水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 春の風景 特別編(上) 麗らか(1) <推敲版>

2010年02月09日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      春の風景

       特別編
(上)麗らか(1) <推敲版>     水本爽涼 歳時記-2011 オウバイ
    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]


 湧水家の庭  昼
   快晴の昼。軒の庇から伝い落ちる雪解け水。綺麗に咲いたオウバイ、紅梅の庭木。手入
れされた日本庭園。
  正也M「雪解け水がポタッ・・ポタッと屋根から伝って落ちる。オウバイは黄色い蕾を開け始
め、紅梅も負けまいと、両者は競っていい
       勝負だ(◎に続けて読む)」

○ 家前の畑 昼
   積雪の上に所々、顔を出した蕗の薹(とう)。
  正也M「(◎)今年は珍しく名残りの雪が遅く降ったのだが、そうは云っても、今日からは、もう
三月だ。すぐに姿を消すであろう所々の
       雪の敷布。その上に、黄緑色の蕗の薹が
楚々と顔を出している」

○ メインタイトル
   「春の風景」

○ サブタイトル
   「特別編
(上) 麗らか」

○ 玄関 外  昼
   元気よく、下校してきた正也。玄関戸前で立ち止まり足の長靴を見る。泥まみれになった長
靴。
  正也M「中途半端な雪で、長靴がすっかり泥んこになりサッパリだ。しかし、この程度の雪が
景観としては一番、情緒があるようにも思
       え、僕は好きだ。要は一勝一敗なのであ
る。僕に好かれても雪は困ってしまうだろうし、雪女となって肩を揉みに来られても、

       と困ってしまうのだが…」
   玄関戸を開け、外へ出てきた恭之介。
  恭之介「おお…正也、お帰り。ど~れ、蕗の薹でも取って、未知子さんに味噌にして貰おう…。美
味いぞぉ~」
   云った後、ワハハハ…豪快に笑う恭之介。その恭之介を見上げる正也。
  正也M「確かに、この時期の蕗の薹味噌は、熱い御飯の上へ乗せて食べると絶妙の味を醸
し出すのである。しかし、じいちゃんの笑
       顔は、後日、湿っぽい顔になった」

○ 庭  早朝
   剣道の稽古をする恭之介と正也。響く二人の声。
  正也M「僕は日曜なので当然、家にいた。起きると、いつもの早朝稽古でじいちゃんと一汗、
掻いた」

○ 台所 朝
   食卓テーブルで朝食を食べる家族。がっつりと食べている恭之介と正也。突然、手を止
め、顔を顰める恭之介。
  未知子「お父様、どうかされました?(斜向かいの恭之介を見遣って)」
  恭之介「えっ? …いや、なに…、大したこっちゃありません…」
   咀嚼を止める恭之介。見遣る恭一、未知子、正也。徐(おもむろ)に箸と茶碗をテーブルへ置
き、手を口へと運ぶ恭之介。次の瞬間、口
   から指に摘まんだ一本の歯を取り出し、即座にポ
ケットへ入れる恭之介。
  正也M「決してマジックなどではない。じいちゃんの入れ歯の一本が離脱したのだった(△に
続けて読む)」   
   残った茶碗の飯を、茶漬けにして口へ流し込む恭之介。最後に長い舌を出し、フリカケを舐
める。早々と席を立つ恭之介、無言で離
   れへと急ぐ。唖然として恭之介の後ろ姿を見遣る
三人。

○ 離れ 朝
   部屋前の渡り廊下で、入れ歯を外して注視する恭之介。一本、抜けおちた入れ歯。ガラス
越しに陽に翳(かざ)す恭之介。
  正也M「(△)じいちゃんは前回の餅の時で懲りたのか、歯医者へは行かない日が続いた。僕
も、まあ一本くらい抜けたって入れ歯だし
       不都合もないだろう…と、軽く踏んでいた」

○ 台所 朝
   食卓テーブルで朝食を食べる家族。T 三日後。テンション高く食事する正也。テンション
が低い恭之介。急に咀嚼を止める恭之介。
   口へ手を遣り、数本の抜け歯を取り出す恭之
介。三日前と同じように、茶漬けで食べ急ぐ恭之介。
  正也M「物事は、しっかりと帳尻を合わせておかないと、偉い事になるようだ。僕はそのこと
を、入れ歯から思い知らされた格好だ。じい
       ちゃんの入れ歯は、ボロボロッと抜け落ち
た」
  正也  「じいちゃん、大丈夫?(心配そうに)」
  恭之介「フガッ、フガガッ! [なにっ、大事ない ! ](少し、怒り口調で云い、席を急いで立ち)」
   離れへ去る恭之介。恭之介を見遣る三人。
  正也M「こうなっては流石のじいちゃんも放ってはおけない(◇へ続けて読む)」

                                   ≪つづく≫


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残月剣 -秘抄- 《剣聖③》第二十六回

2010年02月09日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖③》第二十六回
 その姿が土塀より消え去った後、左馬介は師への神威性を改めて認識するのだった。
 この日は名残りの雪が時折り舞う寒い日で、外気の冷えは尋常ではなく、その場にいる全員を包み込む。痺れを切らした賊が突如として疾駆した。幻妙斎の厳命があった以上、三人は動こうとて動けない。賊が消え去るのを茫然と見過ごすのみである。裏門へ賊が回ったことは分かっている。分かってはいるが飽く迄、手を拱(こまね)いて看過せねばならないというのは流石にもどかしい。が、師の命は甘受せねばならず、じっと我慢して三人は各々の部屋へと引き揚げた。

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 二年後、妙義山の頂きの雪も消え、麓(ふもと)に春が巡った。現場の門弟の数は当初、左馬介が予想した通り鴨下以降の新入りはなく、既に長谷川、鴨下、そして左馬介の三名に減少していた。樋口静山のみは客人身分となった後も時に触れて顔を見せたが、他の者達は顔すら見なくなって久しかった。蟹谷や井上は七年を過ぎて道場を去り、大男の神代もこの春には道場を去ることになっている。塚田、長沼、山上は樋口と同期客人身分だから稽古には当然ながら顔を出さなくなっていた。


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