水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 春の風景 特別編(下) コラボ(1) <推敲版>

2010年02月11日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      春の風景

       特別編
(下)コラボ(1) <推敲版>       

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   
その他   ・・猫のタマ、犬のポチ

○ とある小川 昼
   レンゲ、タンポポの花が咲く野原と草の生えた土の道。小川と呼ぶには細過ぎる畦のせせ
らぎで遊ぶ正也。そよ風が吹いている田
   園風景。ポカポカとした陽気。広がる青空。輝く太
陽。
  正也M「風が流れていた。心地いい、そよ風だった。文明が進んで科学一辺倒の世の中にな
った光景が、日々、テレビ画面に溢れる
       時代になったが、僕からすれば、まるで絵空
事で、♪ 春のぉ小川はぁ~さらさら行くよぉ~ ♪ (唄って)なのだ」

○ メインタイトル
   「春の風景」

○ サブタイトル
   「特別編
(下) コラボ」

○ 玄関 内  夕方
   玄関の戸を開けて入る正也。框(かまち)に腰を下ろし、靴を磨く恭一。犬小屋で熟睡中のポ
チ。
  正也  「…ただいま!」
  恭一  「おお、正也か…」
  正也M「家に入ると、父さんが珍しく革靴を磨いていた。まあ、商売道具の一つであろうし、一
応は父さんも人の子で、世間体が気にな
       るとみえ、磨いているようだった。まさか、
出世に差し障りがあるから…と考えてのことではないだろうと思う」
   框(かまち)へ近づく正也。黒い靴クリームを革靴に塗る恭一。
  恭一  「もうじき、夕飯だぞ(靴クリームを塗りながら)」
  正也  「うん…(可愛く)」
   框(かまち)へ上がろうと、靴を脱ぎかける正也。
  恭一  「お前はいいなあ…(ボソッと)」
  正也  「えっ? 何が、いいの?(可愛く)」
  恭一  「だって、そうだろ? お前の靴は運動靴だし、汚れて幾ら、のもんじゃないか。磨かな
くてもいいんだからなあ…(ボヤき口調
       で)」
   聞かなかった素振りで居間へ向かう正也。それ以上は語らず、黙ってブラシで靴を磨く恭
一。

○ 居間 夕方
   居間へ入り、長椅子に座る正也。庭を見ながら畳上の座布団に座っている恭之介。畳上の
座布団で背を上下させて熟睡しているタ
   マ。
  恭之介「おお正也、帰ってきたか…。今日は鰆(さわら)の味噌焼らしいぞ。未知子さんが、そう
云っていた…(嬉しそうな声で)」
  正也  「えっ? 鰆がいいの? 味噌焼は銀鯥(むつ)が一番だって、いつか云ってたじゃな
い、じいちゃん」
  恭之介「ははは…(笑って)。まあ、そう云うな。銀鯥は銀鯥。だが、鰆も鰆だけのことはあ
る…」
   靴を磨き終え、居間へ入る恭一。
  恭一  「まあ、革靴と運動靴の違いみたいなもんだ、正也(小声で笑いながら長椅子へ座
り)」
   恭一の言葉と同時に大笑いする恭之介。
  恭之介「ほう、恭一…。少し意味は違うが、お前にしては上手く云った」
  恭一  「それはないですよ、父さん(恐縮して)」
   互いに顔を見合わせて大笑いする恭之介と恭一。黙って二人を交互に見遣る正也。
  正也M「靴と味噌焼が妙なところでコラボして、父さんとじいちゃんを仲よくさせたのだった。
こういうことは結構よくある。先だっても、
       こういうことがあった」

○ (回想) 渡り廊下 夜
   身を潜めるように、ひそひそ話をする恭一と未知子。
  恭一  「お前は、そう云うがなあ…」
  未知子「そんなに気にすることはないわよ。高(たか)が一日のことじゃない。使わなきゃ、い
いのよ」
  恭一  「ああ…そりゃまあ、そうだが…」

                                  ≪つづく≫


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残月剣 -秘抄- 《剣聖③》第二十八回

2010年02月11日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖③》第二十八回
だから左馬介が鴨下と組み終わると、鴨下に替わり左馬介と組む。そして、その稽古が終わり左馬介が抜ければ鴨下と組み、次に鴨下が抜け左馬介が入るという形をとった。要は三人が一人ずつ順に抜けては入るという形である。腕の上達がからっきしだった鴨下も、二年を過ぎた頃からは多少、増しになっていた。とはいっても、左馬介に及ばないのは当然で、堀川者とは、とても呼べぬ腕前であった。
 左馬介は相も変わらず隠れ稽古に明け暮れ、剣聖への道を模していた。そのことが彼をして堀川一の遣い手と云わしめる因となったことは語るに及ばない。
「少し休みますかな?」
 師範代となった長谷川も、ここ最近は左馬介に敬語遣いである。
先輩なのだし、増してや師範代なのだから呼び捨てても良さそうなものなのだが、長谷川はそうしない。今朝も敬語遣いで左馬介へ語り掛けた。今年、重苦になる左馬介はもう少年ではなく立派な青年なのである。しかも腕は堀川一なのだからそれも宜(むべ)なるかな…なのである。増してや鴨下に至っては長谷川以上に丁重に話さねば・・と思えたのか、かなり低姿勢になっていた。左馬介にとっては、返ってそのことが重荷となり辛かった。かといって無下に応じるというは左馬介の本意ではない。今迄通りの敬語で受け答えする左馬介であった。だが、剣の道は別個のものである。強かろうと弱かろうと手加減はしない、それが剣聖への道に通じると左馬介は堅く信じていた。

                                                      剣聖③ 完


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