水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 春の風景(第四話) 催花雨  <推敲版>

2010年02月02日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      春の風景
      
(第四話)催花雨 <推敲版>         

    登場人物

   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]


○ 台所 夜
   夕食後。食卓テーブルの椅子に座ってテレビの天気予報を観る恭一と斜向かいの正也。画面の気象予報官
の声。

○ メインタイトル
   「春の風景」

○ サブタイトル
   「
(第四話) 催花雨」

○ 同  夜
   食卓テーブルの椅子に座ってテレビの天気予報を観る恭一と斜向かいの正也。画面の気象予報官の声。
  正也M「某局のテレビニュースが、いつもの天気予報を流した。その中で、予報官が、催花雨
(さいかう)という文言(もんごん)について
       説明した(◎に続けて読む)」
   テレビを消し、席を立つ恭一。居間へ向かう恭一。

○ 居間 夜
   居間へ入る恭一。庭側の畳上の座布団で将棋盤を前に、待つとはなしに待つ風呂上がりの恭之介。
その対面の座布団へ、待たした
   風でもなく座る恭一。居間へ入る正也。
長椅子に座り、新聞を大人びて読む正也。
  正也M「(◎)何でも、花の開花を促す雨だそうで、なんだか日本情緒がヒタヒタと感じられる最高の
言葉のように思えた。最高雨(サイ
       コウウ)と僕には聞こえたこともある」
   どちらからともなく、駒を盤上に並べ始める二人。
  恭一  「今年は、もう桜が咲き始めたようですよ(駒を並べながら)」
  恭之介「…だなあ。次の雨で上手くいくと咲くか(庭を見て、駒を並べながら)」
  正也M「最近、二人の将棋は急に駒を並べることで始まり、無言で駒を仕舞い始めて終わる
ことが多い。今夜もその類(たぐ)いで、どう
       も二人には暗黙の了解とかいう意思の疎
通が出来ているようなのだ」
   炊事場で洗い物をしながら話す未知子。
  [未知子] 「正也! 早く入ってしまいなさい!(少し声高に)」
  正也  「… …うん(新聞を読みながら渋々、立って)。無言で将棋を指し始めた恭之介と恭
一。恭之介と恭一の前を通り、縁側の渡り
       廊下へ出る正也。盤面に釘づけの二人。
  正也M「二度目の催促だから、母さんの声はやや大きさを増した。『催花雨じゃなく、催促湯
だな…』と不満に思いつつも僕は風呂場
       へと向かった。二人の横を通り過ぎると、
既に大一番は佳境に入ろうとしていて、じいちゃんの顔は、風呂上がりということも
       
あるが、茹(ゆだ)った蛸のように真っ赤で美味そうだった。父さんは? と見ると、い
つもの白い顔が、逆に蒼みを帯びていた」
   真っ赤な恭之介の顔と蒼白い恭一の顔。

○風呂場 夜
   ゆったりと心地よく、浴槽の湯に浸かる正也。終い湯で風呂の掃除をする正也。
 正也M 「風呂番は僕の月だった。去年と変わった点は、母さんも風呂番に加入したことだ。
そして、最後の者が風呂掃除をする仕組
       みだ。この議案は僕が提案し、採決の結
果、全員一致の承認を得た案件だから、今月の僕は終い湯の後、掃除という労働に
       
汗している」

○ 台所 夜
   風呂を上がり、台所へ入る正也。冷蔵庫を開け、ジュースをコップへ注いで飲む正也。
  正也M「さて、掃除を終えて風呂場を出ると、唯一の楽しみのジュースが僕を待っている」
   
飲みながら、居間へ向かう正也。

○ 居間 夜
   居間へ入り、長椅子に座る正也。
  正也M「居間へジュースを飲みながら戻ると、二人は未だ盤面に釘づけだった」
  正也  「今日は、どう? じいちゃん」
  恭之介「ははは…、一勝一敗で、これだっ…(盤面を見据えたまま)」
  正也  「ふ~ん…(無表情で、立ちながら)」
   コップを持ったまま立つ正也。二人を横切り、渡り廊下から子供部屋へ向かう正也。正也の
背後から声を掛ける恭一。
  恭一  「(正也を見て)おい正也、ビールのツマミを冷蔵庫から…。(恭之介を見て)ちょっと、
これ…待って下さい(頼み込んで)」
  恭之介「いや、待てん! 武士なら切腹ものだっ!」
   二人が云い合っている隙に、忍び足で居間を抜ける正也。
  正也M「じいちゃんも、かなり依怙地になっていて、一歩も譲らない。僕はその隙に忍び足で
居間を退去した」

○ エンド・ロール
   いつの間にか笑い合う恭之介と恭一の姿。
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど
   F.O


※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「春の風景(第四話) 催花雨」 をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《剣聖③》第十九回

2010年02月02日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖③》第十九回
一方、左馬介には寸分の息の乱れも生じていない。これだけ比べても、腕の差は疑いようがないのだ。それでも左馬介は有頂天になるような心持ちにはならなかった。入門した頃の左馬介ならば、果たしてどうだったか…と考えれば、それは大いに疑問となるが、一年半の修練の日々は、心技ともに左馬介を成長させたと云えた。左馬介が剣聖への道を加速しだしたのは、丁度、この頃のことである。
 厳寒の冬は道場の床板も凍てついたように冷えきっている。正月が明ければ、またぞろ稽古の日々が続いてゆく。鴨下も幾らか堀川に慣れはしたが、腕は誰の眼にも今一で、左馬介を弱らせていた。この男、決して悪い奴じゃない…とは左馬介にも分かるのだが、自分の腕が冴えれば冴えるほど、組相手としては相応でなくなっていく。だから、る意味、辛くもあった。賄いの準備で厨房にいる時は、取り分け腹立たしくもなく優しい気分で接せるのだが、稽に入ればそうした心が萎えて疎(うと)ましくなるのである。せめて兄弟子の長谷川や山上ぐらい遣えるお方ならばとは思うが、無理なようだと諦めたくなるような拙い打ち込みや掛かりの時は、特にそう思える左馬介であった。しかし、そういった想念は、幻妙斎が説く剣聖への道には程遠い境地なのだ。人は人、自分は自分だと悟れば、それはそれで気にならなくなるのである。


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