場で水浴びをした
後、昼寝をしよとしている。滾々と湧き出
       る冷水のお蔭で僕の体温は、かなり低くな
り、生温かい畳が返って心地よいくらいだ(◎に続けて読む)」
   熟睡する正也。

○メインタイトル
   「夏の風景」

○ 
サブタイトル
   「特別編
(上) 怪談モドキ」

○ 書斎 昼 
   書斎の長椅子に横たわり、顔を本で覆って眠る恭一。スイッチの入ったままのクーラー。
  正也M「(◎)父さんは日曜ではないが、夏季休暇で書斎へ籠り、恐らくはクーラーを入れた
まま読みかけの本を顔に宛行いつつ、長
       椅子で寝ている筈だ(◇に続けて読む)」

○ 離れ 昼
   うらめしそうに外を見ながら、団扇をバタバタ扇ぐ恭之介。時折り、流れる汗を手拭いで拭
く。
  正也M「(◇)じいちゃんも、たぶん離れで団扇バタバタだろう」

○ 玄関 内 朝 回想
   出かけようと靴を履く盛装した未知子。見遣る正也。犬小屋で薄目を開け、また閉じるポチ。
  未知子「役員だから仕方がないわ…。正也、あとは頼むわね(バタついて)」
  正也  「うん…」
  正也M「母さんだけはPTAの集会で昼前に家を出たが、御苦労なことだ」
   玄関を出た未知子。閉じられた表戸。
   O.L

○ 玄関 内 昼
   O.L
   開けられる表戸。玄関を入る未知子。台所から走ってくる正也。
  正也M「母さんは五時前に帰ってきた。途中で鰻政に寄ったようで、手には鰻の蒲焼パックを
袋に入れて持っていた」
  正也  「お帰り!(可愛く)」
  未知子「今日は土用の丑だから、夕飯は鰻にしたわ…。それにしても高くなったわね…」
  正也M「そんな苦情を僕に云ったって、物価が高くなったのは僕のせいじゃない。まあ、そんな
ことは夕飯の美味しい鰻丼を賞味して忘
       れたのだが…」

○ 子供部屋 夜
   リフォームされた部屋。布団で眠る正也。
  正也M「その夜、僕は怖い夢を見た。熱帯夜だったこともあり、寝苦しさから一層、夢を見や
すい状況だったと推測される。状況は兎も
       角として、夢の内容は実に怖いものだっ
た。今、思い出しながらお話ししても、身体が震えだすほどである」

○ ≪正也の夢の中≫ 武家屋敷 玄関 夕方
   江戸時代。侍姿の恭之介。その後ろに従う侍姿の恭一。
  正也M「夢で見た僕の家は江戸時代のお武家だった。じいちゃんは二本差しの颯爽とした武
士の出で立ちで、城から戻った風だっ
       た。じいちゃんの直ぐ後ろには、小判鮫のよう
に、これも武士の身なりの父さんが細々と付き従っていた」
  恭之介『今、立ち戻った!』
   出迎える武家の奥方の容姿の未知子。稚児姿の正也。
  未知子『お帰り、なさいまし…』
  正也  『お帰り、なさい? …』 

○ ≪正也の夢の中≫ 同 部屋 夜
   膳を囲んで夕餉を食べる家族四人。鰻の乗った皿。賑やかに笑う侍姿の恭之介。
  恭之介『この鰻は、実に美味じゃのう…(笑顔で)』
   楽しそうな四人。

