≪脚色≫
夏の風景
特別編(下)怪談ウナギ(1) <推敲版>
登場人物
湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
湧水恭一 ・・父 (会社員)[38]
湧水未知子・・母 (主 婦)[32]
湧水正也 ・・長男(小学生)[8]
その他 ・・猫のタマ、犬のポチ、妖怪鰻(うなぎ)[正也の夢に登場]
○ 湧水家の全景 昼
灼熱の輝く太陽。屋根の上に広がる青空と入道雲。
○ 洗い場 昼
日蔭で寝そべり、涼を取るタマとポチ。滾々と湧く冷水。
○ 離れ 昼
恭之介の部屋の定位置で昼寝をする正也。蝉しぐれ。
正也M「今日も茹(う)だっている。外気温が優に三十五度はある。僕は洗い場で水浴びをした後、昼寝をしよとしている。滾々と湧き出
る冷水のお蔭で僕の体温は、かなり低くなり、生温かい畳が返って心地よいくらいだ(◎に続けて読む)」
熟睡する正也。
○メインタイトル
「夏の風景」
○ サブタイトル
「特別編(上) 怪談モドキ」
○ 書斎 昼
書斎の長椅子に横たわり、顔を本で覆って眠る恭一。スイッチの入ったままのクーラー。
正也M「(◎)父さんは日曜ではないが、夏季休暇で書斎へ籠り、恐らくはクーラーを入れたまま読みかけの本を顔に宛行いつつ、長
椅子で寝ている筈だ(◇に続けて読む)」
○ 離れ 昼
うらめしそうに外を見ながら、団扇をバタバタ扇ぐ恭之介。時折り、流れる汗を手拭いで拭く。
正也M「(◇)じいちゃんも、たぶん離れで団扇バタバタだろう」
○ 玄関 内 朝 回想
出かけようと靴を履く盛装した未知子。見遣る正也。犬小屋で薄目を開け、また閉じるポチ。
未知子「役員だから仕方がないわ…。正也、あとは頼むわね(バタついて)」
正也 「うん…」
正也M「母さんだけはPTAの集会で昼前に家を出たが、御苦労なことだ」
玄関を出た未知子。閉じられた表戸。
O.L
○ 玄関 内 昼
O.L
開けられる表戸。玄関を入る未知子。台所から走ってくる正也。
正也M「母さんは五時前に帰ってきた。途中で鰻政に寄ったようで、手には鰻の蒲焼パックを袋に入れて持っていた」
正也 「お帰り!(可愛く)」
未知子「今日は土用の丑だから、夕飯は鰻にしたわ…。それにしても高くなったわね…」
正也M「そんな苦情を僕に云ったって、物価が高くなったのは僕のせいじゃない。まあ、そんなことは夕飯の美味しい鰻丼を賞味して忘
れたのだが…」
○ 子供部屋 夜
リフォームされた部屋。布団で眠る正也。
正也M「その夜、僕は怖い夢を見た。熱帯夜だったこともあり、寝苦しさから一層、夢を見やすい状況だったと推測される。状況は兎も
角として、夢の内容は実に怖いものだった。今、思い出しながらお話ししても、身体が震えだすほどである」
○ ≪正也の夢の中≫ 武家屋敷 玄関 夕方
江戸時代。侍姿の恭之介。その後ろに従う侍姿の恭一。
正也M「夢で見た僕の家は江戸時代のお武家だった。じいちゃんは二本差しの颯爽とした武士の出で立ちで、城から戻った風だっ
た。じいちゃんの直ぐ後ろには、小判鮫のように、これも武士の身なりの父さんが細々と付き従っていた」
恭之介『今、立ち戻った!』
出迎える武家の奥方の容姿の未知子。稚児姿の正也。
未知子『お帰り、なさいまし…』
正也 『お帰り、なさい? …』
○ ≪正也の夢の中≫ 同 部屋 夜
膳を囲んで夕餉を食べる家族四人。鰻の乗った皿。賑やかに笑う侍姿の恭之介。
恭之介『この鰻は、実に美味じゃのう…(笑顔で)』
楽しそうな四人。
○ ≪正也の夢の中≫ 同 子供部屋 夜
布団で眠る稚児姿の正也。妖怪鰻が現れ、正也を揺り起こす。目を開ける正也。正也を驚かす妖怪鰻。
妖怪鰻『ヒヒヒ…お前が食べた鰻は、この儂(わし)じゃあ。このままでは成仏、出来ず、化けて出たぁ~』
正也 『僕の所為じゃない~!(喚いて)』
問答無用と、正也の首を両手で絞めつける妖怪鰻。
正也M 「これも今、思えば妙な話で、鰻に手がある訳もなく馬鹿げているのだが、夢の話だから仕方がない」
正也 『ど、どうすれば許して貰えるの?』
妖怪鰻『儂の息子が斯(か)く斯くしかじかの小川で干上がりかけているから、助けてくれるならば一命は取らずにおいてやろう…(偉
そうに)』
正也 『そ、そう致します…』
正也M「鰻に偉そうに云われる筋合いはない、とは思ったが、息苦しかったので、そう致します…などと敬語遣いで命乞いをしたよう
だった。怖かったのは、その小川を僕が知っていたことである」
○ もとの子供部屋 夜
うなされ、目覚める正也。目覚ましを見る正也。二時半過ぎを指す時計。また目を閉じ、布団を被る正也。眠る、布団の中の正也。
O.L
○ 子供部屋 早朝
O.L
目覚める、布団の中の正也。
正也M「その後、寝つけなかったものの、早暁には、まどろんで朝を迎えた。枕元は気のせいか、多少、畳が湿気を帯びて生臭かった」
○ 洗面所 早朝
パジャマ姿で歯を磨く正也。離れから手拭いを提げて現れる恭之介。
恭之介「おっ! 今朝は儂(わし)と互角に早いぞ、正也」
正也 「なんか、よく寝られなかったんだ…」
恭之介「そうか! 昨日は、熱帯夜だったからな。実は儂も、そうだ(笑って禿げ頭を片手で、こねくり回し)」
正也 「それにさ、怖い夢を見たよ…」
恭之介「ふーん…、どんな夢だ?」
昨夜、見た夢の子細を恭之介に話す正也。
正也M「僕は昨日の、おどろおどろしい夢の一部始終を洗い浚(ざら)い、じいちゃんに語った」
恭之介「ほう…、それは△§Φ▼フガ…。√∬▲フガフガガした方が◆★フガだろう」
正也M「じいちゃんは顔を洗って入れ歯を外したから、こんな口調となった。入れ歯語の通訳をすれば、『ほう…、それは怖かったろう
な。そのお告げのようにした方がいいだろう』と、なる」
≪つづく≫