○ ≪正也の夢の中≫ 同 子供部屋 夜
   布団で眠る稚児姿の正也。妖怪鰻が現れ、正也を揺り起こす。目を開ける正也。正也を驚
かす妖怪鰻。
  妖怪鰻『ヒヒヒ…お前が食べた鰻は、この儂(わし)じゃあ。このままでは成仏、出来ず、化け
て出たぁ~』
  正也  『僕の所為じゃない~!(喚いて)』
   問答無用と、正也の首を両手で絞めつける妖怪鰻。
  正也M 「これも今、思えば妙な話で、鰻に手がある訳もなく馬鹿げているのだが、夢の話だか
ら仕方がない」
  正也  『ど、どうすれば許して貰えるの?』
  妖怪鰻『儂の息子が斯(か)く斯くしかじかの小川で干上がりかけているから、助けてくれるな
らば一命は取らずにおいてやろう…(偉
       そうに)』
  正也  『そ、そう致します…』
  正也M「鰻に偉そうに云われる筋合いはない、とは思ったが、息苦しかったので、そう致しま
す…などと敬語遣いで命乞いをしたよう
       だった。怖かったのは、その小川を僕が知っ
ていたことである」

○ もとの子供部屋 夜
   うなされ、目覚める正也。目覚ましを見る正也。二時半過ぎを指す時計。また目を閉じ、布団
を被る正也。眠る、布団の中の正也。
   O.L

○ 子供部屋 早朝
   O.L
   目覚める、布団の中の正也。
  正也M「その後、寝つけなかったものの、早暁には、まどろんで朝を迎えた。枕元は気のせい
か、多少、畳が湿気を帯びて生臭かった」

○ 洗面所 早朝
   パジャマ姿で歯を磨く正也。離れから手拭いを提げて現れる恭之介。
  恭之介「おっ! 今朝は儂(わし)と互角に早いぞ、正也」
  正也  「なんか、よく寝られなかったんだ…」
  恭之介「そうか! 昨日は、熱帯夜だったからな。実は儂も、そうだ(笑って禿げ頭を片手で、こ
ねくり回し)」
  正也  「それにさ、怖い夢を見たよ…」
  恭之介「ふーん…、どんな夢だ?」
   昨夜、見た夢の子細を恭之介に話す正也。
  正也M「僕は昨日の、おどろおどろしい夢の一部始終を洗い浚(ざら)い、じいちゃんに語っ
た」
  恭之介「ほう…、それは△§Φ▼フガ…。√∬▲フガフガガした方が◆★フガだろう」
  正也M「じいちゃんは顔を洗って入れ歯を外したから、こんな口調となった。入れ歯語の通訳
をすれば、『ほう…、それは怖かったろう
       な。そのお告げのようにした方がいいだろ
う』と、なる」

                                   ≪つづく≫


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残月剣 -秘抄- 《教示①》第十四回

2010年02月25日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《教示①》第十四回
 声か響いて間もなく、左馬介の眼前に幻妙斎の座す姿が小さく現れた。距離からすれば、そう離れているようにも思えないが、それでも間近かというのでもない。左馬介は師の姿を見て歩を速めた。それに伴い、幻妙斎の姿は次第に大きさを増していく。やや慢な上り勾配の前方に、焚き木を燃して暖をとる幻妙斎の白髪の
姿が橙色に浮かんで揺れていた。
 そして遂に、左馬介は幻妙斎が座す平坦な岩場まであと十数歩の所へ近づいた。幻妙斎と対峙する為には、石段状に上へと続く天然の岩場を登れば事は足る。が、その時、左馬介の気配を察知した幻妙斎が静かに両瞼を開けると、立ち上がって下の左馬介を見据えた。岩場を上がろうと仰ぎ見た左馬介の目線が、その見据えた師の眼差しと一瞬、合った。距離にして二間(けん)ばかりである。そして次の瞬間、幻妙斎は腰を低くして傍らに置いた木刀を鷲摑みにすると、下より少しずつ岩場を踏みしめて登る左馬介に向け勢いよく投げつけた。それも一瞬の出来事であった。驚いたのは左馬介である。上から速さを増して落ちる木刀を、咄嗟(とっさ)に素手で摑んでいた。恐らく他の門弟ならば身体を避け、木刀は岩場に転がって激しい音を発していたに違いなかった。それは矢張り、永年に渡る隠れ稽古の成果だといえた。


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